【トーク版】二年少女~ギャラクシー・ファンタジア・オンライン~

第05話「普遍のルール」

エピソードの総文字数=5,944文字

 昔、ギルド[もえと不愉快な仲間たち]に所属していた[あつもり]と言うメンバーが居る。


 GFOのプログラム解析が趣味で、将来のアップデート用に設定してあるデータを抜き出したり、ゲームの脆弱性を見つけ出してはアイテムを増殖させたり、ジェムを増やしたり、果ては能力値を書き換えたりとやりたい放題やった結果、数度のアカウント追放(BAN)を繰り返したにも関わらず、今でもこのウェストエンドの街にひっそりと暮らしている。

 アカBANごとに[おおもり][とくもり][ひやもり]と名前を変えた彼は、今は[あつもり]と名告(なの)っていた。


 基本的には悪意のあるユーザーではなく、ステータスの書き換えなども本人曰く「好奇心の赴くまま」に行っただけですぐに元に戻したのだが、どんな理由であれそんなプレイヤーを運営が放置しておくわけもなく、BANされるたびにギルドメンバーにも被害が飛び火するため、今はソロプレイヤーとしてギルドとは距離をおいていた。

 現在の状況打破のために、GFOのログ出力の内部ロジックなどの話を聞けそうな相手の中では、一番合うことに現実味があるのがあつもりだった。

きっとあつもりなら何か知ってるさ。無停電電源(UPS)つけたPCで24時間ログインしっぱなしだし、たぶんこの世界に来てるだろ

 身長に見合わない大剣を担ぎ、倉庫に転がっていた幾つかのアイテムを背中に背負いながら、シェルニーは捜索隊を組織することに決めた経緯を語る。

 深く考えることは苦手だったが、この少女のような姿のギルドマスターは、決めたことをすぐに実行する行動力に長けていた。

よしお前ら、準備はいいか?

 ブーツの留め金をパチリと鳴らし、振り返ったシェルニーの前に並んだ捜索隊のメンバーは、ギルドマスターの他に4名。

 特殊技能系の魔法などが使用できるかどうかもわからない今、物理攻撃職だけでパーティーを組むことも考えられたが、どういう事態になるか予想もできないので「物理攻撃もある程度こなせる上位職による基本パーティー」で行くことになった。


 内訳は近接攻撃職2名、射撃職1名、回復職1名、魔法攻撃職1名。

 GFOでの基本パーティー構成である。


攻撃職1:シェルニー、[鷲の戦士]Lv50
攻撃職2:[Kenta02]ことケンタ、[侍]Lv50
射撃職:もえ、[双銃士]Lv47
回復職:黄飛虎(こうひこ)、[福音師]Lv48
魔法職:プルフラス、[死霊術師]Lv50

 もえが参加することには危険だと言う意見も出たが、あいにくとこのギルドに射撃職はもえ一人しか居ない。

 これは偶然ではなく、前述の基本パーティー構成とギルドの成り立ちによるものだ。

 基本パーティー構成でクエストに出かけるとなると射撃職は1人しか必要ではないため、自分も射撃職である場合、必然的にもえとパーティーは組みにくいと言うことになる。

 ケンタなどは「もえさんと一緒にクエストしたいっす」と、元々[Kenta]と言う[狙撃手]を使っていたのに、わざわざ[戦士]を新たに作り、今では上位クラス用アイテム[レアリティ8]太刀ドウジギリヤスツナを得て[侍]としてレベルカンストしている程だ。


