超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

遊田イスカは言った。「あんた男でしょ……遊田イスカと、やりたくないの!?」①

エピソードの総文字数=2,200文字

 ――上映が終わった時。俺の緊張感はマックスに達していた。


 観客からどんな感想を言われるのだろう、とだ。


 もしかして、スタンディングオベーションが、巻き起こったりするんじゃないか、なんて期待もした。

 けど、視聴覚室に明かりが点くと、観客は普通に立ち上がっただけだった。

 

 そりゃあ、まあ、そうだったよな。

 日本の映画館で、スタンディングオベーションなんかする奴は見たことがない。


 けど、みんな、一緒に来た友人なんかと、視聴覚室を出て行きながら、感想を言い合ってる。それが聞こえてきた。


「すっげ金かかってそうなのに、役者すっげえ少なかったな。同じ子がエキストラで何回も出てたし。鬼と人間の兵士の両方、みんな同じ奴らがやってて笑っちゃったよ」
「そりゃあ、1クラスだけでやったんでしょ。30人くらいしか居ないんじゃない?」
「でも、そこが、高校生が、がんばって作ったって感じで、逆に良い味でてたな。なんだかんだ楽しめた気がする」

「ジュリエットのゴスロリ可愛かったね」

「あれって、理事長らしいね。俺はロミオ役の子のが良かったな。王子様っぽいのが、めっちゃハマッてたじゃん?」

「ロレンツァの女優、どっかで見たことあるなと思ったら、

 遊田イスカってエンドロールに書いてあったぞ。気づいた?」

「マジかよ。芸能界引退したはずなのに、なんでそんな大御所が参加してるの?」
「普通にクラスにいるらしいぞ。炊き出しマスゴミ事件のときも、顔映ってたって聞いたし」
「どうりで、あのロレンツァだけ、演技のレベル違ってたよな。今もこの学校に居るんだろ。探してサイン貰いにいかね?」
「俺はむしろ『むっちりP』のサイン会行きたいんだけど、午後から舞台挨拶もやるらしいぞ」
「うそだろ。『むっちりP』って普段、表に顔出しとかしないじゃん。すげえレアじゃね?」
「全般的には面白かったと思うんだけど、戦艦大和の艦長だけは、なんか私ダメだった。


 あの艦長役の男の子、なぜか船に乗ってるシーンで、ずっと、すごい興奮してたよね。なんかハァハァ、ハァハァしててキモかった……」

「だよね。なんで船に乗ってるだけで、あんなに興奮してたんだろ、あの男の子。

 すんごいウキウキしてて、マジキモかった……」

「砲撃シーンで嬉しそうな顔して興奮しすぎて、鼻血まで出してたもんね……」

 ――とまあ、一部、主に大和の艦長役に対して不評はありながらも、概ねで、好評な言葉が聞こえて来て、安心したよ。

 これまでの苦労が報われた気がした。


 嫌がらせ的な無茶ぶり企画から始まって、キャッチ&リリース&エンドなシナリオを克服し、アイドル映画キャスティングの罠を乗り越え、二ヶ月間の努力が実った。


 ちなみに戦艦大和の艦長役は、俺である……。

 そりゃあ、すんげえ興奮しつつ、楽しんでやったのは事実なのだが、気持ち悪いとは酷い。人生は楽しまなきゃ嘘だぞ?











               文化祭二日目。

 さらに客入りが多かった。

 初日の公開に、映画評論がこぞって見に来てたらしく、そのレビューが好評だったのだそうだ。


 俺もそのレビューとやらを見てみたが、なんつーかあれだ。

 手加減されてる感が、ひしひし伝わってくるようなレビューだった。

 学生映画に、厳しい意見をぶつけるのは、大人げないとでも思ってるんだろう。


 唯一違っていたのは、遊田ロレンツァへの評価だけだ。

 ここだけはガチで評論されてた。もちろん、極めて肯定的にだ。

 こぞって芸能界引退を惜しむ声が書かれていた。

 日本という国の損失とすら言ってる奴も居たほどだ。









             三日目、文化祭最終日。

 平日だったにも関わらず、二日目と変わらない客入りを記録した。

 映画の出来うんぬんではなく、話題性だけで、こんなにも人が来るってのが、複雑な気分ではあったが、大勢の人に見て貰えるのなら、素直に嬉しかったよ。








 そして。

  祭りの時間は過ぎ去り、校内から、全てのお客が帰った後――。

「では、文化祭の大成功を祝して、皆、乾杯だ!」

 教室で打ち上げが始まっていた。

 真ん中におかれた机の上に、食べ物や飲みのもなんかが、所狭しと並べられている。

「乾杯、ヤッホー!」
「乾杯、みんなおつかれー!」
「デュフフ、乾杯!」
「乾杯!

 最初はどうなることかと思ってたけどな……」

「乾杯!」

 だが――。

 ただ一人だけ、その輪に加わらずに、帰り支度をしてる奴がいた。

「あーあ、やだやだ。

 みーんな、少し前まで、召愛のことズタボロに言ってたくせに、

 ちょろっと良い目見せてもらったら、簡単に転んじゃって、バッカみたい」

 乾杯で盛り上がってた場の空気が、一瞬で冷めた。

 みんなが遊田を見たよ。冷ややかな眼差しでだ。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あの、イスカさん――
 召愛が何かを言いかけたが――
「あたしは、絶対、そいつを認めないわ!」
 遊田の怒声が召愛の言葉を遮った。

 

 そして、遊田は荷物を持って廊下へと出て、乱暴に扉を閉め、行ってしまった。

「イスカさん……」
(まったく……あいつはなぁ)
 俺は溜息を吐いて。

 立ち上がって。

 教室の外へ歩き出したよ。

「君まで、どこへ行くんだ?」

「飲み物足りなそうだし、スーパー『ツルカメ』で、ケースごと買ってくる。途中で切れたら、白けるだろ?」

「そうか、頼んだ」

 飲み物を買ってくる、というのは、まあ、嘘だ――

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