変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第10話「こんなんでも、オレにとっては大事な妹だしな……」

エピソードの総文字数=5,127文字

 当たり前のように両親の側にいる少女――
「…………」
 小柄な体格に少女趣味な服、ツインテールが相まって幼い印象を受けるが……
 意外とメイクが入念なので、実際には篤志より二つ三つ年下といったところだろうか。
 何はともあれ、篤志にとっては紛れもなく初対面の相手である。
「篤志、あなた……自分の妹の顔を忘れちゃったの?」
 にも関わらず、親はわけのわからないことを言う。
(ハァッ? 妹?)
(こいつが? オレの???)
 篤志は少女をまじまじ見つめる。
 バカ丸出しのあざとい黒髪ツインテール。
 ピンク色のクソみたいなリボン。
 狙いすぎて痛々しい黒いニーソックス。
「…………」
(うーん、何というか……)
(SNSに自撮り写真ばっか上げてそうな女だな……)
(例えば、そう……)
(「動物園に行きました!」って記事に、動物の写真載せずに自撮り写真ばっか載せてそうな……)
 何気に篤志は、何人ものこういうタイプの女とネットを通じて出会ってきた。
 篤志個人としては、かなり嫌いなタイプの女だ。
「…………」
 ――と、ツインテ女が、手に持った細い棒をスッと胸元に掲げた。
(なんだ? 自撮り棒か?)
 その自撮り棒?は、例えるなら"魔法少女のステッキ風"で、いかにも小学校低学年の女児に受けそうなデザインだ。
 だが、目の前のこの少女が持つにしては少々幼稚すぎて痛い。
「…………」
 少女は宙に円を描くように自撮り棒?をくるくる回す。
「…………」
 唐突に篤志は思い出した。
 何故かすっかり忘れていたが、自分には妹がいたんだった。
(あー……)
(そういや、いたな、妹……)
(確か名前は――……)
 少女は、自撮り棒?をスッと下ろす。
 そして上目遣いで篤志を見やり、ピンクのほっぺたを<ぷぅっ!>と可愛らしく膨らませてみせた。
「お兄ちゃん、ひっどーい! アイラのこと忘れちゃったの!?」
 あざとさMAXの仕草だった。
 たまりかねて、篤志は思わず叫びを上げる。
「ウッゼ!!」
「――!?」
 妹の表情がピキリと凍り付く。
 だが篤志は気にせず、心のままに言葉を続けた。
「うっわ、ウゼェ! こいつ、ウッゼェ!!」
「…………」
 妹の眉がみるみる下がっていくのを見ながら、篤志は自分の中の記憶を辿る。
(そうだ、こいつはオレの妹だ……)
(名前は"似鳥愛星(アイラ)"……)
(…………)
(――ハァッ!?)
(『愛星』で『アイラ』って読むのか!?)
(『星』って字は『ラ』とは読まねーだろ!)
 日本社会では近年、『キラキラネーム』と呼ばれる先進的な名前が頻繁に見られるようになった。

 これには賛否両論があるが、篤志は『非』に偏った感性の持ち主である。

(この字を当てたヤツ、頭どうかしてるな……)
(恥ずかしすぎる……)
 普通に考えたら、名付けたのは親なのだろう。
 しかし、何となく篤志は両親ではなく妹自身に軽蔑の目を向けた。
「…………」
 妹は涙目になって篤志を見ている。
 しかし、すぐに唇をキュッと引き結び、先程の自撮り棒?を胸の前に掲げた。
 再び、円を描くように自撮り棒?がくるくる回される。
「お兄ちゃんはアイラのことが大事だから、アイラに意地悪なことを言ったりしないの! いつもとっても優しくて、絶対に傷つけたりしないの! これまでずっとそうだったよね!?」
「…………」
 篤志は自分の中の記憶を辿る。
(そういや、そうだったな……)
(オレは今まで、こいつにキツイことなんて一度も言ったことなかった……)
「えへへ、思い出した?」
 自撮り棒?を下ろし、妹がニコッと笑う。
「…………」
 その笑顔を見つめつつ――
 篤志はしばし考え……やがて答えを出した。
「ああ、確かにそうだ。オレはおまえのことを大事に思ってる」
「えへへ♪ そうでしょ?」
「オレはこれまでおまえにキツイことなんか全然言わなかったし、いつも優しくしてきた」
「うんうん♥」
「でも、それは間違いだった。オレは兄として、本当におまえのことを大事に思うなら、甘やかしてばかりいないで厳しく扱うべきだと思う」
「――!?」
 そう、篤志はいつも妹に優しく接してきた。
 そういう記憶が自分の中にある。


