超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

最後の日常。

エピソードの総文字数=3,953文字

                  で。


 なぜ、こうなってしまったのか、理解に苦しむが、

   女子どもによるエロDVDの上映会が始まってしまった。


 召愛と遊田は、わーきゃー騒ぎながら、実に興味深そうに、新鮮そうに、食い入るように見ていたね。

「おお、こんな風にもできるのか!」

 とか召愛さんが無邪気に、はしゃいだり。

「こういう撮影って半分は本気でやるんだろうし、

 NGで撮り直しになったら、すごく白けそうよね」

 とか遊田が撮影現場に思いを馳せたりしてたわけだ。

(あー……。なんだ。

 この、どうしていいか、わからん空間は……。)

 俺としては、わりと居たたまれず、さっさと居間から出て寝てしまいたかったのだが、今夜は他に寝られるような場所がない。


 書斎の鍵も、システムメンテナンスの不具合とやらで、ついでにいかれてしまって、開けられないので、エアコンが効く場所で布団が敷けるような場所が、居間しかないのだ。


 仕方なく俺は、隅っこに布団を敷いたよ。

 7月の熱帯夜をエアコンなしの廊下で寝るなんてのも、御免したかったしな……。


 そんでまあ……。

 がんばって寝ようとしてる。

 が、女どもの嬌声のせいで、強制的に俺も徹夜になりそうな情勢だった。

「なあ、お前ら。女子のくせに、そんなに楽しいのか……?」

 俺は恨み節を込めて言ったよ。

「私はすごく楽しい!」

「むしろ、こういうの、じっくり見る機会って、ないものねえ」

 そういうもんなのか?

 まあ、そりゃ、女子だって人間だ。

 ましてや生命みなぎる16歳なら興味はありまくるのは、当たり前、なのか……?

「ネット動画とかだと、無料サイトじゃ、変なリンクに飛ばされるばかりで、ちゃんと見れないし、有料のは請求が家に来ちゃったりしたら、親から半殺しにされるだろうし。だから真面目に新鮮だわ」
 と、そこでだ。

 遊田に電話が掛かってきて、それに出た。

「あ、噂をすれば、親からだわ」

 なぜか遊田の奴、すんごい嬉しそうに言ったよ。

 んで、わざとスピーカーフォンにしてだ。

 エロDVDの音声が電話に入るようにしやがった。


 エロ動画を見てるとバレただけで、半殺しにされるという親に向かってだ。

【イスカ、お前、今、どこに居るんだ。

 その……変な声が聞こえるぞ?】

 スピーカーフォンにしてるせいで、親の声も聞こえてくる。

 この口ぶりだと、まだ学校の法務部から、連絡が行ってないようだ。

 夜中だし、対応が遅れてるのだろう。

「あー、あたし、今ね。ヤクザの事務所にいるのよ。

 家出したって組長に言ったら、

『ほなら、面倒みてやるさかい』って言われてね。

 他にも同級生の子が一緒に居て、撮影中」

【撮影? 撮影とはなんだ!】

「声、聞けばわかるでしょ。アダルト動画の撮影よ。

 あたしもこの後で、若い衆にまわされて、それを撮られる予定なの」

【なんだと、場所を教えなさい。すぐに警察に連絡をするから】


「嫌よ。あんたらが、人生邪魔するから、

 あたしが女優として再デビューするには、これしかないもの」

【馬鹿なことを言うな……】

 父親の声が震えだしてしまっている。

「ねえ、お父さん。

 日常的に殴り倒してまで、手塩にかけて育てた娘が、AVデビューする気持ちってどんな感じ? 十文字以内で表してみて?」

【止めてくれ……】

「せいぜい、愛人とラブホに行った時にでも、あたしが出演してるAVが見られるようになってたら、それ見て燃え上がって頂戴ね」

【どうすれば、お前を戻ってこさせられる。

 そこに居る責任者……組長さんと電話を代わりなさい。

 今すぐ。頼むから。お金ならいくらでも払うと言いなさい!】

 憐れなほど父親は取り乱してしまっている。


 そこで、召愛が横から電話に口を挟んだ。

「大丈夫です。安心してください。

 私はイスカさんの同級生の、名座玲召愛です」

【なんだって。君が撮影中の……同級生、なのか? 

 ナザレのメシアというのが、その、芸名なのか?

