変態魔法を極めたうちの妹はチートだった

第4話「あんたなんか明日の晩ごはんのおかずになればいいんだわ!」

エピソードの総文字数=4,929文字

 由美子の私室は三階にある。

 オレンジ色のカーペット。
 黄緑系のチェックのカーテン。
 壁一面に所狭しと貼られた、統一性のないポスター。
 整理整頓はなっているが、ブサイクなぬいぐるみをはじめ実用性のないカラフルな小物が多すぎるせいで、やたらとごちゃごちゃした印象の部屋である。
 竹沢家のペットうさぎ・アルタソが水色の寝具の掛かったベッドの上で昼寝していると由美子が部屋に入ってきた。
「あー食った食った! おなかいっぱい!」
 腹が満たされて幸せそうな由美子を見て、アルタソはつぶらな目を細めて舌打ちする。
『Hey,昼寝の邪魔だぞブス』
「ああっ、アルタソ!? ――あんたさっきはよくもあたしの晩ごはんの上でウンコしてくれたわね!!」
 アルタソを見て、まるで思い出したように由美子がいきり立つ。
 由美子のパッパラパ―な性格からして、実際すっかり忘れていたのだろう。
 解った上でアルタソは煽る。
『なんだ、まださっきのことに拘ってるのかい? しつこいヤツだな、もう過ぎたことなんだぞ』
「!? なんだとォッ!?」
『Shit,ブスが喧しいせいで目が覚めてしまったんだ。せっかく気持ち良く昼寝してたのに』
 身を起こしたアルタソは、豊かな腹肉をぽよぽよさせながらぐぐーっと伸びをする。
 それから大きな口を開けて欠伸をした。
「あたしはブスじゃないわよ!」
『ブスなんだ』
 きっぱり言い切ると、由美子はこちらをギロリと睨みつけてくるが、アルタソは気にせずベッドの上でぷりぷり脱糞する。
「あああっ!? ちょっと! 人の布団の上でウンコしないでよ!!」
『知るかよ。この世の全てがオレの便所なんだ』
 口から信条を吐きつつ、肛門から黒粒の群れを吐く。
 排泄の心地良さを楽しんでいると、由美子の手に背の皮をはっしと掴まれた。
「こらぁっ! やめなさい! あっちにトイレあるでしょうが!」
 部屋の隅に設置された小動物用の三角トイレを指さされたが、アルタソはフンと鼻を鳴らして糞を漏らし続ける。
『別にどこでしたって同じなんだぞ。どうせおまえは魔法で片付けるじゃないか』
「そうだけど! でも、食卓の上とかベッドの上とかにウンコがあるのはイヤなんだってば!」
 切実っぽく言って、由美子が部屋の隅に足を向ける。
 三角トイレの上にポイッと投げ捨てられたアルタソは、難なく着地して脱糞を続ける。
 由美子は「まったくもう!」とプンスカ怒りながら、ベッドの上に転がった黒粒を魔法を浄化し始めた。
『ところでおまえ、今度の魔族祭は行くのかい?』
「ハァッ? 行くに決まってんじゃん! なんたって普段は食べられないような魔界食材のご馳走が食べられるのよ? お酒もいっぱい飲めるし! それにドレスだってもう作ったんだから、行かないなんて選択肢はないわ!」
『行ったら、また姫宮家の雌どもにバカにされるぞ?』
 この一言はさすがに痛かったようで、由美子は顔を顰めて「うぐっ!」と呻きを漏らす。
 だが、すぐに勝気な顔に戻ると「ふん、あいつらが怖くてご馳走が食えるかっつーの!」と腰に手を当てた。
「お母さんとおねーちゃんには悪いと思ってるわ。あたしが未だに処女なせいで姫宮の連中にごちゃごちゃ言われてさ。でも、魔族祭に行かなきゃそれはそれで逃げてるみたいじゃん?」
 そう言われてアルタソは頷く。
 なるほど、気の強い由美子らしい考えだ。
 おっとり温厚な長女の留美子はともかく、由美子以上に気の強い母の芙美子も同じ考えに至るだろう。
「それにね、必ずしもバカにされるとは限らないわ。魔族祭まではまだあと一週間あるもの。この間に何としても男を捕まえてセックスに持ち込み、脱処女すればいいのよ!!」
 グッと拳を握りしめてやる気を漲らせる由美子を、アルタソは冷めた目で見つめる。
『おまえ、去年も一昨年もその前も同じこと言ってたぞ』
「うっさい! 今年こそ絶対に魔族祭までに非処女になってやるわ!!」
 無駄にポジティブな由美子は、意気揚々とデスクの上に置きっぱなしだったスマートフォンを取り上げる。
『また出会い系かい?』
「そうよ。さっき募集板に『あたしの処女を貰ってください』って書き込んだの。今頃、いっぱい返信が来てるはずよ!」
『女子高生のその書き込みだからな。そりゃ食いつく援交オヤジも多いだろうな』
「楽しみね、ぐふふふふ……ふえぇぇぇええああああああぁぁぁっっ!?!?」
 スマホの画面を覗いていた由美子がいきなり化け物のような叫び声を上げた。
『な、なんだ! どうした!?』
「うええぇえぇぇっ!? ななな! ハァッ!? なんでよっ!? ええぇぇえええぇぇぇっ!?」
 ただでさえブサイクな由美子の顔が、目玉をひん剥いて大口を開いて、より一層ひどいことになっている。
 そんな顔で騒ぎ狼狽える"アホ丸出し"の様子を見て、聡明なアルタソは即座に何が起きたのか理解した。
