超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

パンツ上の垂訓。

エピソードの総文字数=6,474文字

 その午後――

 全校生徒と職員、合わせて400人弱が多目的ホールに集まった。


             大討論会 の始まりである。

 半円形の多目的ホールの中心にステージはあり、そこには演台が二つ置かれている。

 右が召愛、左が羽里という配置で向き合わされていた。


 その背後には、IMAX仕様のスクリーンが張られており、二人が大写しで見えるようになっている。

「――」
 羽里は闘志を、みなぎらせて、召愛へ目を向け――
「――」
 召愛は微笑んでいた。
 そして、スクリーンにカウントダウンが表示された。


            3



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              『討論開始』

「召愛、あなたは校則の大半を廃棄すべきと考えていると聞きました」


 最初に口火を切ったのは羽里から、だった。

「そのような事をして、学園の秩序が保たれると考えているのですか。

 国の法律の大半を停止するも同然の、無謀と言わざるをえない」

「わかった。彩、答えよう」

 召愛は羽里とは対照的に穏やかな顔のまま話したよ。


「私が立候補したのは、校則を廃棄するためだと思わないで欲しい。

 逆だ。全ての校則を成就させるために立候補した。


 例えば、下着に関する条項だ。

 あれは、生徒を守る目的の規則だと言う。

 だが、実態はどうだ?


 生徒たちの権利である服飾の自由を、無意味に侵害しているだけだ。

 であれば、生徒の権利を守るためには何が必要だ? 


 下着規制の見直しだ。

 結果、規制はなくなるだろう。

 だが、下着条項の理念である、『生徒を守り、より良い学校生活を与える』という目的は成就されることになる」

「詭弁じゃないですか。結局は、校則を廃棄することになる!」
「詭弁ではない。

 そもそも、全ての校則は、理想の学校を実現するために存在している。であれば、その逆に、理想から反して暴走した校則は、消滅するのが、成就といえる。


 そこで問うぞ、彩。

 縞々パンツが穿けない学校と、穿ける学校、どっちがいいんだ?」

「えっ……。し、縞々パンツ……ですか?」
「そうだ。特に、水色の縞々パンツだ」
「そ、そんな子供っぽいものは、ど、どうでも……」
「でも、君は、水色の縞々パンツが好きだろう。

 小学生のころは、私とおそろいにしてた」

「な、なんで今、そんな事を言うんですか!

 べ、別に小学生なら水色の縞々パンツだって良いじゃないですか!」

「中学生の頃もそうだった」
「で、でも、今は別に――」
「4月に一緒に行った健康ランドでは、水色の縞々パンツだった。他にも――」
「う、うぐっ……」
「わ、わかりました――だから、それ以上言わないで!

 はい、わたしは好きです。好きですとも!

 学校が無いときは、いつも水色の縞々パンツですよ!


 これで、いいですか!?

 ていうか、あなただって同じでしょう。水色の縞々パンツ大好きじゃないですか。休日には、いつもそればっかり穿いてる!」

 お、おい……。

 これ生徒会長選挙の討論、だよな……?

 なんで、パンツパンツ連呼してんだよ。

「ああ、好きだ。

 私は水色の縞々パンツが、大好きだ。

 だから、学校がある日に、これが穿けないのは、ひどく苦痛だ。


 そして、今だからこそ、告白できるが――

 校則を回避するため、水色の縞々パンツを脱ぎ捨て


      ノーパンで登校したことがある……」

「え………………………?」

 うわぁ……。

 やっちまったな、召愛……。

「あれは、本当に、スースーした。一日中だ。

 あのスースーする悲しみを他の人には、味わって欲しくないんだ。


 だから、彩。

 生徒をスースーさせる意味しかない校則など、なくして当然だろう?


 これは廃棄ではない。あるべき形に、成るだけ。

 正しい形へと成就されるだけだ」

「ほ、ほんとに、パンツを穿かずに学校へ……?


