超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

俺が召愛からしてほしいと望むことは、いったい、なんだろう?

エピソードの総文字数=4,114文字

 昼休み。


 教室で召愛は俺と弁当を食べた。

「では、行ってくる」

 召愛は立候補の届け出に行くため、立ち上がったよ。

 晴れ晴れとした顔をしてたね。

「ああ、行ってこい」

 俺は、手を振って見送った。

 教室で一人ぼっちになった。


 他のクラスメイトたちは、友人同士でスマホのゲームをしたり、グラウンドに遊びに行ったり、だべってたりしている。


 そいつらから時折、視線を感じるよ。

 なんせ俺は、匿名掲示板の中では、召愛にヤラせてもらって下僕として仕えてる設定だ。


 昨日の時点でそれだから、今頃どんな、おもしろ設定が追加されてるのか……。

 暇つぶしの話題としては、そりゃ格好の標的になるだろうよ。


 居心地が良いわけがない。

 どっかに逃げ出したい気分だったが、どこに居場所がある?


 それこそ便所の個室くらいのもんだ。

 ならば、気にしない振りをして、無視するしかない。


 まったく、俺の高校生活、どうしてこんなになっちまった。

 なんて、センチメンタルに浸ってたらだ。


 なんか、召愛がキョロキョロしながら、教室の前に戻って来た。


    ――キョロキョロ

(何やってんだ?)

 よくわからん。

 召愛は教室に入って来るでもなく――


   ――チラッ

 ――と俺の方を見てだな。

 なんとなく、助けを求めるような視線だった気がするが、また廊下を歩いてった。


 が、数分すると――


  ――キョロキョロキョロキョロキョロ!

 さっきよりも激しくキョロキョロしながら、教室の前を通り過ぎて行こうとしたんだ。

 俺と目が合うと、『あれ、おっかしいなあ?』みたいに首を傾げ、すんげえ焦った様子で元来た方へ戻っていった。


 そこで、俺は思い出してしまったわけだ。

 召愛と出会った日の事を。

 あいつに道案内を任せて走ってたら、学校と逆方向に爆走させれたことを。

(学校の中で、迷子になってんじゃないだろうな……)

 が、案の定というか、また教室の前に戻って来やがった――


   ――キョロキョロキョロキョロキョロ!

     キョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ!!

 で――


    ――チラッ!

 と助けを求める目を向けてくるわけだ……。


 俺は席から立ち上がって、廊下の召愛へ近づいたよ。

「おい、召愛。迷子になってんだろ」

「そ、そんな事はない。

 理事長室を目指しても、なぜか、ここに戻って来てしまうだけだ」

 俺は頭を抱えた。

 まあでも、この学校は無駄に校舎が広い。

 俺も慣れない内は、案内図を見ながらじゃないと、特別教室まで辿り付けなかった。


 迷子スキルS+持ちにとっては、さながらミノタウロスのラビュリントスってとこだろう。

「そうか、じゃ、お前、迷ってるわけじゃないんだな」

「そ、そうだ。うん、迷ってない」

 と、言いつつ、助けを求める目を、向けるのを止めなさい召愛君。

「俺は手伝わないし、立候補にも反対してるって、何度も、何度も言ってるよな」

「わかってる……。

 大丈夫だ。一人でどうにかなる」

「ああ、急いだ方がいい。休み時間が終わっちまう」

「よし、急いで行ってくる」

 そう言って召愛さんね。

 全力の早歩きで理事長室とは反対方向へ爆進しちゃいだしてですね。


 ズコー! って俺はずっこけそうになった。

 俺はどうにか、転倒を回避しつつ、超早足で召愛を追いかけたよ。

 競歩で金メダルを取れそうな勢いでだ。


 で、召愛に追いつき、その腕を掴んで、止めた。

 で、言ってた――

「付いてこいよ。こっちだ」

 召愛を引っ張って、理事長室に一直線だよ。

(ああ、くそ、なんで俺はこんな事をやってる?

 まったく道理にあわん。非合理極まる愚行じゃないか)

「コッペ――

 ――理事長室の前に付いたときに、召愛が言ったよ。

 ――ありがとう」

 パーフェクトな笑顔だった。

 あまりにも真っ直ぐすぎる眼差しが、心の奥にまで突き刺さった気がして――

「――」

 ――ドキッっとしてしまって、狼狽えちゃったね。

 んで、召愛の手を握って引っ張ってきたのに気づいて、慌てて離した。

「お、おう……

 じゃ、行ってこい」

「うん」

 召愛は理事長室のドアをノックして、中に入って行った。


 俺はさっさと教室に戻ろうとしたよ。

 けどな、気づいてしまったんだ。そうした場合、召愛をここに置いてくことになる。

 すると、たぶん、2週間後くらいにワイドショーとかで――

「私ども取材班は、悲惨な事件の現場となった、羽里学園に来ております。

 数日前に、この学園内で、遭難して餓死したとみられる女生徒の死体が発見され――

 ――なんて事になりかねない……。


 俺は大人しく待つことにした。

 理事長室の中では、召愛と羽里はどんな話をしているのだろう?