『Oh,さてはおまえ、また垢BANされたな?』
「――ぐうっ!!」
 どうやら図星らしい。
 散々騒ぎ立てたのが嘘のように、由美子はいきなり無言になってガックリと力なく項垂れる。
『…………』
「…………」
 アルタソはプフゥ~と鼻息を吐いた。
『まぁ、元気出せよ』
「くうぅぅっ! なんでよ!? なんであたしが出禁になるの!? あたしほど真剣にセックスの相手を探してる女はいないわよ!? なのになんでそのあたしが荒らし認定されるの!? なんでなのよ!? くそったれえぇえええぇぇぇっ!!』
 男漁りのために由美子が登録した出会い系サービスは、これで四件目。
 そして"悪質な荒らし"と認定されてアカウント削除されたのは、これで四度目だ。
『Hey,落ち着けよ。しょうがないんだぞ、被害者が多すぎたんだ』
「ハァッ!? 被害者ってなに!?」
『考えてもみろよ? 女子高生の「あたしの処女を貰ってください」って募集に、援交オヤジたちはみんな喜んで応募して、約束を取り付けて、期待に胸を膨らませて待ち合わせ場所に向かうんだ。なのに、そこで現れるのがおまえだぞ? まさに詐欺なんだ。これを『被害』と言わずに何と言う?』
「意味わからんわ! それの何が『被害』なのよ!?」
『鏡を見てみろよブス。そこに答えがあるんだ』
「いや、だから! あたしはブスじゃないっつーの!!」
 激昂した由美子は、手元にあった謎の生物を模した丸っこいぬいぐるみを取って「こんちくしょおおぉぉっ!!」とアルタソに投げつけてきた。
 中学時代にソフトボール部のエースだった由美子は肩が強く、繰り出されたのは高威力の一投。
 コントロールも悪くなかったが、魔界うさぎの血を引くアルタソがこの程度の攻撃に当たるはずがない。
『当たるかよ、バーカww』
 アルタソはベッドの上に飛び乗り、四足で軽快にステップを踏む。
 それから、その場で軽くピョンピョン跳ねたりクルクル回ったりして「Yeah!」と陽気にシャウトし、由美子を小馬鹿にした。
「チィッ! くっそデブが!!」
 アルタソにとって由美子は妹のようなもの。
 そして、クソな妹をからかって遊ぶのは兄の特権である。
『バーカw バーカw ブースww』
「~~ぐぎぎぎぎィィ~ッ!」
 由美子は悔しさに目を血走らせ、ギリギリ歯軋りしながらこちらを睨んでいる。
『ほらほら、次来いよ、次! Hey,Come on!』
 面白いので挑発してみるが、さすがの由美子も何度投げても当たらないことは理解してるらしく、二投目はなかった。
 代わりに由美子は、右手の人差し指と親指で銃を形作る。
 照準が自分に向けられたことに気付き、アルタソは目を見開いて耳をピンと立てた。
「バキューン!」
『ぐはぁ!』
 由美子の口から発せられた銃声に合わせ、アルタソは<ドサッ!>とその場に崩れ落ちる。
「…………」
『…………』
 アルタソの敗因は、関西気質のノリの良さ。
 シーツの上に横たわる哀れな肉塊と化した仇の姿を見て、少し溜飲が下がったらしく、由美子は腰に手を当てて「フンッ!」と鼻を鳴らした。
「そうよ、害獣は駆除されるべきね。あんたなんか明日の晩ごはんのおかずになればいいんだわ!」
『…………』
 由美子がベッドに近付いても屍はぴくりとも動かない。
 それを掴み上げて「邪魔」と言い、カーペットの上に<ポイッ!>と捨てる由美子。
「ったく、腹立つわね! ああもう! オナニーしてスッキリしよっ!」
 イライラした時に自慰をして気分転換するのは、由美子の定例行動パターンだ。
 早速ベッドに仰向けに身を投げ出し、デニムのホットパンツの前を開ける。
「ふへへ♪」
 性欲が強いにも関らずセックスの相手が見つからない由美子は、とにかく自慰の回数が多い。
 暇さえあれば、下着に手を突っ込んであんあん言っている。
『Oh,またオナニーか。おまえはそればっかだな』
 蘇った屍はむくりと身を起こすと、ベッドの上を一瞥して鼻からプフゥ~と息を吐いた。
「いいでしょ、別に。ストレス解消にはオナニーが一番なのよ!」
 そう言い返して、由美子は仰向けのまま器用に下着ごとホットパンツを脱ぎ捨てた。
 因みに、今日の下着はアメコミ風のファンキーなプリント柄だ。
 オシャレと言えばオシャレだが、色気は全くない。
『ふぅ、駄目だこいつ』
 アルタソは呆れて頭を振る。
 【夜魔族】の上級魔族【サッキュバス】――
 魔力量に恵まれ、その大半を自身の美貌の維持・強化に費やす"この世で最も美しい人種"である。
 一般的に魔族は、人間を遥かに超える圧倒的な戦闘力を保持するものだが、サッキュバス族はそうではない。
 種族特性として"男女比1対99"という極端な偏りを持つ『彼女たち』は非常に"かよわく"、肉体的には人間を下回るほどに虚弱である。
 しかしそれにも関わらず、往古から魔族社会におけるサッキュバス族の発言力は強かった。
 サッキュバスたちは自身の美貌を武器に周囲の強者たちを次々に魅了、彼らを自らの虜として転がすこと栄耀栄華を謳歌したのだ。