 い、いえ。今はそんな事はどうでもいい。

 確かに……下着の規制は、誰も得をしない校則であることは、認めざるを得ません……。


 しかし。

 あなたが改正を着手する全ての校則が、そのような理想的な形にできると?」

「はっきり言おう。

 天地が滅びうせない限り、校則の理念の一点一画でも決してすたれることはない。全部が成就される」

「あなたがしようとしている事は、

 単なる人気取りのための、規制緩和になりかねない。

 風紀の乱れ、治安の悪化が目に見えています!」

「では、改革によって理想的な学校が出来あがったとしよう。

 〝わたしのかんがえた、さいきょうのがっこう〟がだ。

 君の大好きな水色の縞々パンツも穿き放題の学校だ。


 その学校から退学させられるような事をしたいと思うのか?

 むしろこれは、校則を守るメリットが増え、破るデメリットが増えるということだ。


 しかも、パンツの色が白でなければならないという事を、嫌々と厳守するのではなく、縞々パンツを穿ける学校の一員であり続けたいという積極的な理由で、校則を守るようになる。


 つまり、生徒がより積極的に、この学校の理想=校則を実現する事になる。


 だから、これからの私たちの義は、以前の羽里生徒の義に勝るものとなるだろう」

 羽里は鼻で笑った。

「理想論にすぎます。あなたが言っているのは、全てが思いどおりに進んだ仮定でしかない」

理想主義だと言われれば、否定はしない。

 しかし、彩、君も同じだ。


 千を超える校則を、一つ残らず実行できる者が、何人居る? 

 私が知る限りでは君だけだ。


 ならば、全生徒が全校則を漏れなく実行することを目指す君の方針は、

『全てが思いどおりに進んだ仮定』を前提とした理想主義だ」


  ――!!

「だが、私は理想を追うことを鼻で笑ったりはしない。


 なぜなら、誰かが、理想へ最初の一歩を踏み出さなければ、永遠に近づけない。

 この点については、意見が一致すると思うのだが、どうだろう?」

「…………」
「そこは……同意します」

 羽里はあっさりと、召愛への攻撃用の論点である、

『理想主義への批判』を放棄してしまった。


 せめてもう少しくらいは、反論しなければ、羽里が〝負けた〟ような、印象が残ってしまうから、本来ならば、もっと抗弁しなければならないはずだ。


 だが。

 羽里にとって、この場は、そんな表層的な〝勝ち負け〟を競うディベートなどではないのだろう。

 学園の未来を思った真心と真心、誠意と誠意、愛情と愛情、それを、ぶつけあう場なのだ。

「だから、彩。

 私は、理想を求め、捜し続け、そこへの扉を、叩き続けたい。

 求めた物が与えられ、探した物が見つかり、扉が開け放たれる、その時まで――。


 特に水色の縞々パンツが、この学校で穿けるようになる日まで――。

 

 そして、

 ノーパンで登校するという惨劇に見舞われる生徒が、一人もいなくなる日までだ」

「いえ……。

 ノーパンで登校するのは、あなただけ、だと思います……」

「いいや。その日、コッペもノーパンだった。

 我々は、あと一歩で公然わいせつ罪で逮捕されかねないという、ドキドキを味わうことになった」

 全校生徒の前で、それを言うか!

 俺を巻き込むな!

 飛び火させんな!

「………………」
「え……、あ、はい……。

 そういったプレイを、誰にも迷惑かけずに、夫婦同士で楽しむのは、結構だと思いますが……」

「プレイなどではない!

 私たちは、真面目に、命がけでやっていたんだ!」

「ま、真面目に、命がけで、ノーパン登校ですか……?」
「そうだ!