 もし羽里が素直に泣きついてでも、『立候補を止めてくれ』と言える性格だったら、召愛も立候補を取りやめるかも知れない。

 でも、そんな事は絶対に、この理事長室の中では起こってない。


 事ここに至ってしまったら、頑固すぎる羽里のことだ。

 召愛から立候補届けを突きつけられて、泣きたいほどに動揺するだろうが、それを顔に出さないよう、受け取っちまうんだろう。


 召愛も、悲しみながらも、決意を新たにし、理事長室を後にする。覚悟を決めきった人間特有の、スッキリしたような顔をして、このドアから、廊下へと出てくる。


 そして。

 理事長室のドアが開いた。


 俺の予想通りだった。

 召愛は、スッキリしたような顔をしていたよ。

「……」

 その後ろに見える羽里は、執務机に着席していて、やはり――

「……」

 ――何かに耐えるような、厳しい表情をしていた。

「コッペ、彩は話しがあるそうだ。中に入ってくれ」

 執務机の前に行ったよ。

 召愛と並んでだ。

「俺は一応、召愛の立候補、止めようとはしたんだぞ」

「選挙に関する話しは後です。まずはトラブルについてです」

 羽里は椅子から立ち上がったよ。

 んで何枚かのコピー用紙を机の上に置いた。


 匿名掲示板に投稿された召愛や俺の個人情報や、誹謗中傷する書き込みが印刷されている。

「当校では、これらをイジメ案件として認定し、学園法務部では、すでに弁護士チームの編成を終えて、法的な方法論による犯人の特定と、刑事告発、および校内における処分、さらに民事告訴による賠償請求の支援準備が出来ています」

 (さすがに仕事はええな。

 普通の学校なら、自殺者でも出ないと、刑事事件化しないだろうに)

「ついては、被害者本人、あなたたちが、『これはイジメである』と明言してください。その時点から、法的な処置を開始することが出来ます」

「なるほど」

「まずは彩。感謝を送りたい。

 私を気遣ってくれて、ありがとう」

「職務をしたまでです」

「しかし。私は、これらをイジメであると認識していない」

「なんですって……。でも、これは!」

 ――羽里は机の上のコピー用紙を指さしてみせた。

 悪意の塊、憎悪の集合体、怨念の集積物、とでも言うしかないそれらをだ。

「私には、それらは、書き込んだ本人たちの、魂の悲鳴のように見える。憐れだと思わないか。


 彼らは自らの惨めさを、匿名とはいえ、衆目に晒さざるを得ないんだ。心が、そう追い詰めらてしまっているんだ。私は、彼らを皆、救いたい」

「救う……ですって。

 わたしたちが小学校や中学校で、どれだけ酷い目に遭ってきたか、忘れたの。もうあんな事は、二度と許さない。


 こんな、こんな、人間のクズたちを!」

「彩、人間は皆、クズだ。

 誰もが一度くらいは、パンをくわえて誰かにぶつかる。時に牛乳までプラスしてだ。そして、その後、親友になることもある」

 本人がこう言ってしまっていては、どうにもならない。

 羽里は召愛を見据えながら、何度か深呼吸して、次に俺へ目を向けてきた。

「コッペくん、あなたも被害者です。

 これをイジメであると明言してください」

「いいや、止めておく」

 自分でそうしておきながら、俺にもはっきり自覚は出来てなかった。

 あえて理由を言うなら、俺の隣に居る奴。


 召愛の存在感だ。こいつの望む通りにしてやりたい。

 んなことを思ってしまってた。

「俺たちはこれでいい。

 ただし、羽里。お前の主張が、本来は正解だ。

 大正義だ。全肯定する」

「…………………」

「……わかりました」


「ああ」

「次に、選挙ですが。わたしと召愛は戦うことになります。

 しかし、わたしが監督者という立場にあるのが問題です」

「それの何が問題なんだ?」

「監督者とは、要被重監督者にとって、生殺与奪の権限を持つ者です。

 極端な話しをすれば、召愛が校則違反を行ったと、でっち上げて退学にできる」

「羽里がそんな事するわけないだろ」

「一般生徒がどう思うかです。

 監督者と要被重監督者が戦うことに、アンフェアな印象が生じてしまう。そうなれば、仮にわたしが勝った場合でも、生徒会長としての正統性にわだかまりが残り続けます」

「まあ、正論か。なら、どうすんだ?」

「わたしは監督者を退きます。

 あなたたちの生活態度は模範的であり、校則違反のおそれも無くなった。要被重監督者の要件を満たさなくなりました。


 寮は使い続けて構いません。生活の混乱をきたさないようにです。

 なお、わたしは自宅へ引き上げます」

「え……?

 なんで、どうして!」

「ケジメを付けるべきです、召愛」

 だが、本当にケジメを付けなければいけなかったのは、羽里の方なのだと思う。

 羽里の目には、涙が浮かび始めてた。

「わたしの正しさを、召愛が、いずれ、わかってくれると信じてる。

 だから、今は全力で戦わないといけない。

 勝たなきゃいけないんです」

 もっと割り切れてしまう性格だったら、毎日、召愛にぬいぐるみのようにしがみつかれて眠っていても、容赦ない舌戦を展開できるのだろうが……。

「だから、お願い。今は一緒に暮らせません」

 こんな台詞を泣きそうになりながら言ってしまうのが羽里の本性だ。

「でも彩――」

 俺は、召愛の肩に手を置いたよ。『わかってやれ』という意味でだ。

 召愛は、それでも何か言いたそうに――

「…………」
「…………………わかった」

「彩。ならば、お互いに全力だ」

「――はい!


 公示まではあと一週間、準備を万端にしておいてください」

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