放蕩鬼ヂンガイオー

01「くまりはストーカーではありません」

エピソードの総文字数=930文字

 路地裏で、カラスがゴミ袋をあさっていた。

 すこし離れた大通りでは、さわやかな朝日が路面を照らしている。が、その光もここまでは届いてこない。
 薄暗く、しかし静かな空間で、カラスは黙々と自身の仕事を続けていた。

 ふと、カラスの動きが止まる。
 カラスはしばらく考え事をするように固まって、それから、せっかくのゴミ袋を見捨てて飛び去った。

 アスファルトを蹴る音……人の足音が近づいてくる。

「不衛生な場所ですね。困り果てます」

 現れた少女は、全身に付着した雑菌を払うように両手を振った。
 長く伸ばした黒髪から始まり、階級章の縫い付けられた胸、タイトスカートから黒のストッキングで包まれた脚へと順に埃を払ってゆく。

 しばらくやって満足したらしい少女は、無機質な黒カバーのスマートフォンを取り出した。

「こちら姫荻、裏手から例の店舗に辿りつきました。これより住人との接触にうつります」

 話しながら周囲を警戒。
 その視線が先ほどのゴミ袋に止まる。

「間違えました。ゴミを片付けてから住人との接触にうつります」

 少女はイヤホンマイクを取り出し、通話状態のまま両手を自由にした。
 散らかったゴミを端から片付けてゆく。

「困り果てます、ビニール袋などを路地に放置して、つい彼が足を滑らせたらどうするのです。困り果てます、こんなにインスタント食品ばかり食べて、彼が栄養失調になってしまったらどうするのです。困り果てます、こんなにいかがわしいお店のチラシ、うっかり彼が誘惑されてしまったらどうするのです」

 作業を続けていた少女が顔を上げる。
 通話先から何か言われたらしく、しかめっ面を更にしかめさせた。

「い、いえ、くまりはストーカーではありません。保護対象の情報収集は職務のうちですから」

 そこまで話してから、「あ、そうです」と何かを思いついた様子で少女は立ち上がった。
 その場で辺りを見渡してから、最寄ビルの屋上へと視線を固定する。

「スナイパーと代われますか? はい、私を見るように、そう、はい」

 少女は、自分の髪を手ぐしで梳きながら、じんわりと頬を赤らめた。

「あの。くまり、髪型……崩れていませんか?」

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