放蕩鬼ヂンガイオー

02「おまえ、ちょっと見所ありそうなのだ」

エピソードの総文字数=1,886文字

『――もう遅いわ』

 ヂンガイと名乗った少女の後ろから、野太い声が響いた。

 吸い寄せられるように視線をやる。

「な、なんだあれ、化け物……か……?」

 首だけライオンのかぶり物をした大男、と普通なら思うのだろうか。
 そういう風体の巨漢が空にいた。

 それこそコスプレと割り切りたい気持ちだったが、空中の異形からは圧倒的な現実味を感じさせられた。

 動物的な本能が頭の中で警笛を鳴らす。
 全身の毛穴がいっせいに開くような感覚。いつからか冷や汗と鳥肌がとまらない。

 なんかよくわからんけど、あれ、ヤバいやつだ。
 我ながら理解が早すぎると思うが、昔からヒーローアニメに登場する怪人を見慣れていたせいではない。決して違う。はず。

『我が名は将軍シシドクロ、全ヂゲンを絶大零度にする者だ。小僧よ、手始めに貴様の絶望から頂こうか。まずはそこの老人を始末してやろう』

 シシドクロが、器用に顔面の筋肉を動かして笑う。
 毛むくじゃらの豪腕を持ち上げ、気を失った天甚の頭に向ける。

「やめ……ッ!」
「いいから、どけし!」

 駆け寄ろうとしたが、ヂンガイのメカ脚に蹴り飛ばされた。

「いッでえッ!? 重すぎんだろ、今の蹴り!?」
「蒼炎号! ヂグソー展開!」

 ヂンガイは天甚とシシドクロの間に入り、小柄な体躯と比べてバランス的に大きすぎる機械の両腕を広げた。

 周囲に引き連れていたパズルのピースたちが集合・結合し、ヂンガイの前に中華なべ型の壁を作り出す。

『まとめて吹き飛ぶがいい!』

 シシドクロの手の平から闇が溢れ出した。
 狙われたのはヂンガイ。

 攻撃は中華なべに直撃、金属がひずむ音を町中に響かせる。
 着弾部から季節はずれの吹雪が四散し、極低温の余波が肌を焼く。

「あぢぢっ、なんだこれ凍傷か!? ……じ、じいちゃん! 子供っ! 無事か!?」
「蒼炎号! 残ってるLAE、ぜんぶ防御に回して!」

 ヂンガイは天甚を守る体勢のまま、謎のエネルギー攻撃から耐え続けていた。

 盾を構成しているピース(ヂグソー?)から少しずつ蒼い色味が抜け、一つ、また一つと黒く染まっては結合から離れて元の旋回軌道に戻ってゆく。
 
 すなわち中華なべが徐々に小さくなっている。

「このままじゃジリ貧だし! 蒼炎号! 単発でホッピングドラムソー!」

 中華なべのふちに陣取っていたヂグソーの一つが深い蒼に輝き、独自に高速回転して跳ねた。ブーメランの軌道でシシドクロに迫る。

『チィッ! 悪あがきをッ!』

 シシドクロは腕をふるってヂグソーを叩き落とす。
 が、その動作で闇の衝撃波が向きを逸らされて地面に直撃、爆音と共に大量の粉塵が辺りを埋め尽くした。


   ■   ■   ■


『――どこに隠れた放蕩鬼ッ! このアイススカルにかけて、とどめを刺してくれる!』

 シシドクロの咆哮が響く。

 燦太郎とヂンガイは天甚を抱え、オレベースの裏手に身を隠していた。

「お、おまえ、ヂンガイとか言ったよな」
「あー、はいはい。なんでも聞きますよーだ。どうせあたしが悪いんですよ、生まれてきてすみませんねー、ああ厄介者はいやだいやだ」
「え、なんでそんなイジけてんだよ」
「だってあたしなんて鬼だし悪魔だしモノノケだし、どうせあんただってあたしのこと馬鹿にするに決まってるのだ」

 こいつはなにをいっているのだろう。

 燦太郎は先ほどの戦いを強く回想した。……うむ。

「おまえ、めちゃくちゃ格好よかったぞ」
「――――ぇ?」

 瞬間。

 ヂンガイの周りに力なく散らばってい黒いヂグソーたちのうち、数十個が急に蒼く輝きだした。ヂンガイの顔の横に光の文字が浮かび上がる。

 文字が裏向きになっているのではっきりとは読み取れないが『LAE』というアルファベットが表示されていることだけは把握できた。

「ど、どどどど、どゆことだし?」

 面食らった様子のヂンガイ。
 彼女は目を見開きながら、おずおずとこちらに顔を向けてきた。

「あの。いま、あんた……あたしに『燃え』てくれたの?」
「え? あ、いやその」

 燦太郎は我にかえった。
 腰に手をあてそっぽを向き、できるだけテンションの上がっていない風をよそおう。

「べ、別に燃えてねーよ! じいちゃん助けてくれたから感謝しただけだ! ありがとな!」
「キラーン。おまえ、ちょっと見所ありそうなのだ」

 ヂンガイはニヤニヤしながら腕組みひとつ、さも偉そうに鼻を鳴らした。

◆作者をワンクリックで応援!

1人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