変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第13話「さぁ、やってまいりました! うねうねテレビショッピングの時間です!」

エピソードの総文字数=6,119文字

(昼間のニュース……)
(ヘンなことばっか言ってたよな……)
 似鳥一家はあまりテレビを見ない。
 篤志自身はネットコンテンツにどっぷりだし、両親は「悪徳なる政府はマスコミを使って民衆を洗脳している!」と思い込んでいるので、テレビや新聞を嫌忌している。
 しかし、今のこの状況においてテレビほど有用な情報収集ツールもないだろう。
(よし、テレビを見よう……)
 そう決めた篤志はベッドから降りた。
 景気づけに軽く伸びをして、ベッドサイドのテーブルからリモコンを取り上げたところで――
「お兄ちゃーん……」
 部屋のドアがゆっくり開く。
 そして、ドアの隙間から妹がこちらを覗き込んできた。
「ああん? なんだよ? ノックくらいしろよ」
 妹の不行儀にイラッとする篤志。
 しかし妹は謝りもせずに、ちょこちょことした内股の小歩きで部屋の中に入り込んで来た。
 下がり眉の上目遣いで篤志を見つめ、口元に手をやって悲しげながらも甘ったるい声で訴えてくる。
「お兄ちゃん……アイラ寂しいよ。アイラを一人にしないで?」
「ウッゼ!!」
 ウザさに耐えかねて、篤志は妹のツインテ頭を<バシーン!>としばいた。
「っ、いたぁいっ!!」
「ウゼェ! ウゼエェッ!! なんなんだおまえは!? ウゼエエェッ!!
「ううっ、なんで叩くの? ひどいよぉ……」
「うるせぇ! なにが「寂しい」だ! くっは、ウッゼエエェェェッ!!
 篤志は"構ってちゃん"が嫌いだ。
 ついでにすぐに「寂しい」と訴えてくる女も嫌いだ。
 「甘ったれんじゃねぇ、このクソアマが!」と張り倒したくなる。

