【トーク版】二年少女~ギャラクシー・ファンタジア・オンライン~

第17話「死の遺跡」

エピソードの総文字数=4,432文字

 体がどこまでも落ちていくような感覚に、もえは息を呑み目を覚ました。

 体はボロボロと崩れる脆い炭の塊に埋まり、かろうじて顔だけが表に出ている。

(なんだこれ……?)
 何気なく炭の塊を押しのけると、体中に激痛が走った。
ぎっ……い!

 体中からやけどをしたような、骨という骨を砕かれたような鮮烈な痛みが一気に吹き出し、崩れ落ちる炭とともに、もえは地面に落ちてのたうつ。

 転がって見上げた炭の塊の上空には[ゲートキーパー 復活まで 598 秒]と言う文字が浮かんでいた。

(……あ、ゲートキーパー! 倒せたのか?)

 痛みは少しずつ退いてゆく。

 もえはまた痛みが襲ってこないかと恐れながら、ゆっくりと立ち上がった。

あーもえちゃんごめんねー。また死んじゃったー。2回目だよー、とほほー

 瓦礫の影から緊張感のない声が聞こえ、ヘンリエッタが顔を出す。

 その表情は痛みに歪み、言葉ほど穏やかではなさそうだった。

(そうか……俺も死んだ……いや、生き返ったのか)

 首に下げた[復活のロザリオ]を確認すると確かに3つしか無い。

 確かに一度、もえは死に、そして生き返っていた。

(あれが……死の痛み……)
 身体をブルっと震わせて、もえはヘンリエッタの隣へと歩み寄った。
ずるいよねー。トドメさしたら爆発ってさー……
そうですよね! こんなの一回目はみんな全滅じゃないですか!
だよねー、デザイナー絶対ネットで叩かれるよー
……ぷっ! ふふふ
……ぷぷっ! あっはははーっ

 現実の命をかけて戦い、勝利した瞬間に逃れられない死が襲ってくる。

 実際に命を落としたばかりなのに、生きていてゲームへの不満を話している。

 あまりの無茶苦茶さに2人は顔を見合わせ、思わず笑い出した。

動けますか?
 自分の体を確認しつつ、こちらも関節を曲げ伸ばししているヘンリエッタの様子を確認する。
んー、もえちゃんよりは大丈夫かなー
 ヘンリエッタは弾倉を確認して銃を構え直し、微笑んでゲートを見る。
では、先を急ぎましょう

 ゲートキーパーの復活表示は残り535秒まで減っている。

 いくら弱点が分かったとは言え、もう一度あれと戦いたいとは思えなかった。


 2重ゲートの間にある倉庫の中はひんやりとして薄暗い。

 壁にかけられているホコリまみれのランタンに明かりを灯すと、乱雑に積み上げられた品々がホウッっと浮かび上がった。

 急いでジェムや装飾品の山を崩し、中からいくつかの回復ポーションや双子の水晶を見つけたが、目的の[アーティファクト・ボスガキタ]はなかなか見つからない。

あつもりさんの話だと、手のひら大の古代の機械って事でしたけど……
だよねー、……あー? もしかしてー、これかなー?

 ヘンリエッタがゼロハリバートンのアタッシュケースを模したような、手のひら大のケースをひょいと持ち上げる。

 ケースにはドッグタグのようなプレートがぶら下げられており、そこには「BOSS BUTTON」と刻まれていた。


 もえが「それです!」と叫ぶのと、甲高い金属音が鳴り響くのはほぼ同時。

 ヘンリエッタの空色のエプロンドレスに真っ赤なラインが横一線に浮かびだし、背中に背負っていた[レアリティ7]シュツルム・ゲーヴェル762が綺麗に2つになって床に落ちる。

 同じように2つに分かれて崩れ落ちたヘンリエッタの背後に一瞬だけ赤紫色の大鎌(デスサイズ)(きら)めき、すぐに真っ白な十字の光の影に消えて見えなくなった。

ヘンリエッタさん!
 即座に[レアリティ7]双機関銃ツヴァイハウント・クルツを構え、ヘンリエッタの復活の光越しに掃射する。
(しくじった! 中ボスとは言え2人で倒せるようなのが1匹で終わりな訳ないじゃねぇか! もう1匹居たって当然だ!)