 おお……なんて冒涜的な芸名でデビューさせられてしまうんだ!】

 すみません。これ、こいつの本名なんです。

 ほんとすみません。聖書一ページすら読んだ事ないくせに、こんな名前だけど許してやってください。マジすみません。

「落ち着いてください。

 私たちは今、ヤクザの事務所ではなく、学校の寮に居ます。

 女子同士で楽しくアダルトDVDを鑑賞しているだけですので、ご心配なさらないでください」 

「あー、もう!」

 遊田は電話を切ってしまった。

「せっかく、こてんぱんに打ちのめしてたのに、邪魔しないでよね」

「やりすぎだ、バカ」

「ふん!」

 遊田は途端に不機嫌な顔になり、さらに召愛から何か言われるのではないかと、警戒するような目を向けた。

 だが、だった。


 召愛は、遊田を責めるでもなく、むしろ、心から同情しているような目で見ていた。

 そして。

「イスカさん。とても辛かったのだろう?」

 両手を広げて、ゆっくりと、遊田へと体を近づけた。

 抱擁しようとしているみたいだ。


 遊田には、そんな召愛のリアクションが、信じられなかったようで、嫌がるそぶりを見せることもなく、呆気にとられてしまってる。

「……」
 召愛は最初は遠慮がちに、遊田の肩に手を触れ、それから、静かに抱きしめた。

「イスカさん。私は今は、これ以上、何も言うつもりはない。

 ご両親をもっと大切にしろだなんて、今のあなたに、言えるわけがないからだ。ただ、一つだけ、良いだろうか」

「なによ……」

「私は、イスカさんが幸せになって欲しい。

 イスカさんの両親にも、幸せであって欲しい。

 そのためにはまず、イスカさんが幸せになる必要がある。


 なぜなら、そうなって初めて、両親を思いやる余裕もできるからだ。

 だから、私は今から、イスカさんを幸せにしたいと思う」

「あたしを幸せにする、って……?」


 ――ニコッ。

 思わせぶりに、召愛は微笑んだ。

 きっと今から、渾身の良い台詞とかを言うんだろうという雰囲気が満々だった。


 ツンツンしてる遊田も、一発で改心させられるような、ありがたい言葉を吐いたりするんだろうという召愛オーラが全開だったんだ。









 そして、満を持して召愛は言い放った。

「実はさっき、私はトイレに行く振りをして、コッペの部屋から、新たなエロDVDを発掘してきた。


 テレビ台の下に隠してあったから、秘蔵中の秘蔵だと思う。

 今まで見たのより、すごい事だろう。これを一緒に見て楽しんで。


        幸せになろう

 召愛さん、DVDのケースをずらりと並べて見せた。

「……」
「……」
「……」
「……」

 なんかこう、すごく、台無しだった。

 なんかこう、すごく、空気が死んだ。

 なんかこう、すごく、場が凍り付いた。


 そして俺は、布団の中で寝っ転がった姿勢のままで、ズルッとずっこけた。

「いや、つーかな、召愛!

 お前もかよっ、俺のプライバシーがゼロじゃねえか!」

 なんて抗議は、女子どもはまったく聞いておらず。

 秘蔵中の秘蔵DVDのどれを見るかで、わーきゃー騒ぎ始めておるわけで……。

「うわ。なんか、この秘蔵中の秘蔵ってレズものばっかりじゃない?」

「ん、言われてみるとそのようだな。レズが好きなのかコッペ?」

 やめろ、男子の性癖を女子がえぐるのは、やめろさしあげてくれさい。

 ガラスの少年ハートが精神的に死んでしまいます。


 ああ、ちくしょうめ。


 なんでこうなった。

 女子二人と同じ部屋で一夜を明かすって、ドキドキ嬉し恥ずかしシチュエーションなはずなのに、なぜ、恥ずかしいだけの地獄になる。


 だって、これ、普通に考えればハーレム展開って奴だろ?

 なんでこうもベクトルずれてるんだよ。

 もっと素直に普通のハーレム展開になろうぜ、俺の人生! 

「どれから見ようかしら。

『ゆりゆり学園、お嬢様生徒会長、ハレンチ校則委員会』は?」

「それよりも私は、

『女同士で〝親友〟と書いてセフレと読ませる101の方法』

 というのが気になる!」

 お気に入りのAVタイトル読み上げとかいう、何この精神攻撃!

 俺の精神HPはもう0よ!

「こっちも、良さそうね。『レズビアン急行快楽事件』

 列車内で起きた殺人事件の犯人はレズビアンだという、唯一の手がかりを得て、女探偵がエッチな手段で捜査を進めていくと、実は全員がレズビアンだった事が判明する、というストーリーみたいだわ」

「これはどうだろう。

『レズビアン・アート・オンライン』

 ネットゲームの中で結婚したら、実は女同士だったというストーリーみたいだ。面白そうだ」

 などと、嬉々として騒ぐ女どものせいで、俺の精神的HPはマイナスに突入。


 もはや、布団を頭から被って寝たふりをするしかなく、タイトルが一つ読み上げられるたびに、死体蹴りされてる気分で、眠気とは別の意味で意識が薄れていくのがわかりました。


 けどだ。

 俺は、そこで気づいてしまったんだ。

 召愛が、やけに不自然に、はしゃいでいる事に。

「――」
 遊田と楽しそうに騒いでいる瞬間でも、時折、悲しげで寂しげな表情をしてしまっているのを、俺は見てしまった。


 召愛の悲しげな目は、今、この場に居ない誰かを、探しているように、俺には見えた。


 それは、親友、羽里だ。

 

 この場に、羽里が居れば、きっと、もっと、楽しかったのだろう。

 だが、召愛も予感してしまっている。


 二度と、羽里とだけは、今、楽しんでいるような日常を、共に出来ない事をだ。


 そして、それを分かっていながら、自分の道を突き進むしかない。

 それを確信してしまっていて、やるせなすぎて、空騒ぎするしかない。

 そんな風に、俺には見えてしまったんだ。


 ああ、クソ。

 本当に、なんで、こうなった?

 どうにか……もう一度、二人を共に居させられる事は、できないのか……?

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