 それ以外の大きな理由に「自分のクラスでは使わない射撃系のレアアイテムをもえにプレゼントするため」と言うのもある。

 もえの愛銃[レアリティ8]二丁拳銃アイアンメイデンもそうして手に入れたアイテムで、クラスも[銃士]から上位職の[双銃士]に変わっている。


 とにかくまぁ、そういうギルドなのだ。


 こうして編成された捜索隊は、留守をサブギルドマスターのコロスケ伯爵に任せ、日が暮れるまでの6時間を目処に捜索を行うことに決まった。

あつもりは多分自分の部屋にいるぜ。あいつ課金してないのに自分の部屋持ってんだ

 シェルニーはその場所も知っていると言う。

 マイルームのある地区はギルドの有る地区に隣接しているため、普通の状況なら5~6分ほどで到着する距離だが、今は何が有るかわからない。

 途中、この世界で最も人が多いはずの中央広場を偵察し、他のプレイヤーたちの雰囲気を探るのもまた今回の目的の一つであるため、余裕を見て6時間という時刻を設定したのだった。

無理は禁物ですぞ
あぁ、危なくなったらすぐ逃げる。心配すんな。それよりギルドを頼むぜ

 コロスケ伯爵に送り出されて先頭のシェルニーがギルドのドアを開ける。

 暗雲垂れ込める空の下、見渡すかぎりの煤けたビル群に人の姿はなかった。


([双子の水晶]は同じエリア内では役に立たないからな、街中で襲われる可能性があるってのは、ある意味やっかいだぜ)

 もえは射撃職だ。射撃職は視力関係のパラメータが高い。

 素早く周囲に目を向けて警戒する彼女を遮るようにして、ケンタと黄飛虎が我先にとドアをくぐり、パーティーは街へと踏み出した。


おお! [タウン・オブ・ウェストエンド]! 表示も解像度上がってるって言うか……リアルでかっこいいね!
そっすね! このGFOの[ギアフォント]やっぱ俺好きっす!

 黄飛虎が急に大声を出し、ケンタが嬉しそうに同意する。

 誰もいないギルドルームエリアに大きく響いたその声に、シェルニーが慌ててケンタの尻を蹴飛ばした。


おいお前ら少し声落とせ! ……で? どこにエリア名が表示されてるって?

 シェルニーの問いにケンタが尻をさすりながら不思議そうな顔を向ける。


え? 出てないんすか? こう……このへんに
そうそう、このへんだよね。……うわ、さわれた!
マジっすか?! 俺の表示消えちゃったっす。もう一回ギルド入ろ!

 二人は自分の目の前、手を伸ばした辺りの空中を指さしていた。


 デフォルトの設定では、確かにその辺りにエリア名が数秒間表示される。

 だが、そんなものは全て頭に入っている廃人たちは、邪魔な表示はされないように設定しているのが普通だった。


 急いでギルドに戻り、空中を撫で回しながらまた出てきたケンタが喜びの声を上げる。

すげー! マジさわれるっす!
お前らそんな邪魔な表示オフに設定してなかったのか。……っつーか表示出んのか。うむ

 ケンタの子供のような振る舞いに突っ込みを入れつつ、シェルニーは顎に人差し指と親指を伸ばして当てると、なにか考えこんでいる。

 たぶん同じ考えに至っているであろうシェルニーを見つめて、もえも表示が出るという事実について考えを巡らせた。


(……シェルニーも気づいたか。表示が出るってことはメニューも出るって事だ。それに、表示されたオブジェクトに触れるってことは、メニューさえ表示することができれば、物理的にそれを操作することも可能なんじゃねぇか……って事だよな)


 もえとシェルニーの目が合う。

 顎に当てていた手で後頭部をガリガリとかき、もえにむかってひとつ頷くとシェルニーは皆を急かした。


……まぁとにもかくにも今は偵察とあつもりの捜索だ。急ぐぞ

 まだ空中で手を動かしているケンタたちの背中を手のひらで叩くと、ギルドマスターを先頭に、捜索隊は街の中心へと向かって歩き始めた。


  ◇  ◇  ◇


 曇天の中央広場は閑散としていた。


 いつもならマーケット表示になった人たちで座る場所もないような場所なのにだ。

 端の方に何人かがぽつりぽつりと座っているのが見えるが、動く気配もない。

 ただ蒸気機関のゴウゴウと言う振動だけが低く響いていた。


 5人で壁の後ろにかたまり、中央広場を観察する。

 黄飛虎が後方を警戒する中、不意に聞き覚えのない声がボソリとつぶやいた。

いくらなんでも……人……少なすぎ……

 全員の視線がそこに集まる。

 ワインレッドのマントで体を包み、金色の鋲が並んだ革製テンガロンハットを目深に被った[死霊術師]プルフラスがそこで片膝立ちになっていた。


えっ?
うわ!
うぉっ、プルフラスが喋った!
てかプルフラスさん、女子っすか?!