 しかし、篤志は疑問に思ったのだ。
 「それが本当に妹のためになるのだろうか?」と――……

(この妹はウザい……)

(「自分大好き!」――自己愛と称賛欲求の塊なのが見え見えで、それが痛くてウザい……)

 篤志はこういうタイプの女が嫌いだ。
 そして、世の中にはこういう自意識過剰な痛い女を嫌う者も多い。
(まず間違いなく、学校では嫌われてるはずだ……)

 恐らく、女子全員から「あのぶりっ子死ねばいいのに」と言われているに違いない。

 媚びるのが上手いため、男子からは一部にしか嫌われてないだろうが、女慣れしてる男はこういう地雷を踏み抜いたりはしない。

 そこで、こういう女は女慣れしてないオタ系の男子を狙い、自分の取り巻きにすることで虚栄心を満たそうとする。

 そう、つまり一般的に『オタサーの姫』と呼ばれているアレである。

(泣けてくるわ……)

(オレの妹が『オタサーの姫』とか……)

(…………)
(いや、でも……)

(こんなんでも、オレにとっては大事な妹だしな……)

(これ以上嫌われることがないように、オレがこいつをまともにしねーと……)
 篤志は心を鬼にすることにした。
「身内から厳しい言葉があった方が、おまえの成長のためには良いはずだ。だから今日からは方針を変えて、甘やかさずに思ったことはバンバン言っていくことにする」
「――!?」
「つうか……なんで、今までは厳しくしてこなかったんだろうな??? 我ながら不思議だよ」
「…………」
「もしかしたらオレ、おまえのことを大事にしているつもりで、これまであまり真剣におまえと向き合ってこなかったのかもな」
「…………」
「今更だけど、悪かったな」
「…………」
「おまえのためを思ったら、『厳しくする』の一択なのにな? おまえのその腐った根性は早めに矯正しておかないと手遅れになるだろうし」
「――!?」
 篤志の示した今後の方針に妹がまた涙目になるが、そこで母が声を掛けてきた。
「ああ、そう言えば篤志、おなか空かない? パンがあるんだけど、食べる?」
 そう言われて、篤志はダイニングテーブルの上に目を向ける。
 そこにはパン屋のものらしき大きな紙袋があった。
「ああ、そういや腹減ったな」
「色々あるぞ。好きなのを選びなさい」
 父のその言葉に甘えて、篤志は紙袋の中を確認することにした。
 袋の封を開けた瞬間、ふわりといい香りが周囲に広がる。
「おおっ! めっちゃ美味そう!!」
 サンドウィッチにホットドッグ。
 ベーコンエピにフィッシュバーガー。
 クロワッサンにバタースコッチ。
 シュガードーナツにフルーツデニッシュ。
 クイニーアマンにパイシュークリーム。
 
 総菜パンから菓子パンまで、色んな種類のパンがたくさんあった。
(すげぇ、どれにしよう!?)
(どれも美味そうだから悩むな……)
 篤志は肉が好きだ。
 とりあえず、カツサンドとホットドッグはキープすることにして――

 そこで、ふと気付いた。
(このパン、温かい……?)
 いや、むしろ『温かい』と言うより『熱い』――
 ホイップクリームの載っているような菓子パンはともかく、総菜パンは全て意図的に温めたように熱を持っている。
「…………」
 紙袋は封をされていたので、親が温めたわけではないのだろう。
 きっとこのパンは、どこかのパン屋にて焼き立て・作り立ての状態で購入され、あまり時間を置かずにここに運ばれたのだ。
「……なぁ、このパンどうしたの?」
「ああ、それは先程、第五使徒様の御使いの方が持って来てくださったのだ」
「――!!」
 篤志は思わず、手に持っていたカツサンドとホットドッグを手放す。
「…………」
(全然気付かなかった……)
(いつの間に教団の人間が訪ねてきたんだ……?)
(いや、でも……)
(この家の広さを考えれば、気付かなかったとしても別におかしくはないか……)
「そいつは?」
「もうお帰りになったわよ。――というか『そいつ』なんて言い方はいけないわ。第五使徒様に御仕えになっている立派な方なんだから」
 どうでもいいことを咎めてくる母親を無視して、篤志は考える。
「…………」
(うーん……)
(教団の人間が持ってきたのか……)
 美味しそうなパンが、一転して怪しいものに見えてきた。
(もしかしたら……)
(毒が入っていて、食ったら死んだりして……)
「…………」
(いや、さすがにそれは疑いすぎか……)
(こっちに来てすぐで、いきなり殺すってことはないだろ……)
 このタイミングで殺すくらいなら、コールドスリープとやらの間に殺した方が手っ取り早い。
(食い物に罪はないしな……)
 篤志は自分を納得させ、手放したカツサンドとホットドッグを再度キープして他のパンを見繕っていく。
「…………」
(あ、これ……)
 と、あるパンが目について、篤志は手を止めた。
(チョココロネだ……)
 篤志は別に、チョココロネが好きなわけではない。

