犯人推理ノベル「消火栓」

3話 練習試合後半

エピソードの総文字数=3,317文字

あー、昨日ちょっと夜遅くまで勉強してたから。
実はあまり寝てないんだ

あきれるなぁ。合宿前の夜も勉強してたのか?

毎日の積み重ねだからな

武藤は寝不足がたたった血色の悪い顔色のまま、無理に笑ってみせた。

気分が悪くなったらすぐに私に言ってね。
やさしく介抱してあげるから。ふふふ

ふふふ、の部分をわざと強調するように鈴原が口を挟んだ。

大丈夫だって。それよりプーやんの方が心配だよ、俺は

と、武藤はプーやんに視線を送った。

みんなが注目する。

そこには、欲するままにスポーツドリンクをガバ飲みしているプーやんがいた。

飲み過ぎると腹にたまって後半きつくなるぞ

海老原がアドバイスしたにもかかわらず、プーやんは聞く耳を持たないのか、飲むことをやめない。
前にも、水分の取り過ぎで、試合中に動けなくなったことがある。

フン。うるさいな。
このドリンクを飲む瞬間のためにバスケやってんだよ俺は。

一杯のビールのために働くサラリーマンみたいなもんだよ

なんだか、わけの分からない減らず口をたたくプーやん。

本名は確か長野五郎(ながの ごろう)だったか。

みんなが口をそろえてプーやんプーやんと呼ぶので、彼は本名を忘れられることが多い。
あだ名から連想できるように、彼は非常に肉付きがよろしい。

お世辞にも運動神経が良いとはいえず、また、スポーツ観戦が好きとも思えない彼がなぜバスケ部に入部したか疑問だが、サボったりしない彼に

向いてないからやめたら?

などとは誰も言えない。

驚くほどバスケは下手で知識もなく、僕達がバスケの話で盛り上がっていても話に入ってくることはない。

だが、TVゲームやアニメの話になると、前のめりで話に割り込んできて自分のマニアックな知識をひけらかす。

いつもみんなに

お前がゲームとアニメが好きなのは十分伝わるけど、話についていけない

と引かれてしまうのも無理はない。
会話が一方的なのだ。

海老原に注意されてもなお、プーやんはスポーツドリンクを豪快に飲み続けた。

さ、行くぞ

海老原が言うと同時に、ピーッと後半戦の笛が鳴り響いた。

僕はベンチから立ち上がると頬を軽く叩いて気合いを入れた。

それぞれの選手が、ワックスでピカピカに磨き上げられたコートに向かって歩き出した。

後半戦はキャプテンの海老原さとるとエースの武藤純一の活躍で何度も逆転しそうになったが、
相手チームの若宮亮太たちもそう簡単に点を入れさせてはくれず、飛ぶように時間が過ぎていった。

試合は残り2分。

ボードをチラリと確認すると58対60で、敵に2Pリードを許している状態だ。

やばい、このままでは勝ち逃げされてしまうじゃないか。

あと2分よぉ!

鈴原あゆみが僕らをせかすように叫んだ。

プーやんがぎこちないドリブルでこちらに向かってくる。

弘樹、プーやんを止めるんだ!

……ぐふっ

海老原の声が横から聞こえてくる。

プーやんは相当バテているらしく、顎にたまった汗がしたたり落ちている。
肩で息をして、今にも死にそうな顔をしていた。

僕はあっけなくプーやんのボールをはじいた。

がしかし、カットの仕方が悪かったのか、ボールはコートの外に向かって飛んでいってしまった。
このままでは、コースアウトしてしまう。

弘樹、あきらめるな!!

弘樹、無理するな!!

キャプテン海老原とエース武藤の対照的な声が同時に聞こえてきた。
どうしよう?  僕はとっさに判断した。

意地でもボールに食らいついてやる!

マネージャーの鈴原あゆみも見ていることだし、ここはあきらめてたまるか!

僕はバウンドするボールを追いかけた。

ジャンプし、指先にボールをつかむとコートに向けて放り投げた。

危ない!

武藤の声がする。

僕はハッとした。目の前にパイプ椅子が迫ってきたのだ。

僕は慌てて受け身をとり、そのあとは何が起きたのかよく分からなかった。

パイプ椅子をそのままなぎ倒し、僕の身体はグルッと1回転した。

痛たたたたた

ゆっくりと体を起こす。

大丈夫か!?

