超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

遊田イスカは言った。「あんた男でしょ……遊田イスカと、やりたくないの!?」②

エピソードの総文字数=3,181文字

 俺は、遊田を追って昇降口へと歩いたよ。


 召愛に嘘を吐いたのは、『遊田を連れ戻してくる』なんて俺が言ったら、あのお人好しは責任を感じて、付いて来ちまうだろうからだ。

 そうなれば、話しが余計ややこしくなる。


 けど、なんで、俺がそんな事をするのか?

 自分でも、上手く言葉にできるつもりはなかった。


 一応は……遊田だって、映画作りに多大な貢献をした。

 役者をがんばったのは言わずもがな、ラインプロデューサーを引き受けてくれなかったら、映画は完成すらしなかっただろう。


 いや、映画企画そのものが、あいつの発案だった。

 召愛の偏見を除去する計画の、最大の恩人と言っても良い。


 そういう奴がだ。

 一人ぼっちで、帰っちまうのは、俺は、まあ、嫌だと思ってしまってたんだ。

 そして、校門から少し歩いたところで、やっと遊田に追いついた。
「よう、プロデューサー」
「……」

 遊田の背中へ、できるだけ、おっ軽く声を掛けてみたんだが……。


 遊田は立ち止まらずに、一瞬だけ振り向いて、俺を見やるが、さらに速度を上げて歩きだしてしまった。

「みんな遊田に助けられた。感謝してる。

 俺もだよ。すげえ感謝してる。

 お前が努力してくれなきゃ、ここまで出来なかった。

 ありがとうな、遊田」

 それでも、遊田は歩くのを止めない。

「とりあえず……それだけは言っとかないとと思っただけだ。

 また、明日な」

 するとだ。

 遊田の奴、何を思ったのか、急に立ち止まって、振り向いて、言った。

「ちょっと一緒に来なさい」

「あぁ?」

 遊田は、歩道から車道へ向かって手を挙げて、タクシーを止めた。

 んで、俺を強引に引っ張り込み、運転手さんに告げたのだ。

ラブホテルに行ってちょうだい。

 どこでも良いわ。一番近いところ」

「お、おい。なに考えてんだ!」







 ――なんて言う間にも、タクシーはビューンと走って、到着しちゃいました。

 駅から少し離れた場所の、いかにもラブホテルだなあ~という白亜のお城っぽいところだ


 で、俺はタクシーから引っ張り出されてだな。

 入り口のお休み料金とかが書いてある看板の前に連れて来られたと思えば、いきなり遊田の奴が大げさに抱きついてきて、スマホを取りだしたと思ったら、自分たちにカメラを向けて、パシャリ、と撮ったわけだ。


 で、すぐさま、ひっついてた俺から離れて、撮れた写真を確認して。

 悪どそうな顔になって――

「いっひっひ……!


 今の写真、召愛に送信されたくなかったら、これから一日、あたしの言うことを聞きなさい。まずは二人でここに入るわよ」

 何を考えてんだか、こいつは……。


 この期に及んでも、まーだ、俺をNTR(寝取り)して、召愛を悔しがらせてやるんだ、などと、昼ドラみたいなこと考えてんのか?


 さもありなん。

 残された復讐手段は、もうこれしかない。と、遊田なら考えそうだ。

「はぁ……


 ウワア。召愛ニ、送信スルノダケハ、止メテクレー」

 すげえ棒読みで言ってみた。



       ――ムカッ!

「勝手にしろ。じゃあな」

 俺は。遊田に背を向けて、駅前へと戻ろうとした。

「あんた……バッカじゃないの!」

 通行人が振り向くくらいの大声で遊田は叫んだ。

 でも、それは――罵倒というより、なぜか、悲痛な悲鳴に、聞こえた。

男でしょうが……遊田イスカとやりたくないの?

 女の子が往来で叫ぶ言葉じゃない。

 なんて今時言うと、男女差別になってしまうのだろうか?


