放蕩鬼ヂンガイオー

06「慣れるとけっこう居心地いいのだ」

エピソードの総文字数=2,584文字

 我ながら神業の素早さだった。

 ヂンガイが放ったよくわからん必殺技の閃光が残るわずかな時間で地上に降り立ち天甚を回収、流れる動作でオレベース店内へ駆け込み、返す刀でシャッターを下ろした。

 外からは嵐のような歓声やらざわめきやら足音やらが聞こえてくるものの、燦太郎たちがオレベースに潜伏したことは気付かれていないだろう。と思われる。

 雑多な商品で埋め尽くされた店内に天甚をひっくり返す。

「んごっ。……おいおい、物みたいに扱ってくれんじゃねえか燦太郎よぉ。ヒーロー様がそんな非人道的なことしてていいのかねえ」
「途中から起きてたのかよ! 悪趣味な!」

 天甚は体を起こし、ものめずらしそうに店内を見回しているヂンガイに詰め寄った。

「お嬢ちゃん、故郷(くに)は?」
「え、えと、金世界スピノザ……この時代から言うとすごく未来の日本ですなのだ。猿でもわかるように説明すると、すごい兵器でこの世界を守りにきた絶世の美女ヒーローなのだ」
「やっぱヒーローなのか! いやあワシそういうの専門で扱ってるお店屋さんなんだけどな! やあっぱ本物は違うな! そっかあ、すっげーなあ! 長生きはするもんだよなあ!」

 普通の人間はそんなたわごとを簡単に信じたりはしないだろうが、ここにいる老人は酔狂にもロボットやヒーローの専門店を経営している正真正銘の変人だ。

 天甚はミーハーまるだしで手を伸ばし、ヂグソーやら戦闘スーツやらを無遠慮に撫でさする。

「これもう武器に変わんねえのか? んんっ、念じても反応しねえな」
「鬼装はあたし本人か登録された関係者にしか動かせないのだ」

 ちなみに装備、かさばって室内ではとんでもなく邪魔になるだろうと心配していたのだが、ヂンガイの操作一つで全身のパーツが全てヂグソーにバラけてしまい、今ではみな彼女の周囲に浮かんでいる。

 ただし、どれもこれも蒼味を失っており、つや消しの黒に戻ってしまっている状態だ。

 原理は知らないけどなんとなくわかる。こいつ、さっきの戦いでせっかく溜めたエネルギーをぜんぶ使っちゃったんだろう。

 なおも野次馬化する天甚を引き剥がし、あらためて燦太郎はヂンガイを睨みつけた。

「ライオンの怪人も倒したんだし、おまえもうお仕事終了なんだろ? 厄介ごとに巻き込まれるの嫌だし、とっとと帰れよ」
「ふっふっふ、そうはいかないし。せっかく便利そうな協力者を見つけたのだ、しばらくこのヂゲンに逗留して知識を吸収していこうと思うのだ」

 ヂンガイがこっちへ来いというジェスチャーで手招きする。うるせえ、おまえが来い。

「協力者って俺のことじゃねーだろうな」
「他に誰がいるのだ。いやあ、この小汚い倉庫も慣れるとけっこう居心地いいのだ。あたしに奉仕するのが古代人のつとめとはいえ、見るからに下層階級の世帯にお邪魔してしまったのは心苦しいところ。天蓋つきのベッドでも用意すればここを使ってやってもいいのだ」
「ここはうちの店自慢のメインスペースだ。悪く言ったら水着を脱がすぞ」
「ひぃ!? こ、これは電子機器も内蔵した大切な戦闘スーツだし! 絶対に脱がないもん!」

 こんないかにもヒーロー丸出しですという風体の人間に住み込まれたら、卒業も何もあったもんじゃない。

 燦太郎は自身の尊厳を守るべく抵抗の意を示した。

「あ、俺もう寝る時間だわ」
「なにその態度! こんな古代人の巣窟で、か弱い女の子を放り出すつもり!?」
「か弱くねえだろ! さっきだって結構いい感じだったじゃん! あんだけ上手くやれたんだから、これからは一人でも大丈夫だよ!」
「むーりー! 人間の気持ちなんてすぐにコロコロ変わっちゃうもん! しかも野蛮な古代人! いつ裏切られることやら、おお恐い! おまえがいないと、LAEを集めて活躍して昇進してちゃんとしたヒーローになって今まであたしを馬鹿にしてきたあいつとかあいつとかを見返して逆に嫌味のひとつも言ってやって富も名誉も思いのままに集めて誰からも尊敬される絶世の美女になるっていう慎ましやか極まりない夢が叶えられなくなっちゃうのだ!」
「そんな欲深い野望があるなら、なおのこと協力するか!」

 燦太郎は『燃え』とは真逆の気持ちになりながら、ヂンガイにしっしっと手を払った。

 ヒーローを名乗るヂンガイの好感度が弾丸の速度で下降しているが、見かねた様子の天甚が横から口を挟んだ。

「まあ、いいんじゃねえか? この子……ヂンゲエだっけか、こいつだって苦労してるみてーだし。おめいのこと頼りにしてくれてるみてーだし、本物のヒーローなんだから色々と武勇伝とか聞けるだろうし装備とかちょっとくらい触らせてもらえるだろうし新しい必殺技の特訓を一緒にしたり……え、というかむしろ技名考えちまう!? 一緒に考えちゃう!? よくよく考えてみれば突然現れたヒーローが転がり込む民間の住居ってめっちゃオイシくね!? じいちゃん一度でいいからやってみたかったネタが数十クールぶんくらいあるんだけどなあ!」
「途中から欲望丸出しになってんぞ。駄目ったら駄目だからな」
「そうは言ってもよお。詳しくは覚えてねぃけど、さっきはヂンゲエがワシのことを助けてくれたんだろ? 命の恩人を粗末に扱っちゃあ桜庭家の名折れってもんよ。うん、ならいっか!」
「よくねーよ雰囲気で誤魔化そうとすんなよ現実的に考えろよ食費とか世間体とか住民票とか国籍とか病気になったときとか銃刀法とか」
「デスヨネー!」

 フジ家のペコちゃんみたいな顔して引き下がる天甚。

「もったいねえなぁ。本物のヒーローとお近づきになれるチャンスだってのに」
「だからさ、俺はもうヒーローに憧れるのは卒業したんだよ」
「というか、こんな変人ばっかりの世帯とは思わなかったのだ。こんなとこ、やっぱしこっちからお断りなのだ」

 ぐったりしているヂンガイである。

 これでおしまい。天甚はあきらめ、ヂンガイは故郷に帰り、そして燦太郎はいつもの生活に戻る。そうなるはずだった。

『そこにいたか放蕩鬼。最後の力で……道連れに、してくれるぞ』

 光など通すはずもない正面玄関のシャッターに、影絵のように巨大なドクロのシルエットが浮かび上がった。

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