 確かな命中の手応えがあり、黒い影が部屋の奥に吹き飛ぶ。

 機銃掃射の射線の下で、口から血反吐を溢れさせながらもヘンリエッタが光の中からよろめき出た。

 体を引きずりながらボスガキタを拾って、転がるようにもえの足元にたどり着き、口を拭ってよろよろと立ち上がる。

ぐぶっ……ぺっぺっ……もえちゃ……逃げよー

 奥に吹き飛んだ影はすぐに動く気配はない。

 何より目的のものを手に入れた今、あえて戦う意味もなかった。

そうですね、今のうちに逃げましょう
 もえは復活の光の中で修復されたシュツルム・ゲーヴェルを拾い上げ、ヘンリエッタに渡しながら決断した。
うん、ありがとー。行こ……う

 苦しげながらも笑顔で銃を受け取ったヘンリエッタの目が、一瞬で大きく見開かれるのがスローモーションのようによく見えた。

 殺気を感じて振り返ったもえの構える銃が、次の瞬間弧を描いて腕ごと空中に吹き飛ばされる。

 もえはすとんとしりもちをつき、長く赤い糸を引いて自分の両腕が床に転がるのをただ見つめた。

 呆然としたもえの顔を自分の腕から吹き出た血が赤く染める。

あ……ぎゃ……あああああああああ!
 絶叫するもえの隣で、銃を構える時間もなく打ち倒されたヘンリエッタの体の上に、艶かしいボンデージのレザースーツに身を包んだ妖艶な女性殺戮者が、旧式のガスマスクから漏れる呼吸音と共に大鎌を振りかぶっているのが見えた。
(殺される! ヘンリエッタも俺も!)

 そう思った瞬間、武器もなく自らにも死が迫っているにもかかわらず、もえは咄嗟に殺戮者へ体をぶつけた。


 ヘンリエッタはもう3回死んでいる。


 もう彼女に[復活のロザリオ]は1つしか残っていない。


 自分にはまだ3つのロザリオが残っている。


 その時、そんなふうに冷静に考えていた訳ではないだろうが、後から考えればそう言う意識があったのかも知れないと、もえは思う。

 ただその時は「友達を助けたい」それだけを強く思ったのを覚えていた。


 肩から突っ込んだもえに殺戮者はよろめく。

 しかし一瞬後にはすぐに体制を立て直し、肘から先がなく捕まえることも出来ずに居るもえを蹴り飛ばすと、2度3度と大鎌を振るった。

 大鎌が振るわれるたびに「ぎゃっ」「ぐっ」と言う聞くに堪えないもえの悲鳴が上がる。

 4度目の鎌が深く突き刺さった時、そこに白い十字の光が立ち昇った。

 光を見た殺戮者はもえに興味を失い、ヘンリエッタに向き直る。


 ヘンリエッタは逃げるでもなく武器を正確に殺戮者の眉間へまっすぐ向けていた。

 レーザーサイトが殺戮者の大きなゴーグルの中心に焦点され、タタタッと銃声が響く。

 正確に中心を捉えた7.62mm弾が、女性殺戮者の額から頭蓋を貫通し、後頭部から血と肉片をまき散らした。

 銃弾の勢いで後方に2回転した殺戮者は、先ほどと同じように動き出す気配もないまま倒れている。

 しかし、これでもまだとどめを刺せたとは、ヘンリエッタは確信できなかった。

もえちゃーん。もうまずいよー。7~8分は経ってる……
 右目と右耳から血を流し、自分の手を確認していたもえもその意味に気づく。
……うん。復活する前に逃げなきゃ。ボスガキタ忘れないでくださいね

