勇者の武器屋

第六章 取立人、大挙来襲

エピソードの総文字数=2,658文字

……新装開店『勇者の武器屋ドリームアームズ』……?
えっ、この店って勇者様の店だったの!? 出来たばかりと思ったら、やたら評判悪かったけど……。
ドリームアームズ店内にて――。
えっと、このお品はここに並べて……こっちはここで……。ふふ、お店経営って楽しいですね。
……あっ、いけない、もうすぐ開店時間!
いらっしゃいませー!
新装開店したうちのお店にとって、お客さま第一号になりまぁす!
失礼します。
勇者をやらせてもらってますが、武器屋もはじめてみました! どんな武器をお探しですかぁ? お望みの武具が見つかるまで、どんなお手伝いでもいたします!
いえ、私は魔境銀行の行員でございます。
銀行の行員さんですかぁ? お探しものは、他の街に出かけるときの護身用具とか? なら、いいのがありますよ! こちらのマインゴーシュは――
買い物に来たのではありません。
この武器屋に貸し付けていた返済金が滞っているようでしたので、取立にお伺いしたのでございます。
………………はい?
当行はこの武器屋に、年利6・7%で2650万Gほどを貸し込んでおります。昨日までに、毎月30万Gの元本、および本年分の金利177万5500Gを返済して頂くお約束でしたが……?
…………。
契約書もございます。返済なき場合、ひとまず展示してある武具は担保の一部として押収させて頂き、それから代表の方の肝臓もご売却頂く約束になっております。
……か、肝臓って売れるんですかぁ……?
もちろんでございます。債務者さまのために、当行が責任を持ってお役に立たせて頂きます。
なんか混乱してきました……。それって、喜んでいいことなんでしょうか……?
尤も、武器防具押収や肝臓だけではまったく元本に足りません。それゆえ、以降は債務者さまがお亡くなりになるまで、当行が用意する奴隷労働業務をこなし続けてもらうことになります。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
銀行マンが引き揚げた、その直後――。
すみませーん、中央魔法工房ですが、先々月に納品したメテオロッドとバロックランチャーの売掛を回収しに来たんですけどー。お約束の期日ですからねー。
え?
王国税務局の者です。この武器屋はまだ設立して間もないようですが、支払うべき税金が未納となっています。この国の法律では、このまま税金を滞納し続けた場合、懲罰措置として罰金が科されることになりますが? それでも税金を納める意志がない場合、王国警邏局のほうに案件を回して検挙してもらうことも……。
え……?
おうおう、店主さんよぉ! ワクワク商工ローンの者だが? 先月分の返済が滞ってるんだが? 借りた金を返さないなんて非道が許されるわけがねーんだが? ああ?
ええっ……!?
警邏局です。この武器屋で、大規模に脱税が行われているという告発がありました。この嫌疑を晴らすためにも、どうか穏便に、帳簿を見せて頂きたいのですが。
えーーーーーーーー!?
勇者、あわてて街の弁護士事務所へ駆け込むと――。
――って話なんです。
弁護士さん、こんな酷いことってありえるんですか!?
法人組織を売買するにあたって、隠れ負債のチェックくらいはしなくてはなりません。あまりにも典型的な詐欺です。こんな話に引っかかる商売人などいませんな。
…………。
ただ今回の事件が非常に特殊なケースに相当するのは、詐欺師は相当な資金を投入して武器屋を開店し、多くの優良な仕入先から商品を大量に仕入れていたことです。とてつもない資金力と信用力がないとできない詐欺に違いありません。詐欺師側もギリギリのリスクを背負って勝負を仕掛けてきたのか、あるいは誰か大物が後ろで糸を引いていたのか……。
これほどの規模の話はなかなか聞いたことがないのも事実です。
たしかに、武器屋の改装費用だけでも150万Gは掛かってますし、一時的にとはいえどやはり1000万Gくらいの資金を用意しないと武器や防具を集めることもできなかったはずです。
これほど大型の舞台を整えるのは異常極まることですなぁ……。巨額の資金をどうやって用意したんでしょうねぇ……?
そんな詐欺師さんのギリギリの勝負に選ばれたのが、どうして私だったのですか……?
……どこかの資産家に恨まれるようなことは?
ありません!
私は皆さまの安心と、社会の平和を守るため、この身を削って一生懸命に戦ってきたつもりです。みんなに喜んで欲しいんです。お金持ちさんだって、きっと私を支援してくれるはずです。
勇者さまのお気持ちはわかりますが、人というのはいったんお金が絡んでしまうと、普段とは別の人格が現れる生き物であるのもまた事実。あまり単純化して考えないほうがいいでしょうな。
こういうのって、王国警邏局に訴えたりできるんですよね? きっと詐欺師さんたちを捕まえて、裁いてくれるはずです。
事はそう簡単ではありません。一連の大型事件を、詐欺だったと証明するのは実に難しい。詐欺師側はきっと、リスクや隠れ負債もきちんと説明した上での正当な取引だったと主張するはず。詐欺師側の主張が真正なのだとすれば、これは詐欺ではなくなります。
えっ? 弁護士さんも詐欺って仰っていたじゃないですか。なのに、詐欺でなくなるってどうしてなんですか?
だから取引にあたり、詐欺師側がすべてのリスクや負債やお金の流れをしっかり説明し、勇者さまもそこに納得した上での取引であれば、いったいどこが詐欺なんですか。
……そりゃ私から見れば勇者さまは騙されたんだとわかりますし、神さまの視点から見てもやっぱり詐欺なんだと思いますよ。でも詐欺師の心うちを見極めることは不可能ですから、法律的に捌くことは簡単じゃないと申し上げたいのです。
心の問題だというんですか?
取り交わされた契約書類などはすべて有効なので、あとは当事者双方の心が重要でしょうね。そこを証明することは無理だと申し上げたいんですよ。
そんな……!
尤もそれ以前に、詐欺の実行犯はすっかり雲隠れしてしまっているはずです。とすれば、詐欺師本人にその心うちを問い掛けることも叶わない。特殊な魔法をかけたり、あるいは拷問でも行えば、もしかしたら自白しないとも限らないわけですが……そもそも身柄の確保ができなければ、もうどうしようもないかと……。
そっ、それでは、私はどうすれば……?
……残念ですが……武器屋『ドリームアームズ』の代表名義を譲り受けている以上、その法人の負債や支払い義務を負わなければならないでしょうな。法の遵守が、市民たる者の第一の務めです。
もしかして……人生終了……?

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