変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第21話「あたしとセックスして、あたしの処女を貰って欲しいの」

エピソードの総文字数=6,046文字

 由美子が渡してくれた名刺は、いかにも女子高生らしいカラフルでポップなデザインだった。
 茶色のうさぎのイラストが大きく入っている。
「……『PLAY GIRL』のうさぎみたいだな」
 リボンを付けたうさぎをモチーフにした、有名なブランドロゴに少し似ている。
「あ、わかる? あたし大好きなのよ、PLAY GIRL! ちょこっとだけ似せたの」
「パクリか」
「違うわ、オマージュよ。PLAY GIRLのうさぎはこんなデブじゃないでしょ?」
「ああ、確かにw」
 名刺イラストの茶色いうさぎはでっぷりしており、おまけに草を咥えていた。
 有名なブランドロゴの洗練された雰囲気とは違い、思わず「おまえまだ食うのかよデブ」と突っ込みを入れたくなるような滑稽さを醸し出している。
「妹ちゃんと合流したら、いつでもうちに来ていいからね。アルタソは夜行性で夜中でも起きてるから」
『Yes,オレは夜の支配者なんだ』
「厨二病かよ」
 反射的に突っ込みを入れつつも、篤志は一人+一匹に心から感謝する。
 挨拶回りで顔を合わせた近隣住民や、買い物で接した店員を除けば、初めてまともに会話を交わした現地人がこの一人と一匹だ。
(こいつらに会えて良かった……)
 彼女たちとの会話で得られたものは多い。
 特に、幕府・警察絡みの話を聞けたのが大きかった。
 もし、ここでこの情報を得ていなければ、きっと自分はそのうち警察に足を運んで相談を持ち掛けていただろう。
「色々教えてくれて本当に助かった。ありがとう。もっとちゃんとしたお礼が出来ればいいんだけど……」
「気にしなくていいわ。唐揚げとコロッケ貰ったもの」
『Yes,appleとsaladの対価なんだ』
「…………」
(なんつーか……)
(食い意地の張った連中だよな……)
 そう思って呆れつつも、気のいい一人と一匹の言葉にほっこりする。
 そこで――
「あ、でも、どうしてもっていうなら、お礼代わりにお願いしたいことがあるのよねー」
 由美子がいきなりそう切り出してきた。
「? なに?」
「あたしとセックスして、あたしの処女を貰って欲しいの」
「――は?」
 脈絡のない申し出に――
 篤志は聞き違いを疑いながら、由美子の顔を仰ぐ。
 その瞬間、篤志はギクリとして……思わず息を呑んだ。
「…………」
(ぶ、ぶっさ……!!)
 そこにいたのは、とんでもない醜女(ブス)だった。
「あたしとセックスしてくれたら、もっと色んなこと教えてあげるわ。ぐへへ……」
「ヒィッ!?」
 目をひん剥いて、由美子の醜い顔を凝視する。
(む、無理だ!)
(こんなのとヤるとか……絶対無理!!)
 胸奥から湧き上がってくる拒絶の衝動に流されそうになりながらも……
 必死で冷静になろうと努め、篤志は思考を巡らせる。
(ああ、でも、そんなこと正直に言えねーよな……)
(どんだけブスでも、こいつはオレの恩人なんだから……)
 断ることは決定している。
 でも、問題はそのやり方だ。
 相手は一応、年頃の少女……さすがにはっきり「おまえみたいなブスとヤりたくない」と告げて断れば、彼女だって傷つくだろう。
 何とかして、彼女を傷つけない方便を絞り出す必要がある。
(大丈夫だ……)
(ブスっていっても、学年で下から三番目くらいだ……)
(下には下がいるし……)
(なによりコイツはブスでも性格が良い……)
(これなら、いずれはカレシが出来るかもしれない……)
(可能性はゼロじゃない、はず……)
(その時のために、処女は大事に取っておくべきだ……)
(そうだ、「自分を大事にしてくれ」――これだ! これしかない!!)
 篤志はごくりと唾を飲み込み、目の前に立つ彼女に告げる。
「あ、あー……いや、その、それは無理です! 自分を大事にしたくて――ごめんなさい!!」
(……あれっ?)
 言ってしまってから、言葉を少し間違ってしまったことに気付いてハッとする。
「ひどっ!」
 由美子が非難の声を上げ、
『HAHAHA,傑作なんだ! 由美子のフラれるところはいつも見ても面白いんだぞww』
 うさぎが可笑しそうに笑う。
 とにかく言い訳をしなければと、篤志は口を開こうとする。
「うーん……またダメかー」
 しかしそれより前に、由美子が溜め息を吐いて<パチン!>と指を鳴らした。
「……――? あれ?」
 まるで夢から醒めたような――
 不思議な感覚にいきなり襲われ、篤志はまばたきをする。
「じゃあ、待ってるからね。気をつけて来てよ?」
「? あ、ああ……???」
 目の前には由美子。
 足元には茶色いうさぎ。
(……???)
 なにか……よくわからない焦燥に駆られていた気がする。
 手のひらにはべったり汗を掻いていて、脈拍も少し早いような気がするが……
 自分が一体何に焦っていたのか思い出せない。
(…………)
(まぁ、いっか……)
(そんなことより、こいつらの連絡先もゲットしたことだし……)
(一旦帰って、今後のことをよく考えよう……)
 ポイ捨てをしたら殺されるらしいので、近くにゴミ箱があるのが見えたが、念のためゴミ類は丁寧に全てピニール袋に詰めて持ち帰ることにする。
「ホントにありがとう。それじゃ」
「じゃーねー」
「…………」
 借りた指輪を返したので、もううさぎの声は聞こえない。
 篤志は一人と一匹に別れを告げ、その場を立ち去った。