 目に血液が流れ込み視界が狭くなったもえは、手探りでツヴァイハウント・クルツを拾い上げる。

 その頭上に三度(みたび)大鎌が煌めいた。

来ると思ってました

 飛び退りざまに銃を打ち込むと、やはり殺戮者は吹き飛び動かなくなる。

 これはもう想定の範囲内だった。

ヘンリエッタさん、このモンスターは何か特殊な攻撃で倒さないと無限に復活するタイプだと思います。気をつけて

 自分の血とヘンリエッタの血、そして返り血が入り混じった匂いに吐き気を覚えながら、もえは急いで倉庫の外に飛び出した。


 外にはまだ穏やかな朝の光が降り注ぎ、山から涼しい風が吹いていた。

 消し炭の山には数羽の小鳥が羽を休めていて、突然現れたもえたちに抗議するようにさえずると、一斉に飛び去っていった。

もえちゃーん……あれー……

 ヘンリエッタに促されて消し炭の上空へ目をやると、そこに浮かび上がっていたのは[ゲートキーパー 復活まで 3 秒]の文字。

 見る間にその文字は[2 秒][1 秒][0 秒]とカウントダウンされ、巨大な白い十字型の光を放つと、中からゲートキーパーが立ち上がった。

とにかく逃げましょう!
にげよー!

 一斉に駆け出す2人に一瞬遅れて、ゲートキーパーがゲートに向けて突進する。

 半壊したゲートから身を起こした巨人は、2人の行方を先回りするように鎖を振り下ろした。

路地に!
おっけー

 巨人の背後に有る倉庫へ入らなければならなかったさっきまでとは違い、今はとにかく離れればいい。

 その点では自分たちが少し有利だと、もえは思った。


 幾度も襲いかかる鎖を躱し、路地へと飛び込もうとしたもえの目の端に赤紫色の月のようなものがよぎる。

 その赤紫の月が一瞬でもえまでの距離を詰め、右足を薙ぎ払った。

きゃあぅっ!

 地面に転がるもえの目の前に立っていたのは、艶かしいボンデージのレザースーツに身を包んだ妖艶な女性殺戮者。

 蜘蛛の巣のようにヒビの入ったガスマスクの奥から、シューシューと言う蛇のような呼吸音が漏れていた。

(くそっ! 足が動かない!)
 殺戮者の振り上げた大鎌の目の前から、巨大な岩の手がもえの体を持ち去る。
っぐううううう!

 以前にも味わった圧倒的な圧力がもえを締め付け、体中からバキバキと言う気味の悪い音が伝わってくる。

 慌てて引き返したヘンリエッタがまたヘッドショットを何度も決めるが、そう簡単に倒せる相手ではない事は分かっていた。

(ダメだ……ま……た……死ぬ……)

 それは確信だった。

 このまま握りつぶされ自分は死ぬ。

 そして復活してもまだ自分はこの大きな手の中だろう。

 何度復活したとしてもこの状態から逃げられない限り、苦痛が何度も繰り返されるだけだった。


 巨人の握りしめた拳の中で、グシャリと言う音とともに光の十字架が輝き、つぶれたもえの体が再構築される。

 しかし再構築された体には、また死への圧迫が加えられ続けるのだった。

っぎぃっああああっ! ……ヘン……リエッタさ……ん! 私はも……うダメです! ……ぐうううううっ! ……ス……イッチを! あつもりさん……に……届けて!

 ヘンリエッタが居てくれてよかった。

 最初に計画した通り一人で決行していたら、目的の品まで辿り着くことすら出来なかっただろう。

 しかし今は希望を託すことが出来る仲間がいるのだ。

 それは死しか見えない現状において、得難い喜びだった。


 巨人の拳の中で死を覚悟したもえに向かって、大鎌が横薙ぎに振り回されたのはその時だった。


 岩の拳の中のもえに向かって、殺戮者はアルゴリズムに従い何度も何度も大鎌をふるう。

 少しずつ拳を削ぎ落とされた巨人は、うっとおしそうにもえを握ったままの拳で殺戮者にバックハンドブローを見舞った。

 吹き飛ばされる殺戮者とともに、もえも十数軒先の建物まで吹き飛ばされる。

 飛ばされた先、遠くの遺棄された建物の屋上に、小さく白い十字の光が立ち上った。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