武藤が心配して駆けつけてきた。


無意識のうちに受け身をとっていたので、たいした怪我はないようだ。

大丈夫だ。それよりも、早く試合を続けよう

僕は起きあがると素早くコートに戻った。

ナイスファイト、弘樹!

海老原がドリブルしつつ片方の手でガッツポーズを作って見せた。

いつの間にか僕が弾いたボールは海老原がキャッチしてくれたのだ。

さすがキャプテン!

1年!! あいつらのプレーに 圧倒されてんじゃねぇ!!
すぐ取り返せ!!

若宮が怒鳴り散らす。

1年はすぐさま海老原を囲んだが、海老原はなめらかなドリブルで軽々と彼らを抜いていった。

くそっ!

1年なんかには任せられんとばかりに若宮亮太、自らが海老原に立ち向かった。

弘樹! ほいっ

海老原はそんな若宮には取り合わず、あっさり僕にパスをしてきた。

逃げるのかよ海老原!

若宮は悔しさ紛れに挑発したが、海老原は冷ややかな表情でそれを無視した。

あと20秒よぉ!! 弘樹君、頑張って!!

マネージャーの鈴原が興奮しながら、立ち上がって叫んだ。

・・・これが最後のチャンスだ!

一か八か、思い切ってダンクをねらえ!

僕はリングめがけて力一杯ジャンプした。

上体を引き上げるようにボール側の脚を上げてバランスをとる。

絶対入れてやる。

僕は心の中で何度もそうつぶやいた。

時間膨張というのだろうか?
ジャンプしてからやけに長く感じる。

頭の中は真っ白で、心臓の鼓動だけが頭の中で鳴り響いた。
すべての音が消え、世界がスローモーションのように見えた。

突然、目の前に若宮の顔が迫ってきて、僕はハッとした。

危ない!!

誰かが背後で叫ぶ。

うおおおおおっ

僕は無意識のうちに声を出し、ボールをリングにたたきつけた。
と同時に腹部に鈍い痛みを感じる。

若宮が興奮してブロックするあまり、僕の腹を足で蹴ってしまったのだ。

僕はそのまま若宮にかぶさって、積み木のように地面に崩れていった。
 
ドサリ!

審判は・・・!?

僕は顔だけ審判の方に向けた。

ディフェンス!!

審判の塩崎勇次(しおざき ゆうじ)が若宮を指さす。

ゲゲッとなる若宮。

バスケットカウント!!

ワァーッと館内がわいた。

同点だ!!

バスケットカウントとは、ファールされてなおかつシュートが入った場合、その得点は認められ、さらに1つのフリースローが与えられることである。

すげえぞ弘樹! ダンク決めやがった!!

海老原が僕のケツをおもいっきりひっぱたいた。

弘樹君、スゴぉおい!!

マネージャーの鈴原が眼をまん丸くしてピョンピョン跳ねながら言った。

若宮は肩で息をしながら悔しそうにこちらを睨みつけていた。

僕は自らダンクを決めたという右手を、信じられない眼差しで見ながら何度も開いたり閉じたりした。

ダンクが決まったのは生まれて初めてだった。
今までリングに手が届いたことなどなかったのに。

これを火事場のクソ力とでも言うのだろうか?

弘樹、フリースロー決めたら逆転だぞ。
落ち着いて!!

武藤が自分の手で小さなメガホンをつくって言った。

ワンスロー!!

審判の塩崎にボールを渡される。

これを決めれば逆転だ。

・・・妙に緊張してきた。

弘樹君、落ち着いてー

そう言われるとよけい緊張してしまう。

すべての人が僕のフリースローをかたずをのんで見守る。
館内はさっきとは打って変わってしんと静まりかえった。

初日の練習試合から、こんなに手に汗握る展開になるとは思わなかった。

僕は緊張をぬぐい取るために、2、3度ボールを地面についた。


深呼吸。


リングを見つめ、肩の線を正面に向ける。

ボールを構えると、僕は決心して両膝を軽く曲げ、体重をつま先に移した。

そして・・・

僕はリングの奥を狙った。

音も立てずにボールを投げ放つ。
ゆっくりと弧を描いて・・・

ガン!!

ボールはリングに当たった。

入らない!?

リバウンド!

若宮がジャンプした。

いや、入る!

武藤が叫んだ。

ボールはリングの内側でぐるぐると回っているように見える・・・

つづく

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