……

…………


 もうすっかり暗くなってしまった。
 公園を抜け、篤志は足早に帰路を進んでいく。
「…………」
(ホント良かったよ……)
(親切な現地人と出会えて……)
 見知らぬ土地で不安だった分、彼女たちの親切がじんわりと心に沁みた。
 でも、この温かい安心感に流されて、これから先もずるずると彼女たちを頼るのはやはり良くないと思う。
(あの豪邸は気が休まらねーけど……)
(やっぱさすがに、あいつらの家に転がり込むのは駄目だよな……)
 彼女たちは篤志を転移者だと思っている。
 だから、親切にしてくれたのだ。
(本当は転移者じゃねーしな、オレ……)
 篤志の最終目標――
 それは、然るべき公的機関に自分の事情を打ち明けて"被害者"として保護してもらい、本土に帰ることである。
 昨日から励んでいる情報収集も、そこに繋がる過程でしかない。

 さっきの話で『然るべき公的機関』として、最も相応しいのが中央区の市役所、次点が西区の僧院だということが分かった。
 ただ、篤志の考えとしては、市役所に行く前に僧院に相談を持ち掛けておくべきだと思う。
(最終的には市役所で問題を解決してもらうとしても……)
(その前に寺で相談しておけば"根回し"になるよな……)
 最悪の場合、市役所が篤志の言い分に耳を貸さず、形式主義的に篤志を"加害者"として扱うことも有り得る。
 その前に"被害者"として寺で相談をしておけば、寺の方で何かしらの口添えをしてくれるかもしれない。
(市役所は土日(明日・明後日)休業してるらしいし……)
(ちょうどその間、寺に行けばいいんだよな……)
「…………」
 悪くない計画だと思う。
 でも本当はもう一つ慎重になって、寺に行く前に話をしてみたい人がいる。
(あいつらの家の隣……)
("本土から来た転移者のお姉さん"が住んでるんだよな……)
 由美子たちには迷惑を掛けたくないが……
 そのお姉さんとやらには是非とも一度会って、相談をしてみたい。
 現地人の由美子たちとは違った視点で、有用なアドバイスをくれるかもしれない。
(でも、そのお姉さんに会おうと思ったら……)
(やっぱ、由美子たちを間に挟まないといけないよな……)
(あいつら、いいヤツらだったし、出来れば巻き込みたくないんだけど……)
 由美子に貰った名刺の住所を目でなぞりながら、篤志は葛藤する。
 由美子に貰った名刺の住所を目でなぞりながら、篤志は葛藤する。
「…………」
(つうか、この名刺――)
(【Unetter】とか【Unestagram】のIDが書いてあるんだけど……)
(これって、この島独自のSNS?)
(オレらが使ってるSNSのパクリか???)
「――ん?」
 何の気のなしに名刺を裏返してみたところ、裏側にも何かが印刷されていることに気付いた。
 表面にもあったリボンを付けたデブうさぎのイラスト。
 その横の吹き出しに、元気なフォントで大きく書かれている文字は、