 確かにその声は女の子のそれだった。

 プルフラスのマントがわずかに上下する。

 肩をすくめたのだろう。

 もえも含めて全員の視線がプルフラスへと集中する中、ただ一人正面を向いていた彼女が、小さく言葉を続けた。

あ……動く……

 プルフラスの声に促されて再び広場に目を向けると、座っていたプレイヤーの一人が立ち上がり、広場の中央に向かって大声を上げる。


おーい! 決めた! おれもやってくれ!

 男はキョロキョロと周りを見回しながら広場を歩きまわっていた。


……おーい! 居ないのかー! 頼むよー!

 誰かを探しているらしいが、相手が現れる気配はない。


なんだろう、すごく嫌な予感がします

 得体の知れない恐怖に襲われ、もえは我知らずケンタの服の裾を掴む。

 服の裾ともえを交互に見、広場の男に目を向けると、ケンタはそっともえの手を握り、裾から離した。


俺、止めてくるっす

 シェルニーの静止も間に合わず男のもとへケンタは飛び出す。

 50レベルの侍の瞬発力は並ではない。

 最高レベルでのみ取得できる特殊スキル「縮地(しゅくち)の法」は、彼我(ひが)の間合いを一瞬で無にする。


ちょっとあんた! なにやって……

 ケンタの伸ばした手の先で、振り返った男の体が跳ねた。


 眉間から一条の血を吹き出している姿を目で追うケンタの後方、仲間たちの居る場所のさらに向こうから、遅れて銃声がこだまする。

 立ち尽くすもえ達の横を人影が風のように通り過ぎた。

 一瞬でケンタさえも追い抜いた人影は、倒れゆく男の首を一刀のもとに薙ぎ払う。

 転がった胴体の上に歯車とパイプで形作られた独特な文字が十字架のマークとともに浮かび上がり、それは[死亡まで 10 秒]と言う形を取った。


 プレイヤーがニアデス状態に陥ったことを表す蘇生限界表示だ。

 この表示が0になるまでに蘇生呪文や蘇生アイテムを使用すれば、デスペナルティを受けること無く、この場で復活できる。

 しかしアイテムメニューを使用できないケンタには、彼の命を呼び戻す手段は何もなかった。

黄飛虎! 早く! 蘇生呪文頼むっす!

 振り返ろうとしたケンタに血に濡れた剣が襲い掛かる。

 ケンタの[レアリティ8]太刀ドウジギリヤスツナが鞘走り、甲高い金属音とともに血の花を咲かせた。

 つばぜり合いの形になり、忍者のような黒装束の殺人者と睨み合ったケンタは、ジリジリと押し潰される。


 チラリと仲間の方に目をやると、同じく忍者3人との乱戦状態になっているもえたちの姿が見えた。

 つばぜり合いから弾き飛ばされたケンタの目の前で、先ほど殺された男の蘇生限界表示が0を告げる。


 男の遺体は、火花と蒸気の渦となって……消えた。

っくそ! なんでっすか! なんなんすかっ! あんたっ!

 言葉にならない怒りをその刃に乗せて、太刀ドウジキリヤスツナを打ち付ける。

 しかしスキルも使えず力任せに打ち付けるだけの剣戟は、黒装束の男に余裕を持って受け流され、更に反撃の刃はケンタのHPを削っていった。


(くそ、これじゃあジリ貧じゃねぇかっ!)


