変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第19話「あ、オレ、異世界に転移するラノベとか大好きでさ!」

エピソードの総文字数=5,540文字

 コロッケを片手に持ちながら、由美子は立ち上がる。

 そして足元から小枝を拾い、それを使って地面に何かを描き始めた。

「簡単だけど、これが市内の地図よ」
 まずは横長の楕円形。
 その中に小さな横長の楕円形。
 こうして描かれたドーナツを、四本の線で四つに区切る。
 それから絵の上に『うねがみ市』と書き、最後に方位マークを付け加えた。
「羽音神市には五つの区があるの。真ん中の丸が【中央区】で、上が【北区】、下が【南区】、左が【西区】、右が【東区】――OK?」
「ああ」
 地図もシンプルだし、解りやすいことこの上ない区分けである。
 篤志は素直に頷いた。
「そんで、あたしたちが今いる【桜町ふれあい公園】がここね。ほとんど中央区寄りの西区」
 由美子が近くの石を拾って、地図の中に置く。
「あんたが弁当を買った【桜町商店街】は、ここからちょっと西に行った所にあるわ」
「なるほど」
 篤志が肌で感じていた方向感覚と完全に一致する。
 北区・タツミ一家の豪邸を発った篤志は、かなりの距離をまっすぐまっすぐ南下していった。
 途中で西向きに曲がり、商店街を見つけてからは北向きに商店を見回り、弁当を買って東の方にあるこの公園にやって来た。
「そんで、市役所はここよ。中央区のど真ん中!」
 由美子が地図の真ん中に<どーん!>と豪快に大きな星印を書く。
(いや、言いたいことは解るけど……)
(これだと、もはや中央区全域が市役所じゃねーか……)
 篤志が心中で突っ込みを入れていると、もぐもぐとサラダを食べながらうさぎが言った。
 どうやら発音を伴わないこの会話は、口が塞がっていることが問題にならないらしい。
 恐らく念話(テレパシー)のようなものなのだろう。
『正確には、中央区のど真ん中には【羽音神城】があるんだ。市役所はその隣だな。市内で最も高いビルだからすぐ判ると思うぞ』
「羽音神城?」
『Yes,【羽音神幕府】・将軍の居城なんだ』
「幕府!?」
 歴史の話題でしか耳にしない単語の登場に、篤志は思わず仰け反る。
「えっ!? ここには幕府があるの!?」
『Yes,本土にはもうないらしいな。でも、ここにはまだ幕府があるんだぞ』
「へ、へぇ……」
(まぁ、ここならあっても不思議じゃねーわな……)
「でも、どっちかと言えば幕府は嫌われてるわ。すごく横柄なの。あたしも殿は好きじゃないわね」
「ふぅん……」
 『殿』という単語の違和感をバリバリに感じながら、篤志は曖昧に頷く。
『この羽音神市ではな、幕府と市が激しい政争を繰り広げているんだ。両者はとんでもなく仲が悪いんだぞ』
「へぇ……」
 政治の話は好きだ。
 篤志が興味津々なのを察したのか、うさぎは饒舌に語り始める。
『幕府の誕生は四百年くらい前なんだ。当時の羽音神島は戦国時代でな、血で血を洗う戦いに勝利して島内統一を成し遂げた"最強の武将"が羽音神幕府を立ち上げたんだ』
「…………」
(島内統一……)
(何となくスケールの小ささを感じるな……)
『当時の幕府は非常に高潔な組織で、将軍も民衆に愛されていたんだ。でも、時代が流れて将軍家はどんどん腐敗していった』
「…………」
(よくある話だな……)
(盛者必衰の理ってヤツか……)
『転機になったのは百五十年くらい前、羽音神島は【第四世界】と呼ばれる異世界と界交を持つことになったんだ』
「――!」
(第四世界!)
 不本意ながらも第四世界人に背乗りしている篤志としては、第四世界の情報は是が非でも得ておきたいところだ。
『第四世界人は界交に際して、この羽音神島に声明を出した。「この世界を気に入った。この世界と交流を持ちたい。でも幕府おまえはダメだ。おまえはクズだ、ゴミだ。ウンコだ。Fuck you!」――』
「…………」
(え、ええええ……)
 十中八九うさぎの意訳が入っているのだろうが、第四世界人の苛烈さに篤志はドン引きする。
『でも、この島の民衆は第四世界人の言い分に賛同したんだ。なんせ当時の幕府は民衆に重税を課しつつ、自分たちは贅沢三昧に暮らしていたからな』
「…………」
『そんなこんなで世論が高まって市制が敷かれるようになり、この島は幕府を残したまま【羽音神市】になったんだ』
「…………」
『今では幕府と市の力はほぼ拮抗してるんだぞ』
「へぇ……」
『そうだ、市役所に行く時、絶対に羽音神城に近寄るなよ?』
「えっ?」