 依頼募集中!
 浮気調査なら竹沢探偵事務所におまかせなんだぞ!

「……???」
(……竹沢、探偵事務所?)


……

…………

 田中正男と名乗る本土人が立ち去った後も、由美子たちはまだ公園のベンチで話をしていた。
 由美子はベンチに腰を下ろし、アルタソはその辺の雑草を食っている。
「しっかし、二人目の転移者に出会えるなんてね。転移者って結構レアな存在なんでしょ? あたしってツイてるのかな?」
『まぁ、確かに転移者は珍しいんだ。そうそう出会えるものじゃないんだぞ。でも、あいつはもしかしたら転移者じゃないかもしれないな』
「えっ? なんで? 本人が言ってたじゃない、転移者だって」
『それはたぶん嘘なんだぞ。それを言った瞬間、あいつの心音がちょっと乱れたんだ』
 聴力の良いアルタソは、近くにいる人間の心音を聞き取ることが出来る。
 人は嘘を吐く際、動揺から心音が僅かに乱れるものだが、アルタソの耳はその乱れすらはっきり聞き分けられるのだ。
「えっ、そうなの? じゃあ、転移者じゃないなら、マサオは本当は何なの?」
『さぁ? まぁ、さっきも言ったがこの町に本土人がいるとしたら、①密航、②亡命、③異世界転移――このどれかなんだが……どりあえず②ではないな。亡命者にしてはこの町のことを知らなさすぎたんだ』
「知らずに亡命してきたんじゃない?」
『本土人の大半はこの島の存在を知らないんだぞ? 存在すら知らない場所に亡命するのは無理があるんだ』
「じゃあ、別の場所に亡命しようとしたけど、道に迷ってここに辿り着いたとか?」
『その場合、羽音神自警団が島の周りに張っている結界に穴があるってことになるな。大問題なんだ』
「うーん、そっかぁ……」
『何より、本土の政治はそこまで荒廃してないんだ。亡命者なんて珍しいんだぞ。たまに熱心なoccult maniaがこの羽音神島に憧れて移り住みたがるくらいなんだ』
「じゃあ、マサオもそれなんじゃないの? 熱心なオカルトマニア!」
『おまえは本当にバカだな。思い付きで発言せずに少しは脳みそを使えよ。熱心なoccult maniaならこの島のことをよく知ってるはずなんだ』
「クッ!? あー……でも、そうねぇ……」
『①の密航なら有り得るかもな。本土人を奴隷にするために攫ってきて、市内に連れ込んで売り捌く犯罪は昔からちょいちょいあったんだ』
「!? じゃあ、マサオは奴隷なの?」
『うーん……そうだな、マサオは奴隷として連れてこられた――それだと妹と一緒という話は辻褄が合うんだ』
「なるほど! 兄妹で売られてきたのね」
『でも、それだとあいつの格好に説明がつかないな。高価な本土brand itemを全身に纏った奴隷というのもおかしな話なんだ』
「そうねぇ、マサオの履いてたMIKEのスニーカー……あれ、中古品でも軽く三十万はするもの」
『あいつの態度自体は転移者のそれに近かったんだがな……やっぱりちょっと引っ掛かるところがあるな』
「まぁ、何でもいいじゃない。きっと悪いヤツじゃないわ。唐揚げもコロッケもくれたし」
『そうだな、appleとsaladをくれたんだ。きっといいヤツなんだぞ』
 そう結論付けて、一人と一匹はこくりと頷く。
「じゃ、そろそろ帰りますか!」
『そうだな、そろそろ帰って夜のオヤツを食うんだ』
「まだ食うんかい」
 そこで、由美子のスマートフォンから音が聞こえてきた。
 インスタントメッセンジャー【Unetalk】のメッセージ通知音だ。
「お、誰だろ? ――あ、友ちゃんだ」
 『友ちゃん』は、由美子の中学時代からの親友である。
 去年、同じ高校に進学して同じクラスになった。
 由美子たちの学校は進級時のクラス替えがないので、今年も同じクラスだ。
「あっ! 大変よ、アルタソ!」
 届いたメッセージを確認し、由美子が騒ぎ出す。
『? なんだい?』
「例の迷子猫よ! 見つかったってさ!」
『Oh,nice! あの"焦げ猫"もなかなかやるじゃないか!』
「今、友ちゃんちにいるんだって。あたし、ちょっと行ってくるわ!」
『OK,それじゃオレは家に戻るんだ。焦げ猫には会いたくないし、報告書も作らないといけないし、マサオがうちに来るかもしれないんだ』
「そうね、それじゃそっちは任せたわよ」
『夜のオヤツも食わないな』
「それはどうでもいいわ」
 由美子はアルタソと別れて、西に向かった。