 もえたちも苦戦していた。

 3人の忍者が入れ替わり立ち代り、変幻自在に襲いかかり、時折どこからとも無く狙撃される銃弾にもHPを削られる。

 ほぼレベルカンストの上位職のみで構成されている、この世界では最強レベルであるはずのもえたちのパーティーは、ジワジワと死に近づいていた。


……んっ……

 プルフラスが吐息とも掛け声とも取れる言葉とともに腕を伸ばす。

 彼女の声に反応して、トンファーのような真鍮製の武器、[レアリティ8]魔導具アルス・ノトリアが突然発光し、忍者達の真ん中に龍牙兵が召喚された。


ん……でた……

 プルフラスがコクコクっとうなづく。

 突然現れた龍牙兵にバランスを崩された忍者達に数瞬の隙ができた。


おっしゃ! 今だ! 逃げんぞ!

 その隙を逃さずシェルニーが叫び、ついでに壁際にあった木箱を蹴り飛ばして走りだす。

 転げるように方向転換して、もえたちも、ケンタの方に走った。


……武器に……
え? なんですか?

 ケンタの元へと走りながら、もえはプルフラスのつぶやきに聞き返す。


……設定されてる……スキルは……つかえる……のっ……!

 追いすがる忍者へ向けて伸ばしたアルス・ノトリアから、また龍牙兵が生まれる。

 攻撃力はともかく、雑魚を引きつけるためのタンク代わりとして使用される龍牙兵は、忍者に対する足止めという役割をきっちりと果たした。


(そうか! メニューを介さなければGFOのルールは変わらない! メニューから[飲む]を選ばなくても、本当に飲めばポーションが効くのと同じだ!)


ケンタさん! よけて!

 叫びざま、もえは[レアリティ8]二丁拳銃アイアン・メイデンの左の弾倉を抜き取り、前方へ投げ飛ばす。

 そのまま時計回りに一回転し右の銃で弾倉を撃ちぬくと、一瞬前までケンタの居た空間で中規模の爆発が起こった。


うっひょ! もえさん容赦ねぇっすね!

 湿った石畳の上を3回転したケンタが立ち上がりながら振り返ると、今まで対峙していた忍者の位置には、十字架のマークと[死亡まで 10 秒]の表示が出ていた。


よし! 行けんぞ! 戦術的撤退だ!

 合流した5人は、黄飛虎の[レアリティ7]偽典ゴエティアに設定されていた回復呪文を受けつつ、撤退を開始した。


はぁ、予備弾倉アイテムバックの中だから取り出せないよー
ははっ! そりゃあもう一丁拳銃だな
俺マジでもえさんに殺されるかと思ったっす!

 軽口を叩きながら、もえたちは通りを駆け抜ける。

 命の掛かったこの場面だと言うのに、その様子はまるでディスプレイ越しにゲームを楽しむプレイヤーのようでもあった。


だってアイアン・メイデンに設定してあるスキルがアレだったんですから、仕方がな……!

 もえの言葉は、突然鳴り響いたF1マシーンが通り過ぎたような甲高い音で遮られる。

 足元の石畳が爆ぜ、辺りには音の余韻がこだました。


なっ?!
狙撃スキルだ! 建物に隠れろっ!

 シェルニーの声を合図に四人はその場から同時に飛び退る。

 四人が見つめる中、たった一人竦んだように身動きできずに居たもえが、右肩から血を吹き出し、スローモーションのように石畳へと崩れ落ちた。


もえちゃん!
もえさん!

 駆け寄ろうとする仲間ともえの間に、先ほどと同じ銃弾が数発連続で打ち込まれる。

 その弾幕の向こうで、ピクリとも動かないもえは、いつの間にか追いついていた黒装束姿の男達に引きずり起こされ、連れ去られて行った。


 シェルニー達は、その男たちの姿が消えてからも、壁の影から出ようとする度に狙撃を受け、数分間移動する事すら出来ずに釘付けにされる。

 ようやく動けるようになった頃には、もうすでに周囲は静寂に包まれていた。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