超新約ライトノベル聖書『新約聖書を学園コメディに置き換えたらこうなった』

超お人好しに、超無茶ぶりをしてはいけない。本当にそれをやってしまうのだから。⑤

エピソードの総文字数=3,449文字

「ちょっとコッペ。あんたまだ、やってないわよね?」

「え、俺?

 待てよ。俺はロミオ役に立候補してない」

「この状況では、クラスの皆を救うと思ってやってみるべきだわ」

 確かにな……。

 遊田のくせに正論言いやがって。


 ん、でもだぞ。

 もしかしたら、俺なら本当いけるんじゃないのか?


 一応は、同じ寮で暮らしてたし、一緒に遊び回ったりもしてた。

 羽里も耐性はついてるはずだ。


 俺が準主役に……?


 うん、悪くはない響きだ。だってロミオ役になれば映画の中とはいえ、

( 戦艦大和に乗れる!!!! 

 鬼ヶ島たるシシリー島へ、大和が単身で突撃する熱い展開があるわけだ。


 そして、パレルモ港の奥深くへ突っ込んでからの砲撃シーンがあるわけだ。

 そこで俺が指揮を執れるということだ。


 号令一下、46センチ砲を鬼の居城へ一斉射できるこのロマンよ!


 ああ、こんな事なら、シナリオ書くときに、もっと砲撃回数を勝手に盛って、発射しまくりな感じにすれば良かった!


 やっべ、超テンション上がってきた……!

 羽里との初夜シーンとか、どうでも良いが、何がなんでも、大和には乗ってみたい。頼む、羽里、どうかフリーズせずに、

 俺へ大和に乗るチャンスをくれ!

「いくぞ、羽里」


  ――ハァハァ

 俺はすんごい興奮しながら、羽里へ近づいたよ。

「こ、コッペ君……。なんだか、顔が怖いのですが」

 羽里がクラスメイトたちに聞こえないくらいの小声で言ったよ。


  ――ハァハァ、ハァハァ!

「興奮しすぎじゃないでしょうか、

 飢えた野獣のように息がハァハァしてる。

 すごく激しく」

「当たり前だ。これがハァハァせずにいられるか。

 乗るチャンスなんだからな」

 俺もひそひそ声で言ったよ。

「え……乗る、チャンス?」

「そう。俺は、乗って、奥深くまで突っ込んで

 思いっきり発射しまくりたい!


             ――ハァハァ!

「……」
「…………………」
「……………………………!」
「このケダモノがー!


 ビターン!


 はい、ビンタ頂きました。

 今時、ケダモノと呼ばれてビンタされるとか、貴重すぎる体験をどうもありがとうございます。


 っていうか、いったい俺が何をした?


 羽里よ。

 お前の乙女チックな思考回路の、お茶目機能による演算がどんな風に行われたのかは、知るよしもないが――!

「おい、なんで俺が殴られなきゃならない!」

 だが羽里は俺をガン無視。クラスの皆に向き直って宣言したよ。



「コッペ君がロミオをやるなら、わたしは舌を噛み切って自害します」
 教室がざわついたよ。
「コッペ君、サイテー」
「コッペ、見損なったぞ」
「コッペ……」
「うわぁ……。クズだわ」

「違う、みんな聞いてくれ。これは何かの誤解なんだ。

 きっと羽里の乙女回路のお茶目機能が暴走しただけで――」

「黙らっしゃいケダモノ!」

  

    しゅーん……

「けど、こうなると、

 いよいよ企画を諦めざるを得なくなりそうね……。

 配役できる人材がもう――」

 でも、そこでだ。

 クラスの皆が同時に気づいた。

 一人だけオーディションを受けさせてない奴がいる、とだ。


 全員が一斉に召愛に目を向けた。


 しかし、いくらなんでも、シナリオと監督に合わせて、準主役までやらせるのか?


 さすがに皆もそう思っただろうし、遊田は不服そうな顔をして、召愛から目を逸らしてたよ。

「ふん……」

 だけど、その他のクラスの奴らは、これしかない、と思ってしまったんだろう。

 期待を込めた眼差しを、召愛へ向け続けてた。

「私もオーディションをしてみろと、

 期待されてしまっているのだろうか?」

「……」
「……」
「……」

 皆は声に出して肯定はしなかったけど、誰もが心の中では頷いたはずだ。

「わかった。挑戦してみよう」

 召愛は教卓の前に進み出て、羽里と向き合った。

「……」

 羽里は身構えるような視線を、召愛へ向けた。


 今は一応は選挙戦の真っ最中、自分から親友という関係を凍結させて、ライバルとして振る舞いたいと宣言してた羽里からすれば、いくら演技とはいえ、恋人役をやるとなれば、複雑な気分になるだろう。

「大丈夫、ジュリエット。

 僕たちは離ればなれになるために、行くんじゃない」

 前おきも何もなく、召愛が台詞を言った。

「永久に共にあるために、行くんだ。恐れる必要なんかない」

 ――羽里は以前に言っていた。

 選挙を通して、召愛が羽里の正しさを理解してくれるはずだと――


「大丈夫です。ロミオ――」

 そう、大丈夫、と羽里は信じているはず。

 選挙が終わったその先で、再び、召愛と親友に戻れることを。


 でも、本当にそうなるだろうか?