 しかし――
 あまりにウザったい妹の言動に一瞬だけアレルギー反応が出てしまったものの、篤志はすぐに思い直す。
「…………」
(いや、でも、待てよ……?)
 妹のぶりっ子全開の態度と「寂しい」というウザワードに思わず普通に反応してしまったが……
 今の妹が置かれている状況を考えれば、「一人にしないで」というのは切実な願いだろう。
 何せ、ここは生まれ育った日本とは違う"未知の土地"――
 先々のことも色々と心配だろうし、一人になるのが心細いのも当然だ。
「…………」
(ああ、そっか……)
(そういう不安を、こいつは「寂しい」って言葉で表現したんだな……)
「……悪かったよ」
「えっ?」
「今のはオレが悪かった。ちょっと配慮が足りなかったな。この状況で一人になるのは不安だよな。しばらくここにいていいぞ」
「ホントに!?」
「ああ」
「えへへ♪ やったぁ!」
 妹はにっこり笑い、嬉々として部屋の奥まで入り込んでくる。
「…………」
(しっかし、うぜぇリボンだな……)
 喜ぶ妹の頭に結ばれたピンク色のリボンを見て、篤志がそんなことを考えていると、妹は当たり前のようにベッドに腰を降ろした。
「ねぇ、お兄ちゃん、トランプしよ?」
「――は?」
「アイラ退屈だよー。ねぇねぇ、アイラと遊んでよ。遊んで、遊んで♪」
「…………」
 妹の笑顔には、不安の影などまるで感じられない。
 もしかしたら「寂しい」を深読みしたのは間違いで、本当にただの構ってちゃんだったのかもしれない。
(やっぱ追い払った方がよかったかも……)
 篤志の中に後悔が生まれる。
 それを煽るように、妹があざとく小首を傾げてみせた。
「あっ、お兄ちゃん、もしかしてトランプって知らない? えへへ♪ トランプっていうのはね、カードゲームの一つでね――っ、いったあぁい!
「てめぇ、オレをなめてんのか!」
 妹の頭を<バシーン!>としばいてキレる篤志に、妹は上目遣いで非難の視線を向けてくる。
「ううっ……ひどいよ! なんでいちいち叩くの? 女の子に手をあげるなんて最低だよ……」
「うるせぇ、性別なんか関係あるか! おまえみたいなヤツは男だろうと女だろうと動物だろうと虫だろうと植物だろうと、オレは殴る!」
 篤志は自分の荷物の中からトランプを取り出して、妹の方に放り投げた。
 通信会社のキャンペーンで貰ったノベルティグッズだが、とにかく絵柄がダサい。
 要らないので捨てるつもりで自室に置いていった結果、今ここにあるものだ。
「ソリティアでもやって遊んでろよ、バカが」
「えー……ソリティアって一人でやるやつでしょ? アイラ、お兄ちゃんとトランプしたいよー」
「うるせぇ! オレは忙しいんだよ! ここにいていいからオレの邪魔をすんな!」
「えっ? お兄ちゃん忙しいの? 何するの?」
「テレビを見るんだよ」
「えーっ……それ、暇ってことだよね?」
 篤志はバカな妹を睨みつける。
「暇だから見るんじゃねーんだよ! 情報収集だよ!」
(くそっ、なんてウザさだ!)
(こいつと喋ってると無駄に疲れる……)
 こんなウザい女が本当に自分の妹なのだろうか?
 ぶっちゃけ、妹として最も要らないタイプだ。
「ぐすん、わかったよ。じゃあ、アイラ寂しいけど、お兄ちゃんの邪魔しないように一人でソリティアするね……」
 わざとらしい垂れ眉とアヒル口を作り、妹が悲しげに言う。
 その顔は大変ウザいが、評価すべきところもある。
(ふん、意外と聞き分けがいいじゃねーか……)
 しかし、そんな篤志の感心を嘲笑うように、妹はいきなりわけのわからないことをし始めた。
「『ソリティア』!」
 トランプの箱を指先で<コンッ!>と叩いて、叫んだのだ。
「…………」
「? あれっ? 『ソリティア』!」
 妹が再び<コンッ!>と箱を指先で小突いて叫ぶ。
「…………」
「??? おっかしいなぁ? 『ソリティア』! ――『ソリティア』!」
「…………」
「??? 『ソリティア』だよ! 『ソリティア』! ねぇ、『ソリティア』だってば!」
「…………」
「??? おーい、『ソリティア』! ねぇってば、『ソリティア』!」
「…………」
(な、なにやってんだ、こいつ……)
 篤志は、妹の痛い行動にドン引きして顔を歪める。
「うー? なんでぇ??? 『ソリティア』! ねぇ、聞こえないの? 『ソリティア』だよ!」
 妹は指先でトランプの箱をコンコン叩きながら、一生懸命トランプの箱に話し掛けている。
「…………」
(駄目だこいつ……)
(いくらなんでも痛すぎる……)
 マジもんの"天然不思議ちゃんキャラ"なのだろうか?
 それとも、ぶりっ子の一環としてわざと"天然不思議ちゃんキャラ"を演じているのだろうか?

 どちらにしても、この行動は痛すぎる。
 関わり合いになりたくないと思う反面、突っ込み気質がそれを許さない。
 篤志はバカな妹の頭を<ベシン!>としばいた。
「いったあぁい!」
「うるせぇ、バカ! 黙って一人で遊んでろ!」
「ううっ……わかったよ。トランプくんも機嫌悪いみたいだし、アイラもお兄ちゃんと一緒にテレビ見るよ」