 だって、そうしなければ退学になってしまうんだぞ?」

「な、なるほど……。

 校則が生徒に、ノーパン登校を強いる物だとは、想定していませんでした。


 確かに、由々しき状況ですし、ならば理想の原点に立ち返ろうと主張するのは、理解できます。


 しかし言葉では、どうとでも言えてしまいます。


 理想の原点に立ち返る、あなたのやり方で学校を導いたとして、

 どのような結果になるかは、未知数と言わざるをえない」

「それは正論だ。ゆえに、皆にも言いたい。

『とりあえず一回やらせてみるか』

 などと安易な気持ちで、私に票を入れないで欲しい」

 選挙の討論会で自分に票を入れるなとは、バカとしか言いようがない。

 だが、これが、そっくりそのまま、こいつの本音でいらっしゃるわけだ。

「そこで提案だが、彩。

 君がこれまで、暫定生徒会長をしてきた間に、学校が成し遂げた実績を、皆に訴えるべきだと思う。


 私が持っていなくて、君が持っているのは、実績

 まさにその一点だ」

 相手に有利なる展開へ、わざわざ持って行く討論会というのも、

 これまたアホなほどお人好しすぎる。

「そ、そうですが。

 わたしが暫定生徒会長だったのは、この学校を創った立場上そうなっていただけで、正統性があるわけじゃなかった。


 その立場を利用して、召愛を攻撃するのはフェアじゃないと……」

 羽里も羽里で、アホみたいに真面目すぎる。

 

 ハイパーお人好し VS ハイパー真面目 が討論するとこうなる物らしい。

「彩の実績と、私の改革への期待

 どちらを優先するべきなのか、皆に判断材料を与えるべきだ。

 実績を示せる資料は、用意していないのか?」

「あ、あります。

 用意しておいたものの、これを使うのは気が引けていました……。


 しかし、召愛の言うとおりです。

 わたしは判断材料を示すべきでした」

 羽里は手元のノートPCを操作した。

 するとステージのスクリーンに、動画が映し出された。


 学校の地下にある巨大な金庫室の扉の映像だ。

 凝った編集などはされておらず、羽里自身がカメラを持って撮影したものだろう。視線が低い。


 扉には『貴重品保管庫』と書かれている。

 中にはきっと金塊とか、札束、株式証券が山のように積まれてるのだろうと思えた。


 しかし、だった。

 映像の中の羽里が、金庫の分厚い扉を開け、中へとカメラを持って行くと、そこにあったのは、金塊でも札束でも証券でもない。









 膨大な量の書架。

 一見、殺風景な図書館のようだ。


 壁沿いは多数の額が掛けてある。百近い数だ。

 羽里学園の慈善活動によって送られてきた感謝状や表彰状だ。


 県や市からは言わずもがな、文科省や厚労省、教育委員会、ボランティアNPO、老人ホーム、障害者施設、他の学校、その他、数え切れないほど多く。

 

 客観的に見て、羽里学園が地域に果たした貢献は、多大としか言いようがない。

 それを導いてきたのは、他でもない。

 やはり、羽里なのだ。



 そして。

 映像の中の羽里が、書架の一つからファイルを取り出した。

 そこには手紙が収められていた。


 文面を見るに、どこかの老人ホームで暮らしているお年寄りの物だ。

 旧カナ使いで書かれている。おそらく90歳近い年齢だろう。


 羽里学生たちが慰問に訪れた時に、孫たちが遊びに来てくれたようで、どれだけ嬉しかったかが、長くながく書かれていた。


 手紙はそれだけじゃない。炊き出し事件の時の物もあった。

 感謝を述べる手紙もあれば、苦情もあった。

 それは、次々開かれていく手紙全てに、共通していた。


 膨大な数の書架に、賛辞や感謝、そして批判や苦情、分け隔てなく、

 羽里は全て『貴重品』として保管していたのだ。


「けして……。百点満点の運営ではなかった。


 もっと上手くやれたはずなのでは、と言われれば、そう出来ることも、あったと思います……。


 目的を達するために、犠牲にしてしまう要素も、いくらでもあった。

 失敗も多くしてしまった。

 失った信頼も多大にある……」

「百点満点ではなかった。確かにそうだ。だが――」

九十点以上だ。彩。

 誰がどう見ても。

 これは、九十点以上だ。


 そして、これは――


 君以外では、取れない点数だった」

 召愛は拍手をした。

 羽里に向かってだ。


    ――パチパチパチパチ

 嫌味でも、揶揄でもない。

 召愛は心からの笑顔で、真心と誠意と愛情を込めて、羽里の努力を認めていた。


 ――――!