 召愛が自分の道を曲げることなど、ありえるのだろうか?

 このまま永久に、二人の溝は埋まらないまま、なのではないだろうか?


 羽里は、そんな事を考えてしまったのかも知れない。

「……」
「……………」
「………………」

 召愛ロミオの前で、本気で、泣き出しそうになってしまっていた。

 不安で、不安で、どうしようないといった風に、表情がくちゃくちゃになってしまってる。それは演技を超えていて、本気の泣き顔にしか見えなかった。

「……」

 召愛は、そんな羽里の顔を見ていて、とてもとても自然に、泣き出すのを慰めようとするように、抱きしめたんだ。

「……」

 羽里も、だ。

 羽里も、フリーズせず、ただ感情の赴くままに、召愛の背中を抱き返した。

「…………」
 二人はしばらくそうしていて、今が演技中だと、やっと気づいたみたいに、顔を見合わせた。
「……」
「……」

 至近距離で、目と目が合って、引き寄せられるように、





 唇を近づけ、キスをした――。


 ――羽里の後頭部に隠れて二人の唇が見えないせいで、俺からは本当にしちゃってるように見えたんだ。


 で、そんときだ。俺の心の中に、天から声が聞こえてきた。






「キマシタワー」

 ほんとに聞こえた。ガチで聞こえた。

 よし、ここにキマシ塔を建てよう。


 そうじゃない。落ち着け俺、とにかくこれが、俺の心の奥底が求めてた光景。

 美少女同士のキス、これほどに美しいものがこの世にあるか? 

 いや、断言する。ないね。


 だから、俺がもし旧約聖書の執筆者なら、最初にこう書く。


【神は言われた。「キマシタワー!」

 こうして百合が生まれた。

 神はキスをする乙女たちを見て、これを良しとされた。

 神は攻めと受けを分け、攻めをタチ、受けをネコと呼ばれた】


 おお、なんという事だろう。

 俺は今、神話を目の辺りにしてるのだ。

 尊い、尊いぞ!


 というか、なんか、すごい拍手が聞こえる。なんだ、これは……?


    ――パチパチパチパチ!


 ――パチパチパチパチ!


   ――パチパチパチパチ!

(普通に召愛が……召愛たちが拍手されてる……?)

 なんでだ?

 そりゃ、シンプルだ。普通に演技として素晴らしかったからだ。


 召愛本人たちからしてみれば、途中から演技というより、

 自分たちのプライベートとシチュエーションが被ってしまってて、素になってたように俺には見えたが……。


 そんな事情を知らないクラスメイトたちから見たら、迫真の演技だったに違いない。


 これで、企画も進む。結果オーライだ!

「まったく……こんなので拍手喝采なんて」

 遊田は俺だけに聞こえるように言ったよ。

「十分だったように思えるぞ」

「素人から見ればそうでしょうね。

 でも、あんなのお芝居とは言えないわ。

 なんせ、あの二人は演技をしてなかった」

「結果的にそれが良かったんじゃないのか?」

「あたしはそんなの認めない。絶対に、認めないわ」

 そこまで言うなら、ぜひとも遊田の演技をスクリーンで見てみたいものだ。

 主要キャラとしては、シスターロレンツァが残っているが、果たしてその役をゲットできるかどうか。

「次はシスターロレンツァの配役を行いたいと思います」

 ほらきたぞ。

「この役は、二十代の女性キャラクターです。

 台詞量は準主役のロミオと同程度にあり、狂言回しにあたる役柄ですので、ある意味、主人公よりも重要です。


 また立場や人格も非常に複雑で、正気と狂気の境界を綱渡りするような演技を求められますので、もっとも難易度が高い役となるはずです。

 これをやりたい方は挙手をお願いします」

 そこまでハードルを上げられてしまえば、どうなるか。

 さっきまでロミオ役に群がってた連中は、手を挙げなかった。


 ただし、一人を除いて――

「やるわ」
本当に何気なく、ちょっとコンビニ行ってくる、というような雰囲気で、それだけ言った。


プロの風格である。

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