『幕府は以前から本土侵攻の政策を押し出しているんだ。おまえが本土人だとバレたら何をされるかわからないんだぞ』
「…………」
(ほ、本土進攻!?)
(…………)
 意味を理解するのにしばらく掛かった。
「え、え~っと? 本土進攻? それって、本土を武力的に攻めるってこと?」
『Yes,市長がどんどん力を持つようになってな、殿は自分の発言力が小さくなってきたのが気に入らないんだ。だから、自分が威張れる新しい土地が欲しいんだぞ』
「そんな自分勝手な理由!?」
「殿はいつも自分勝手よ。嫌がってる女の子を無理矢理妾にして、大奥に放り込んだりとかするんだから」
「…………」
(えっ、大奥に入った女って城の外に出られなくなるんじゃ???)
 それが本当なら、あまりにクソすぎだが……
 今は大奥のことよりもっと重要な、確かめなければならないことがある。
「えっと、本土侵攻ってのは……どれくらい民衆の支持を得てるの?」
『まぁ、ぼちぼちだな。今の市長は本土進攻に反対してるんだ。市議会には幕府寄りの議員も多いが、今の市長が市長をやってるうちは侵攻はないと思うぞ』
「…………」
 うさぎは淡々と言うが……
 本土人の篤志としては、とても聞き捨てならない話である。
「前の選挙の時、幕府派の議員が『本土を植民地にしたら、本土ブランドが安くなる』って言ってたわ」
「…………」
「そりゃあたしだって、本土ブランドのスニーカーが安くなるのは嬉しいけど……でも、そんなことのために侵略ってのはさすがにどうかと思うのよねー」
「…………」
(そりゃそうだ……)
(そんなくだらないことで侵略されるとか冗談じゃねーよ……)
 祖国が武力をもって攻められようとしている――
 正直言って、話が大きすぎてとても受け止め切れない。
 しがない一個人……しかも高校を卒業したばかりの青二才である篤志が受け止めるには、この話はあまりに重すぎた。
(これ、警察とかに話した方がいいよな……?)
(いや、警察っていうより自衛隊……???)
(…………)
(ああ、でも……)
(オレは公安にマークされてる売国奴の息子なんだよな……)
(国はオレの言うことなんか信じないかもしれない……)
(つうか、たぶん信じないよな……)
(…………)
(あ、いや、でも待てよ……)
(フェリーが出てるってことは、最低必要限の交流はあるってことだよな……?)
(だったら、さすがに国の方でも侵略の話はもう把握してるはず……)
(ちゃんと対策とか取ってるのかな……???)
「…………」
 あれこれ考えを巡らせて顔を青くする篤志の肩を、由美子がポンと叩く。
「大丈夫よ! もし本土侵略なんてことになったら、あたしがデモに参加して反対してあげるから!」
「…………」
 現地人少女の身の丈に合った、精一杯の励ましだった。
 「デモかよ……」と思わなくもないが、ふっと気持ちが軽くなって、思考の絡まりがするりと解けていく。
(ああ、そうだよな……)
(現地人だって、みんながみんな侵略に賛成ってわけじゃないんだよな……)
 ゴチャゴチャ考えても仕方ない。
 そもそも、警察なり自衛隊なりに伝えるにしても、その手段がないのだ。
 謎のフリーWi-Fiに繋げたらメールなり何なり送れるかもしれないが……
 きっと検閲を受けるだろうし、それならばやらない方が賢い。
『とにかくあまり幕府とは関わらない方がいいんだ。特に、本土人と第四世界人はな』
「本土人と……第四世界人?」
『ああ、幕府はいずれ本土を占領し、本土人を奴隷にする気でいるからな。本土人なんて虫ケラ以下にしか見てないんだぞ』
「…………」
『第四世界人は、幕府凋落の原因を作ったから蛇蝎のように嫌われてるんだ』
「……なるほど」
 どうして第四世界人が通り名を使って出自を隠して暮らすのか――少しだけ解ったような気がする。
 きっと、第四世界人だと知れたら幕府に睨まれるのだろう。
(…………)
 とはいえ、これから交流を始めようとする相手に「おまえは駄目だ」と言うような連中だ。
 もしかしたら、第四世界人側にも色々と問題があったりするのかもしれない。
「第四世界人ってどういう人たちなの?」
「第四世界人はスポーツが好きよ。あと映画とかマンガが好きね」
「…………」
 由美子がすぐに答えてくれたが、篤志の求める情報とは微妙にズレがある。
「もうすぐ『異世界リーグ』っていうサッカーの大きな大会があるんだけどさ、優勝候補は第四世界のチームなの。サッカーに限らずスポーツは何でも強いのよ、第四世界は」
「へぇ……」
 それは昨夜のサッカー特番で言っていたので知っている。
 ただでさえ第四世界のチームは強いのに、今回はホームでの試合になるから……云々。
