超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

心の友以上、恋人未満。

エピソードの総文字数=2,928文字

 そのまま俺は、遊田に手を引かれて、校舎まで行ったよ。


 最初に向かったのは警備室だ。

 そこで落とし物として鍵が届けられてないか確認した。


 が、無かった……。

「こうなったら、手分けして探すしかないわね……」
「だな……。けど、知ってるか。

 他の高校の奴らからは、うちの学校はこう言われてるらしいぞ。


『羽里学園には運動部はないが、校内が広すぎて、歩き回るだけでも、半端な部活よりも消費カロリーが多くなる』だそうだぞ」

「じゃあ、なおさら、あたしに感謝することね。

 あんた一人じゃ、とてもじゃないけど、探せないでしょう?」

「ああ、そこは、素直に感謝しとく。

 んじゃ、今日、俺が行った場所については、チャットアプリで送信しとく。そこを探してくれ。お前は西側から頼む、俺は東側からやる」

「オーライ!」

 そんなわけで。

 ほぼ無人になった放課後の校内を、探し回る事になった。


 なんで遊田がこんな事を手伝ってくれてるのか、納得しかねていたのだが――

 あいつはサボってる様子はなく、こまめにスマホのチャットアプリで、探索済みの場所の写真を送ってきてる。


 どうやら本気で、俺のために、こんな途方も無い作業をしてくれてるらしい。

 

 あとで、美味い物でも奢ってやらないとな。

 それと、両手で俺の手にしがみ付くくらいは、許してやっても良いかもしれん。

 なぜ、あいつがそんな事を、俺相手にやりたがるのかは、謎すぎるが。







 しっかし――探せど探せど、鍵が見つかる気配は無かった。


 校舎の窓から入ってくる日の光は、だんだん低くなり、やがて夕焼けになっていた。

 薄暗くなった無人の廊下には、自分の足音がやけに大きく響いたよ。

 そろそろ、下校時間だ。あと少しで、校舎から出なきゃならない。

 今日のところは諦めざるを得なそうだ。


 俺は引き上げの連絡をして、中央廊下にある自販機の前で、遊田と合流した。

 くたくただった。

 マジで、並の運動部よりも、この学校を歩き回るのはキツイ。


 とりあえず遊田に、飲み物を奢ったよ。

 俺たちは紙パックのジュースを、壁にもたれ掛かってチューチュー飲んだ。


 向かい側の窓の外には、夕暮れの横浜が見える。

 真っ赤な夕日が、逆光ぎみに差し込んで来てて、遊田の横顔を濃いシルエットにしていた。

「お礼はこれだけ?」

 遊田は、ジュースのパックを指さして、すんごい不満そうだった。

「このあとスーパーに行って、好きなスイーツでも買ってやる」

「そんなの要らない。もっと欲しい物があるわ」

「俺の財布の中身、知ってるだろ。

 高い物は買えないからな」

「コッペがその気になれば、ただで提供できる物」

「俺が持ってる物か? 