……

…………


 桜町ふれあい公園を出た由美子は、桜町商店街に入ってアーケードを進んでいく。
 時間が時間なので、日売品の割引タイムを迎えており、商店街は大いに賑わっていた。
 とはいえ、通行に苦労するほど混み合っているわけでもなく、スムースに目的地に辿り着いた。

 モンスター肉を取り扱っている、コロッケが美味しいことで有名な精肉店。
 その隣に、見るからにおどろおどろしい外観の黒魔術専門店――【黒猫堂】と看板を掲げた店がある。

 その店の前で足を止めた由美子。
 入り口のドアを開けると、<ギイィィ……>とやたら薄気味悪い音がした。
 外観も不気味だが、薄暗い店の中はますます不気味である。
 壁に掛けられた魔法陣には血のような大きな染みがあり、巨大な瓶の中では蜘蛛やウジ虫が蠢いている。
 植木鉢の植物は「ううう……」と呻き声を上げているし、ショーケースにずらりと並べられた小さな薬瓶は見るからに毒薬である。

 しかし由美子はそれらを特に気にすることなく、店奥のカウンターに目を向けた。
「やっほー、友ちゃん!」
「あ、由美子だ、いらっしゃい♪」
 カウンターの中にいた黒いローブの少女が、由美子の姿を確認して笑顔で手を振ってくる。
 この黒魔術専門店の娘が『友ちゃん』――
 由美子の親友・穂積友子(ほづみともこ)である。
「迷子猫、見つかったんだって? ありがとね!」
「ううん、私は何もしてないよ。見つけてきたのはクロだし」
 そう言って、友子は手早く黒ローブを脱ぐ。
 そして由美子を手招きし、カウンター奥の住居部へと続くドアに手を掛け「上がってって?」と笑う。
「あれ? 店番はいいの?」
「うん、いいのいいの。この時間はお客さん少ないもん。うちのお客さんって雰囲気重視の人が多いから、みんな夜中に来るんだよね。それに呼び出しベルもあるから」
 確かに、現在店内に客の姿はない。
「ちょうどね、そろそろ晩ごはん食べに行こうかなって思ってたところなの。あ、もしよかったら由美子もごはん食べてく?」
「えっ、いいの!? 食べる食べる!」
「えへへ、今夜は肉じゃがだよ」
「わーい♪ やったぁ、肉じゃがだ! お邪魔しまーす!」
 こうして由美子はカウンターの中に入り、穂積家の住居部に上がり込んでいった。

◆作者をワンクリックで応援!

2人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