 ただ、このパンが気になったのは……
 このチョココロネというパンが、日本発祥のパンだからである。
(日本独自のパンなんだよな、チョココロネ……)
 見知らぬ土地で、さっきから国籍絡みのことで苦悩していた篤志。
 その心に、郷愁の明かりが優しく灯る。
「…………」
 篤志は迷わずチョココロネを取り上げた。
「――あっ!?」
 その瞬間、いきなり妹が大きな声を上げる。
「――ん?」
「ダメだよ! そのチョココロネはアイラのなんだから!」
 妹は先程の自撮り棒?をまた胸の前に掲げ、くるくる回し始めた。
「…………」
「チョココロネはアイラの好物なの! 優しいお兄ちゃんは、いっつもアイラにチョココロネを譲ってくれてたでしょ?」
 篤志は自分の中の記憶を辿る。
「…………」
(あー……)
(そういや、チョココロネはこのバカの好物だっけか……)
 今のように、多くのパンが目の前にあって自分の好きなものを選び取るといった場面で、篤志はいつもこの妹にチョココロネを譲っていた覚えがある。
「えへへ、思い出した?」
 自撮り棒?を下ろした妹が、ニコッと笑って手を差し出してくる。
「…………」
 だが、篤志はその手にチョココロネを渡さない。
「?」
「おまえはさ、そういう甘ったれたところを直すべきなんだよ。どうせ、自分の好物だから無条件に譲ってもらえると思ってるんだろ? そういうワガママな考えは捨てろよ」
「――!?」
「オレはチョココロネがおまえの好物だと知っているし、これまでこういう場面ではいつも譲ってきた。つまり、おまえはチョココロネがオレの好物でないことを知ってるだろ?」
「…………」
「それにも関わらず、オレは今日、敢えてチョココロネを取った。そこに何か思うことはないか? そこにどういう心境があるのか考えたりはしないのか?」
「…………」
「おまえもさ、自分のことばっか考えてないで、もっと他人の気持ちとか考えながら日々を生きろよ。それが出来ないと嫌われる一方だぞ。わかったか?」
「…………」
 固まる妹を無視して、篤志は他のパンを物色する。
 他に二つほど選んだ後、席に着いて早速食べ始めることにした。
「??? おっかしいなぁ……???」
 妹は泣きそうな顔で自撮り棒?を見つめ、しきりに首を傾げていたが、篤志にとっては全くどうでもいいことだ。
「いただきまーす」


……

…………


 教団の人間が買ってきたパン。
 焼きたて・作りたてとおぼしきこれらのパンは、信じられない美味しさだった。
 「温かいから」というだけではとても説明のつかない滋味に、篤志は無我夢中で食を進める。
(っ、ヤバイ……)
(なんだこれ、美味すぎだろ!?)
 今までに自分が食べたパンは、もしかしたらパンではなかったのかもしれない――
 そんなことを思いながら、最初に取った惣菜パンをあっという間に食べ尽くし、別のパンに手を伸ばす。
 そのパンも、間もなく胃の中に沈んでいった。
「……ふぅ」
 少し落ち着いたところで、今度は菓子パンに手を伸ばす。
 パンが美味しすぎることに興奮して、郷愁とか少しどうでもよくなっていたが……せっかくなので日本オリジナルの菓子パン・チョココロネを味わうことにする。
「ううう……アイラが食べようと思って買ってきたのに……」
 妹が恨めしげな目をこちらに向けつつ、何やら小声でブツブツ言っている。
 だが、よく聞こえないしどうでもいい。
「!? うわっ、すげぇ、このチョコクリーム!」
「…………」
「信じらんねぇ、めっちゃ美味ぇ!」
「…………」
「こんな美味いチョココロネがこの世にあるなんて!」
「……ぐすん……」

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