超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

遊田イスカは言った。「本当の愛……見つけた、気がする」

エピソードの総文字数=2,589文字

 で、いざ、観覧車乗り場に行ってみたらだ。


 この夜更けの時間だと、並んでる客が見事にカップルしかいねえ、ときたもんだ。

 みんなゴンドラに乗る前から、遠慮なく――


 ――チュッチュ、チュッチュ


  ――チュッチュ、チュッチュ


  ――チュッチュ、チュッチュ


  ――チュッチュ、チュッチュ

 ――こんな感じでだな。

 すんげえ、並び心地悪いぜ……。

「ねえ、見てみて、あいつら、胸に手つっこんじゃってる」

「こらっ、指さすのは、やめときなさい……!」

 ようやく、俺たちがゴンドラに乗る番になって、ほっとしたよ。

 やっと超チュッチュワールドから開放されるんだと思ってね。


 が、甘かった。

 ゴンドラに乗り込んですぐの事だ――

「うわぁ、コッペ、あれ見て!」

 遊田が俺の側の席に乗り出してきて、後ろの窓の外を指さした。

 何かと思って、振り向いてみたらだ。


 一つ隣のゴンドラの中で、カップルが燃え上がってしまってだな。

 座席の男の上に、女が跨がる形で生殖行為に勤しんでいらっしゃったわけだ。

 本能全開で。


 こう、ゴンドラが、ゆっさゆっさ揺れてたね。

 良く見れば、他のゴンドラもそんな風に揺れてるのあるじゃねえか。


 いやあ、敬服しちゃったね。これでこそ、人類は繁栄したわけだ。

 産めよ、増やせよで、地に満ちちゃったわけだ。

 良かったな人類の製造責任者よ。超よろこんどけ。


 なんて考えながら、俺は昂ぶりそうな精神を鎮めるためにペットボトルのお茶を飲んでたね。


「ねえねえ、あれって、どう思う?」

 遊田は隣の揺れてるゴンドラを指さしながら、真顔で訊いてきた。

「どう、って何がだよ」

挿れてるのかしら?

 お茶吹きそうになった――!


 慌てて口を手で塞いだぜ。

 あわや遊田の顔面がびしょ濡れになるところだった。

 ストレートすぎる。

「脂ぎったオヤジか、お前は」

「下ネタトークがおっさんだけの特権だって、誰が決めたの。

 男女同権、あたしは遠慮無く、ぶちかますタイプよ」

ロマンチックでメロメロにするんじゃなかったのか。

 俺はむしろ馬鹿な男友だちと、覗き行為に勤しんでるような、デートと違うベクトルの親近感がいっぱいになっちゃってるぞ」

「あんた、インポなんじゃないの。

 密室で天下の遊田イスカさんが、すぐ側にいるのに」

 とか、改めて言われるとだな。

 ただでも狭いゴンドラ内、座席に隣合う形で膝立て合って、窓の外を見てるわけで、距離は十数センチあるかないか。


 夏ゆえに、これだけ近いと、はっきりと遊田の汗の匂いも感じ取れてしまう。


 思わずじっと、遊田の顔を見詰めてしまっていて、その唇と夏服の胸元に本能的に目がいってしまって、ごくりと、生唾を飲み込んでしまったよ。


 そんな、俺の生唾ごっくんを、遊田は見やってから、座席の上で膝立ちしてた脚をおろし、普通に正面を向いて座った。


 そして。

「コッペは……なんで、あたしが最初にホテルに誘った時、

二日目だ』とか、嘘ついたわけ?」

 俺に目を向けず、座席の隣から、夜景を眺めながら、そんな事を訊いてきた。

「よく嘘だとわかったな」

「さっき並んでる時に、ヤフー質問箱に投稿したのよ」

 なるほど。

 魔窟と呼ばれるヤフー質問箱に列挙されてるような、

 何をどう考えたらこんな質問をできるんだろうっていう恥ずかしい投稿の数々は、こういう奴によってされてたのか。

「やっちまったのか……」

「ええ、『コッペとかいう馬鹿な奴をホテルに誘ったんだけど、男にも生理があって、血が出てるからと拒否られました。

 男性にも、こういう事は本当にあるんですか?』ってね」

「ヤフー質問箱の黒歴史に、新たな一ページが刻まれちまったな……」

「そしたら、親切な人が教えてくれたわ。

『男性には月経はありません。とても若い質問者さんだと思われますが、相手の男性はあなたの事を、何かしら気遣ってくれたのではないかと思われます』ってね」

「文句なしのベストアンサーだな」

「もう一回、同じこと、訊くわよ。

 なんで、今日一日、あたしに付き合ってくれたの……」

 相変わらず、こっちを向かずに、そんな事を言うわけだ。

「さっきと質問が変わってる」

「あたしにとっては、同じよ。

 下心も何もなしで、なんで、あんた、ここに、こうして居るの。

 なんも、得する事なんてないじゃない……。


 今だって、詰まらなそうにしてるし。

 ぜんぜんメロメロにならないし。なのになんで……」

 俺自身にもどう答えていいか、わからない質問をされても困る。

 ただ、一つだけ、返答可能な解答がある気がした。

「遊田は言ってたよな。

 人間はみんなジャイアンに成らなきゃいけないって」

「というかね、人間の本性がみんなジャイアンなのよ。

 それがどうしたの?」

「でも、ジャイアンって、いざという時には、のび太を助けてるだろ。

 損得勘定抜きで、心の友、なんつってさ」

「それは劇場版の綺麗なジャイアンだけだわ」

「劇場版の綺麗なジャイアンと、普段の汚いジャイアンは別人じゃない。同一人物だ」

「何が言いたいわけ?」

「お前が俺をラブホテルに引っ張り込もうとしたとき、お前は目の前の〝ジャイアン〟に、本当は何をして貰いたかったんだ?」

 俺はな。

 お前があのとき、かわいそうだと思ってしまっただけなんだと思う。


 だけど、あの状況で自分に出来る事なんて、何も思いつかなかった。

 せめて、憂さ晴らしに付き合ってやるくらいしか、ないと思ったんだ。


 そして、今日、俺は、本当のお前を見つけてしまった。

 だから、今なら言える。


 遊田、お前があの時――俺の袖を引っ張って止めた時、本当に求めていたものは、絶対に召愛への復讐なんかじゃない。


 一緒にオラウータンと睨めっこしたり、

 一緒にゾウについてお馬鹿な考察をしたり、

 一緒に6時間ぶっつけでドラえもん見たり、

 一緒にホモサピエンスの繁殖行動を観察して、鼻息を荒くするような、


 そういう――












               ――心の友


 お前が求めてたのは、それだったんじゃないか。


 俺は、勝手に、そう思ってる。

「……」

 遊田は何も答えなかった。

「それとな、遊田。

 俺は今日、楽しかったぞ。

 たまには、お前に強制連行されるのも悪くない」

「……」

 やはり遊田は何も答えなかった。


 無言のまま、俺たちのゴンドラは地上へと戻った。


 終電が近かった。

 遊田を、家まで送ることにした。

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