 あ、お前、エロDVDの次は、エロゲーにも手を出そうってんじゃないだろうな」

「違うわよ!」

 空になった紙パックを投げつけられてしまったぜ。

「さっき、コッペには、嘘吐かないって言ったわよね」
「ん? ああ」
「だから、正直に言うとね。このまま鍵が見つからないで、

【議員】の奴らに悪用されて、召愛が退学になれば良いと思ってる」

「復讐は止めたんじゃなかったのか?」
「復讐なんかじゃない。ねえ、コッペは……。

 誰かを好きになったとして、運悪くライバルが居て、そのライバルが退学になってくれるかもしれない、チャンスがあったら、どうする?」

「どういう、意味だ……?」
「でも、その好きな人の本命は、ライバルの方だって分かってて。

 そのライバルが退学になったら、好きな人がとても悲しむだろうって、わかり切ってるなら……どうする?」

「――!」
「あたしは……どうしていいか、わからなかった……。

 だからね。


 せめて、好きな人のために、精一杯がんばってみようって。

 その後で。

 せめて、自分の思いだけは伝えようって、それだけ、決めたの」

「…………」
「あたしの、欲しい物、言っても良い?」
「あ、ああ……」
「あたしは、〝これ〟が欲しい」

 遊田は、指さしたんだ。



                 俺を、だ。



 俺の鼻の頭を、つつきそうなくらい、腕を伸ばして、真っ直ぐとだ。

「なあ。

 今だって、俺が一番、本音でバカ話しできる相手は、お前だ。


 羽里や召愛みたいな良い子ちゃん相手じゃ、言えないようなことも、ぶっちゃけられる。

 なんだかんだ、気が合う奴だと思ってる。

 遠慮なく、憎まれ口を叩けるくらいに――」

「それだけじゃ、嫌!」
「あたしを――」
 と、遊田は言った。










「好きになってください」

 ああ。

 なんてこった……。 


 俺の気持ちが、〝誰に向いてるか〟なんて、『だーれだ♪』とやってた時点で、遊田にだって、ハッキリわかってたじゃないか……!


 ならば、遊田から、こうされれば、

 俺がNOと答えるに決まってるのは、わかってただろ……?

 それでも、お前の気持ちは、これを言わなければ、ならなかったのか……?

 

 けど、NOと答えたら、どうなる?

 俺は、友人、と呼べる奴を、一人、失ってしまう事になるかも知れない。

 しかも、ただの友人じゃない。


 一番、本音でバカ話しできて。

 なんでも、ぶっちゃけられ。

 遠慮なく、憎まれ口を叩けるくらい、気が合う奴。


 なあ、遊田。

 それって、親友、だよな……?

 俺たちは……心の友、なんだよな?


 教えてくれよ。

 どう答えれば、俺はその大切なものを失わずにすむ? 

 暢気で、楽しくて、気取らなくて、いざという時には助け合えるような、そういう関係をだ。


 ああ、くそ。

 馬鹿言うな。現実を見ろ。


 俺が今、しなきゃなんない事はなんだ?

 親友が、玉砕前提で勇気を振り絞って告白して、失恋したのを、せめて、慰めてやること。


 それを、考えろ。

 そして、実行しろ。

 そうするしかないんだ。

「なあ、遊田――」

 俺は、そう言って、遊田の肩に手を置いて、それから、いきなり、一方的に肩を組んだよ。


 それは恋人がするような、ロマンチックな仕草じゃない。

 男の親友同士でするような、やんちゃで、気楽で、何気ないけれど、親愛の情が伝わるようなもの、だったと思いたい。


 俺は、遊田は表情を見るのが怖かった。


 だから、窓ガラスの外を見てたよ。

 ランドマークタワーと、みなとみらいの大観覧車、『コスモクロック21』が遠くに見えてた。


 そん時、校舎の中に蛍光灯がつき始めた。

 俺が見てた横浜の町並みも、一斉に灯りが点き始めて、ランドマークタワーがライトアップされ、コスモクロックにも照明が点き、光の輪に変わった。

 

 蛍光灯のせいで、俺たちの正面の窓ガラスに、遊田の姿が反射して映ったんだ。


 顔はハッキリとは見えない。

 けど、泣いてるようだった。


 肩を組んだ親友が、泣き声を我慢してるのが、聞こえてしまってた。

「――ごめん」

「……」

 窓ガラスに映った遊田は、一度だけ、頷いた。

 それから、遊田は背を向けた。


 そして、去って行った。



 俺は、遊田の姿が見えなくなったあと、壁に背を預けたまま、その場に座り込んでしまった。


 チャイムが鳴った。

 下校時間を知らせるための音楽、シューマンの『トロイメライ』が流れ出した。


【下校時間となりました】

 アナウンスがスピーカーから中央廊下に鳴り響く。

【残っている生徒は、速やかに下校してください】

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