ままならぬ日々

小人のピザ屋

エピソードの総文字数=1,338文字

 小人が配達してくれるピザ屋が近所にオープンした。

 その一報を聞いて、私は喜ばしく思った。小人が配達してくれるからではない。自宅から近い場所にピザ屋がオープンしたことで、注文してすぐにピザが食べられるようになったからだ。ピザさえちゃんと届くならば、配達するのが人間だろうと、小人だろうと、どうでもよかった。


 そのピザ屋の注文方法は面倒くさかった。電話で注文したのだが、生地はどのタイプにするかだとか、トッピングはどれがいいかだとか、何十項目も質問をしてくるのだ。

(私はただピザが食べたいだけなのに。ピザの範疇から逸脱しない程度に、店の人間の感性で好きにやってくれればいいのに)

 辟易したが、黙っていては話が先に進まないので、質問に一つ一つ根気強く答えていく。

 十分近く受け答えをして、漸く注文が完了した。配達を完了するまでには、電話をかけてから注文を完了するまでに要した時間と同程度かかるという。

(待っている間に、トイレ掃除を済ませてしまおう)
 トイレ掃除は一週間に一回することに決めていた。一度はトイレに向かいかけたが、
(……面倒くさいな)
 一週間に一回しかトイレ掃除をしないのは、週に一回すれば充分と考えているからではなく、毎日するのが面倒だからだった。
十分では綺麗にしてしまえないから、掃除は食べ終わった後でしよう
 声に出して呟き、スマホでも弄りながらピザを待とうと、食卓の椅子に腰かけようとした矢先、
また易きに流れている。そんな調子では、いつまで経っても、成し得るものも成し得られないぞ
 いかめしい男性の声が呆れたように言った。
(……マグネット)

 冷蔵庫のドアに貼りつけてある、五センチ四方のマグネット。これは私の父方の祖父が青年だった頃からずっと家にあるマグネットで、冷蔵庫が買い換えられても生き残り続け、今年で五十五年目になる。

 マグネットは、年月を経たことで無機物にもかかわらず意思を持った、付喪神だ。彼はかつて、給食の献立表やゴミ収集日予定表など、様々な紙片を挟んできたが、電子化の波が到来すると共にお役御免となり、単なる飾りと成り下がった。その境遇に不満を抱き、私がすることに頻繁に文句をつけてくるのだ。

 私にとっては煙たい存在だが、年の功があるので、口論をしても到底敵わない。妖気を帯びた存在であるが故に捨てがたくもある。

……分かったわ

 不承不承、トイレに向かう。

 ピザが届く時間に間に合うように掃除を済ませた。直後、インターフォンが鳴った。

(ピザだ)
 トイレから出ようとしたが、便座以上に入念に磨いた床に滑り、転倒。背中を強打し、激痛のあまり起き上がることが出来ない。苛立ったようにインターフォンが連打される。
(マグネット、私の代わりにピザを受け取って)
 そう念じたものの、彼は自力では動けない。口うるさいだけの無能なのだ。
要らないんですか? じゃあ、注文は取り消しですね
 不意にインターフォンが鳴り止んだかと思うと、聞き覚えのない男の声が飛んできた。それに続いて聞こえてきたのは、がつがつ、という咀嚼音。獣が肉を貪り食らっているかのような、野蛮な、浅ましい食事の音だ。
(配達に来たのは小人ではないの……?)
 咀嚼音が止み、激しいノックの音が響き始める。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