 ともかく、やりたいか、やりたくないかと言われれば、無論――


 やりたい

 むしろ、このレベルの女子と初体験ができるってなら


          どうかよろしくお願いします


 こればっかりは、本能であり、文句があるなら製造責任者へ、メールでお問い合わせくださいだ。


 けど、人間というのは、どうもその辺、他の動物よりも複雑にできてるらしい。

 俺が今、遊田に感じてるのは、生殖行動の対象としての魅力というよりも――


 ――悲惨なほどの痛々しさだ。


 俺はなんとなく、遊田が可愛そうに思えてしまったわけだ。


 召愛への逆恨みのあげくに、渾身のメッキ剥がし作戦も空振りどころか、逆効果。

 しかも映画では立役者だったのに、アンチ召愛を貫いてしまったせいで、英雄になり損ねた。

 美味しいところ全部、怨んでる相手に持って行かれちまったわけだ。報われない。


 全てはこいつの逆恨みが原因なわけだが、その馬鹿さ加減や浅はかさが、どうしてか憎みきれない。

「実はな、遊田」

「なによ?」

「俺、今日、二日目なんだ」

「はあ?」

「俺、今日、生理二日目なんだ。

 だから悪いが、ホテルは無理だ」

「意味わかんないんだけど。

 男に、そんなんあるわけないでしょうが!」

「なんだお前、もしかして知らないのか。

 あるんだぞ、男も、ちゃんと血が出る。見るか?」

 と、俺はベルトに手を掛けたが。

「み、見ないわよ、んなもん!」

「遊田って、男慣れしてそうだから、男にも生理があるのを知ってるかと思ったんだがな。もしかして、今まで彼氏が居たことないのか?」

「ふえ?」
 と、あからさまに遊田さんってば動揺してだな。
「し、ししし知ってるもん、男にも生理がある事くらい知ってるわよ。

 ちょっと、ど忘れしてただけ。


 か、彼氏くらい居たもん。

 あんたみたいなダサい奴と一緒にしないでよね!

 ほんと、マジで、今まで50人くらい居たし、彼氏!」

 おいおい……。

 リア充アピールの見栄はりすぎて、ただのビッチじゃねえかそれ……。

「だったら、まあ、そういう訳だ。じゃあな」

 俺は再び、駅に向けて歩き出そうとした。

 するとだ――


 ――遊田の奴、すごい勢いで追いかけてきて、俺の袖を後ろから掴んだんだ。

 

 俺は、ゆっくり振り向いてみた。

「…………」

 遊田は俯いていて、表情はどうしようもなく、寂しげだった。

 体が小刻みに震えてもいた。

 その震えは、復讐が全て失敗した悔しさからなのか、他のどんな感情からなのかは、わからない。


 ただ、遊田が俺の袖を掴む手が、まるで崖から落ちそうになって、必死にしがみついているように、俺には思えてしまった。


 ここでもし、こいつの手を振り解いて、一人ぼっちにしてしまったら、

 どうなるのだろう?


 こいつが落ちて行く奈落の先には、何が待っている?

「なあ、遊田」

「なによ」

「お前の言うことを今日一日、聞かなきゃならないんだろ。

 そうするよ」

「え?」

「お前が言ったことだろ、なに驚いてるんだ」

「だって……なんで?」

「ホテルは二日目だから無理だが、他の事ならできるぞ」

「答えになってない……!」

「お前は自分がやること全てに、答えを用意してからやるのか?

 俺は違う。大概は、取り返しがつかない事をやらかしてから、答えは後から付いてくる」

「それって、何も考えずに行動するってことじゃない。馬鹿みたい」

「そりゃ、お互い様だ。

 お前がまともな思考を持っていたら、

 俺たちはここで、こんな事をしてないだろうよ?」

「……」

 そこで、しばし、遊田は考えたようだった。

 三十秒か、あるいは一分か。そうしてたよ。


 俺たちの陣取るラブホテル前には、まだ夕方だと言うのに、何組かの肩を組んだカップルが歩いてきてたね。

 俺たちを微笑ましそうに眺めながらだ。

 端から見たら、ホテル代をどちらが払うかで揉めてる高校生カップルにでも見えたのかも知れない。


「ならば――


 と、急に胸を張って言ったよ。

デートよ。

 あたしが今日一日、あんたをエスコートしてあげて、メロメロにしてやるわ。そして、召愛は、あたしにひれ伏すの」

 この頭の悪い発想は、さすがと言わざるを得ない。

「言っておくが、俺、金、たいして持ってないからな。

 ろくなとこには遊びに行けないぞ」

「はー、やだやだ、みみっちいわねえ。

 あんたにそんな甲斐性、期待してない。

 いいから、あたしに付いて来なさい」

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