 トランプに『くん』をつけるクソみたいなセンスにドン引きしつつ……篤志はテレビリモコンの電源ボタンを押す。

 真っ黒の画面がフッと明るくなった。

『さぁ、やってまいりました! うねうねテレビショッピングの時間です! 今日も素敵な商品をお届けします!』
 ちょうどいいタイミングで始まったのは、通信販売の番組だった。
 目的とする番組があるわけでもないし、チャンネルはそのままで画面に見入る。
『皆さん、こんにちは。本日も素晴らしい商品がいっぱいですよ!』
『わぁ、それは楽しみですね!』
 プレゼンターの男性とアシスタントの女性。
 男性の髪が緑色で、女性の髪がピンク色なことを除けば、いつでもどこでもいくらでもやってそうなごく普通のテレビショッピングだ。
(髪色やべぇ……)
 とはいえ、さっきの挨拶回りで"アニメ系髪色"の洗礼は既に受けている。
 水色髪や紫髪の人が当たり前のようにいたのだ。
 しかもオシャレな若者とかでなく、質実剛健な印象の壮年家政婦が普通にそういう髪色なのである。
『それでは、本日一つめの商品をご紹介しましょう!』
 映し出されたのは大型のキャリーケースだった。
 キャスター付きの、旅行に持っていくアレである。
『はい、こちらのキャリーケースです!』
『まぁ! これは……とっても素敵ですね!』
 映像の後ろから「おぉ~っ」とわざとらしい歓声が聞こえる。
 観客の大袈裟な反応は通販番組のお約束だが、そのお約束はこの羽音神島でも健在らしい。


 その後、テレビ通販のテンプレに則って番組は進行されていった。
 ただ、やはりファンタジック・アイランドらしく、おかしなところも多々あった。

 なんでもこのキャリーケースには"内蔵した荷物の重量が二分の一になる"という、自然法則を無視したとんでも機能があるらしい。
 このキャリーケース自体の重量が1kgで、そこに10kgの荷物を入れた場合、キャリーケース全体の重さは6kgになるのだそうだ。
 また、明らかにキャリーケース自体の大きさを超えるもの――例えばギターやスキー板といった丈の長いものも完全に中にしまい込むことが出来るという。

 これらがすべて実演によって明らかにされたわけだが……
 篤志にしてみれば、日本の誇る国民的アニメに思いを馳せつつ、
("四次元キャリーケース"だ……)
 と、呆然とするしかない。
 しかし、これらの機能の紹介を聞いても、会場の歓声要員たちの反応はイマイチだった。
 "歓声レベル"なるものがあるとして、その最大をレベル5とするなら、ここで上がった歓声はせいぜいレベル2といったところだ。
『しかし、このキャリーケースのすごいところはそこではありません!』
 満を持して、プレゼンターがそう切り出した。
『皆さんも既にお気付きでしょうが……そう、この商品の一番の売りはこのデザインです! どうですか? このエレガントなデザイン! 実はこちら、外国・イタリアのデザイナーに特別に依頼して製作された商品なのです!』
「――は?」
『ああっ!! やっぱり外国人デザイナーによるデザインなんですね!? ああ、道理で、先程からずっと素晴らしいと思っていました!!』
『ええ、機能的に同じようなものはあったとしても、これだけ素晴らしいデザインのものとなるとそうはありませんよ!』
『そうですね、とっても魅力的なデザインです!!』
 ここで、何故か"歓声レベル"が5となった。
「…………」
(そうかぁ?)
(わりとありきたりのデザインのような気もするけど……)
 篤志は納得出来ずに首を傾げるが、その後プレゼンターはそのイタリア人デザイナーの経歴などを説明し、そのデザイナーがどれだけ素晴らしい人物なのかを切々と語った。
 イタリアという国の美術史についての言及も多かったので、どうやらそのデザイナーが『イタリア人であること』がかなり重要なようだった。
 この説明の間、"歓声レベル"はずっと3~4の間だった。
『なお、このキャリーケースはこの繊細なデザインにも関わらず、耐久力もすごいんです。第四世界製の特殊なプラスチックで出来ているので、ストーンゴーレムに踏みつけられても壊れません! こちらのVTRをご覧ください!』
(ス、ストーンゴーレム……!?)
『ストーンゴーレムは強い腕力を誇る魔物で、第一世界では冒険者ギルドによって"危険度ランクC"に指定されております!』
(ぼ、冒険者ギルド……)
(やっぱ異世界にはそういうのがあるんだな……)
 画面に映し出されるストーンゴーレム。
 そして、デザインが取り柄だというキャリーケース。
「…………」
「…………」
 大きなストーンゴーレムがいきなり動き出し、キャリーケースを踏みつけた!
『このストーンゴーレムの体重は15t! そんなストーンゴーレムに踏まれても……ほら、見ての通り!』
 ゴーレムの足下で、キャリーケースはたわみもせずに元の形状を保っている。
「…………」
「…………」
 その後、ゴーレムは「そのキャリーケースとは何か因縁でもあるんですか?」と尋ねたくなるほどの執拗さで、キャリーケースに殴る蹴るの激しい暴行を加えた。
「…………」
「…………」
 しかし、ついぞキャリーケースが壊れることはなかった。
「…………」
(す、すげー……)
 ゴーレムの存在にもびっくりしたし、スーツケースの頑強さにもびっくりした。
 しかし何より、こんなくだらないことにゴーレムを使うこの羽音神島の気風に衝撃を受ける篤志だった。