「でも、あたしは地元のチームに賭けたわよ! 【ウェストモンクス】は、第四世界のチームにだって負けないんだから!」
「…………」
(トトカルチョやってやがる……)
「えーっと、第四世界人ってさ、こっちの人間と一目で区別がつくような外見的特徴が何かあったりするの?」
 サッカー特番で見た限りそういったものは確認出来なかったが、話題転換を促すためにそう振ってみる。
『外見的な特徴は特にないな。強いて言えば、向こうはこっちよりガタイが良いんだ。平均身長は男女ともに10cm近く上のはずだぞ』
「そうよ、だからよくヘディングで押し負けるの」
「…………」
(こいつ、サッカーから離れねーな……)
『それにしたって、単体で見ればわからないしな。多少の顔つきの違いはあるんだが、それは第一世界人も似たようなもんなんだぞ』
「見た目だけじゃわかんないわよ。混血の人だって多いんだから」
「ふぅん、そっか」
『まぁ、魔力測定器で測ればすぐ判るんだ。第四世界人はほぼ魔力を持たないからな』
「魔力?」
『地下に住む羽音神が魔力を撒き散らしているせいで、ここで暮らすオレたちは多かれ少なかれ魔力を帯びているんだ。でも、第四世界人はここで暮らしてもあまり魔力が身に付かないし、異能力にも目覚めにくいんだぞ』
「へぇ……」
『でも、第四世界人は地中から掘り起こした【魔石】を使って【魔石科学】を発展させたんだ。だから、科学技術に関してはオレたちの遥か先を行ってるぞ』
 昨日見た通販でも、すごい商品は大抵「第四世界の技術が~」と謳われていた。
 だから篤志は、第四世界を"SFのように未来的な世界"と考えたわけだが……
 どうやら、この認識に間違いはないようだ。
「あと、第四世界と言えば【MTS《Morality Temperance System》】じゃない?」
「えっ?」
『MTS――第四世界特有の能力なんだ。第四世界人には"人の善悪"が見えるんだぞ』
「? 善悪?」
『Yes,その人が善か・悪か、その人が世界に良い影響を与えるか・悪い影響を与えるか――そういうのが全て見えるらしいんだ』
「??? えっと、それは、人の心が読めるってこと?」
『うーん……そういうのとは違うみたいだが、他人の本質を一目見て正確に看破出来るんだぞ』
「ほら、あたしたちが人を見る時って、わりと一目で『あの人は男だな』とか『あの人は女だな』とか判ったりするじゃない? それと同じ感覚で、第四世界人は『あの人は良い人だな』とか『あの人は悪い人だな』とか判るんだそうよ。知り合いの第四世界人が言ってたわ」
「……なるほど」
(解るような、解らないような……)
「あたしも第四世界のことはあんまりよく知らないのよ。観光に行ったこともないしね。でも来年の冬の修学旅行は第四世界に行くことになってるから、その後で土産話を聞かせてあげるわ」
「……そりゃどうも」
(冗談じゃねーよ、来年の冬までここにいるとか……)
『修学旅行もどうなるかわからないけどな。第四世界は宇宙人からの侵略を受けていて、宇宙戦争の真っ最中なんだ。情勢によっては渡航制限が掛かるかもしれないんだぞ』
「そうなったら最悪ね。第四世界に行くの楽しみにしてるのに!」
「…………」
(宇宙戦争かよ……)
(マジで何でもアリだな……)
「あのさ、宇宙戦争をやってるってことはさ、第四世界人ってわりとこの町に来てたりするの? ほら、疎開とかそんな感じで」
「? 『そかい』ってなに?」
『戦火から逃れるために居所を変えることなんだ。第四世界人がこっちに疎開してくることはないな。第四世界人はあまり自分の世界から出たがらないんだ』
「ふぅん……」
(第四世界人は引きこもりなのか?)
「それにしてもマサオ、あんた第四世界が好きねー」
「えっ?」
「さっきから第四世界の質問ばっかじゃない? 第一世界のことは全然訊いてこないけど、第一世界には興味ないの?」
「――!」
(しまった!)
(ちょっと突っ込んで訊き過ぎたな……)
 誤魔化すために、それっぽく嘘八百を並べてみる。
「いや、別にそういうわけじゃないけどさ。さっき商店街を歩いてる時、第一世界製の武器とかアイテムとか売ってる店を見たんだよ。そこで思ったんだけど、第一世界ってわりとゲームやラノベに出てくる"剣と魔法のファンタジー世界"に近いのかなって。だからオレ的には馴染みがあって何となく想像がつくっていうか。あ、オレ、異世界に転移するラノベとか大好きでさ!」
「へぇ、良かったじゃん! そんなに好きな異世界転移を体験出来てさ♪」
「……ほんとだね(棒)」

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