 召愛の拍手を、羽里は、じっと見詰めてしまっている。

 スクリーンに映し出された羽里の表情が、明らかにさっきまでとは変わった。

「――」

 ずっと探していた宝物が見つかった子供のような表情。

 ただ嬉しいだけではなくて、これまでの努力がやっと報われたような、そんな風に、俺には見えた。

「――」

 羽里の目に、涙が、溜まり始めてた。

 当然かも知れない。


 だって、羽里はなんのためにこの学校を創った? 

 それは突き詰めれば、召愛のためだ。

 二人がすれ違う事も大いにあったが、動機だけを見れば、本当にそれだけなのだ。


 羽里は、ずっと召愛に喜んで貰いたくて、認めて貰いたくて、全ての努力してきたと言っても良い。

 

 そのために、理事長と暫定生徒会長、さらにはボランティア部長という、超人的スケジュールを完璧にこなし、学校を運営してきた。

 


 それが、この瞬間に、やっと報われた。

「彩」
 と、召愛は優しげな声で言った。
「これから先で、百点満点を取ってみたくないか」

「とりたい」

 と、羽里は頷いた。

「私も、そう思ってるんだ。

 けど、私だけでは、達成できるとは考えていない。


 どんなに理想を唱えても、それを実務として実行できるかは、また別の能力が必要になってくる。


 彩は、どうだ?」

「わたしも、自分だけでは、現状が、限界だと感じています。

 現にあなたに、指摘されたことは、全て、認めるしかなかった」

 そこで二人は、真っ直ぐに見つめ合った。

「……」
「……」

「ならば、私たち二人一緒でなら、どうだろう?」

「――!」

「彩。バラバラだった道が、ここで合流しているように私には見える。

 ここから先は、一緒に歩んでいかないか」

「――――」

 召愛は、演台から降りた。

 ステージの中間地点へと歩き、そこに立った。

 そして、向かい合った演台の上にいる羽里へと、手を差し伸べた。


 羽里は……羽里は――









「――」
 涙を零して、笑った。


 きっと、羽里が心の奥底で、ずっと待ち望んでいたのは、この瞬間。


 羽里も演台を降り、召愛へ歩み寄り――どころか、ダッシュした。

 トテトテと全力で、そして、握手するために召愛が伸ばしてた手を無視、そのまま飛びつくように、抱きついた。

「――!」
 召愛はびっくりしつつも、羽里の頭を両腕で抱き返した。
「……」

 それから、二人は抱き合ったまま、何か小声で話してるようだった。

 ピンマイクから、ボソボソと声が拾われてくるが、ハッキリは聞こえない。


 辛うじて、召愛の声で――

「本当にそれでいいのか彩、逆でもいいんだぞ?」

 と言ったのは聞き取れた。


 そして、羽里は召愛から体を離し、観衆へ向かい合った。

「みなさん。わたし、羽里彩は決意しました――
 観衆がざわついた。


 決意とは、なんなのか?

「今、この瞬間に、立候補を取り下げます――

 とり、さげ……?

「そして、召愛と協力して、この学校をより良くするため、夏休み直前に行われる生徒会役員選挙へと、改めて立候補します」

 ならば……。

 そうだ。

 決まってしまったということだ。


 初代生徒会長が。


 だって、この時点で、候補は召愛一人。


 召愛に確定されたのである。



 あまりのいきなりの事に、観衆の誰も、どう反応して良いかわからないようだった。

 みんな、隣の席の者たちと顔を見合わせ、ざわめいている。


 だが、そんな中、観衆の一人が大きな拍手を始めた。










 ――パチパチパチパチ!

 職員席に座ってた俺たちのクラスの担任だ。

 それに合わせて、周りの教師たちも拍手を始め――



 ――パチパチパチパチ!


 ――パチパチパチパチ!
 やがて拍手は多目的ホール全体に広がっていき、生徒たちも――


  ――パチパチパチパチ!


    ――パチパチパチパチ!


   ――パチパチパチパチ!


    ――パチパチパチパチ!


    ――パチパチパチパチ!


    ――パチパチパチパチ!

 召愛と羽里は、声援に応え、手を振っていたよ。


 生徒会長選挙の投票日は明日。

 そこで正式に、召愛の当選が決まることになる。
















 このまま、何事も無ければ――

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