 サッキュバスの価値は"従僕となる男の価値"で決まる。
 だから彼女たちは十にも満たない小児の頃から「あれにしようかな?」「いや、やっぱりあっちかな?」「あれも捨てがたいなー」と周囲の男を値踏みし、自分の初体験の相手を選りすぐる。
 そして初潮を迎えるとすぐに、お目当ての男に誘いを掛けて性交に至る。
 サッキュバスの魅力に抗える男はほとんど存在しないため"狙った男とヤれない"という事態は滅多にない。

 さて、サッキュバスの血を引く竹沢由美子は、現在十六歳にて未だに処女である。
 何故、未だに処女喪失を成し遂げていないのかと言えば、それはもう至極シンプルに――

 由美子が全く男にモテないからである。
「…………」
 アルタソはゴミを見る目で、ベッドの上でモゾモゾしている由美子を見る。

 初潮を迎えた後のサッキュバスにとって、性欲解消のための自慰は"非常に惨めなこと"……
 変態魔法の使い手である母と姉は階下にいるにも関らず、由美子が自慰を始めたことに気付いたらしい。
「あのバカ娘、またオナり始めたね。一日何回オナれば気が済むんだか」――
「仕方がないわ。由美子ちゃんはセックスでの性欲解消が出来ないんだもの……」――
「うーん……サッキュバスにとってオナニーってのは、男に見せつけて煽情するためのテクニックの一つに過ぎないんだけどねぇ……」――
「そうね、私も性欲解消目的のオナニーは経験がないわ……」――
「しかも、穴が開いてないせいでオナニーの内容が××××ばかりってのが哀れだよ」――
「十六歳にもなって、まだ×××××や××××の快楽を知らないなんて……由美子ちゃんが可哀想だわ……」――
 ゲンナリした母の声と、同情に満ちた姉の声。
 アルタソの長い耳は伊達ではない。
 階下の会話くらいなら耳を澄ますまでもなく聞こえてくる。
「ぐへへ、×××××気持ち良い~♪」
 階下で母と姉が自分を憐れんでいることなどつゆ知らず、由美子はせっせとストレス解消に励んでいる。
「…………」
(惨めなヤツだなぁ)
 いつものことながらつくづくそう思う。
 アルタソはまたプフゥ~と鼻息を吐いて「やれやれ」と頭を振った。

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