 VTRが終了し、歓声要員の「おぉ~」+拍手に包まれつつ映像がスタジオに戻る。
『これだけ頑丈だと、安心してダンジョン探索にも持っていけますね』
『はい、探索者にも大人気です。そこで、今回は特別に探索者必携のこちらの魔法陣シールを三枚お付け致します!』
『風雷魔法の魔法陣ですか!?』
『そうです! このシールをこうやって貼れば……はい! このようにキャリーケースが地上5cm固定で浮遊します! 地面に触れないので汚れないというわけですね!』
『まぁ、素晴らしい! この素敵なデザインを汚れから守れるわけですね!』
 アシスタントの女性はあくまでデザインに拘っている。
『そして、なんと今回は特別に――このイタリア人デザイナーによるエレガントなキャリーケースに二色をご用意しております!!』
『!?!?』
 さっきから二人の前にあったキャリーケースの横に別の色のキャリーケースが置かれた。
『に、二色ですか!? 色が選べるんですか!? この素敵なデザインのケースにカラーバリエーションがあるんですか!?』
『はい! 今回は特別に!!』
 歓声レベルがMAXに達する。
 この盛り上がりに全くついていけない篤志を置き去りにして、テンプレ会話が始まった。
『ああ、でも……こんなに素敵な商品だとお値段の方が心配ですよね?』
『お任せください! お値段の方も自信があります! イタリア人デザイナーによるエレガントなキャリーケース、今なら風来魔法の魔法陣シールをセットにして……なんとお値段据え置き49万9,800円です!』
『よ、49万9,800円!? ええっ、50万を切るんですか!?』
(た、高っけぇ……)
(そして、50万を切るって200円しか変わんねー……)
 自分の金銭感覚に照らし合わせて、篤志は反射的「高い」と思う。
 だが、よく考えてみれば、この価格設定は決して高くないのかもしれない。
 何せ、テレビの中の人たちは何故かデザインにばかり拘っているが、このキャリーケースは入れた荷物の重さが半分になるという。
 また、明らかにケースの大きさ以上の長物も収納可能で、軽い上にすごく頑丈でもある。
 そのあたりを鑑みれば、破格といえるかもしれない。
『そして、今回ご用意致しました二色、両方をセットにして、さらに魔法陣シールを八枚お付けした場合――なんと! 89万9,800円でのご提供になります!』
『!?!? とってもお得ですね!! どちらの色も素敵で選び切れない人には願ってもないチャンスです!!』
「…………」
(こんなモン、誰が色違いで二つも欲しがるんだよ……)
(このセット売り考えた奴、バカだろ……)
「すごーい! このデザインすっごくいいよ♥ イタリア人デザイナーだって! アイラこれ欲しーい!! 二色とも欲しい!! かーわいいー♥♥♥」
「…………」
 篤志は無言で妹の頭を<バシーン!>としばいた。

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