黄昏のクレイドリア

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エピソードの総文字数=1,971文字

かつて、戦いがあった。


力におぼれた魔術師が

悪辣な魔術を用いて人心を操り、

大勢の罪なき民を、己の欲望の為に戦場へ向かわせたのだ。

侵略に抗うために、

戦いの渦に飲まれた人々は農具を手に取り、

あるいは剣を握りしめた。


しかし、魔術師の率いる軍勢は、

魔術による圧倒的な力と数によってそれらを蹂躙した。

人々は成す術なく、魔術師に平伏すしかなかったのだ。



ところが、一人の少女が現れてから状況は一変する。

彼女が出撃する戦いでは、 必ず彼女の陣営が勝利したのだ!

白き衣をはためかせ、敵を凪ぎ払う様は神話の戦乙女の如く。

人々は彼女を、畏敬と賛美を込めて、こう呼んだ。




『常勝の女神』と――――












<通りに面した茶店 屋外のテーブル席にて>
…………。
さぁ、カノン!
どうぞ召し上がってくださいな。
もちろん、(わたくし)の奢りですから!
鳴呼、久々の甘いもの……!
ありがとう、フィリカ!
ふふ、約束の時間まで
まだありますもの。
ゆっくり味わってくださいね。

剣を帯びた軽装の少女と、

大きな花びらのようなつば広帽とドレス姿が印象的な長耳の少女の二人が、

甘味を目の前にして喜ぶ、ごくごく普通の女子の会話。

<周りの客>

(なんだあいつ等……)
……ではないようで、

通りかかった旅人や同様の客から、

二人は注目を一身に集めていた。

<ミーハーな町娘>

(あの大きい帽子を被った女の人…… 

 えっ、耳が……長い?!)

<戸惑う町娘>


(え……、え…………?)

<眼光の鋭い男>

(女のくせに剣なんかさげてやがる、

 戦士の真似事か……?)

いただきまーす
そんな周りの視線を意に介さず、

剣を携えた少女カノンは、

ドーム型の黄色いデザートをスプーンですくい、口に運んだ。

う~ん、おいし――
いやぁあああああアアアア!!!
!!
!!
突如、一帯に響いた悲痛な叫びは周囲を震わせる。

二人は立ち上がり、辺りを見回して声の主を視界に捉えると、女性の口から炎が溢れ出し、身体ごと、一本の火柱を形成していた。

あれは……
な、なんだよアレ?!
冗談じゃない……またかよ!
ばっ、バケモノだぁああ!!

燃え盛る女を見た人々は、

その尋常ならざる光景に

たちまちパニックとなった。

悲鳴をあげて、散り散りになっていく。


文字通り火中にある女は、

声にならない叫びを上げ続けたまま石畳へのたうちまわるが、

火の勢いは収まるどころか、勢いを増していった。

…………ッ!
痛ましい姿を見るに耐えられなくなったカノンは、剣の柄に手をかける。

しかしそれは、長耳のエルフ、フィリカの手で制止された。

だめです、カノン。
でも、あんなに
苦しむくらいなら――
あれはスケープゴートですわ。

どうすることもできません。

それに……彼女はもう
あ…………
フィリカから視線を離して再び女へ目を向けると、

そこには動きを止めた、焼け焦げた死体が転がっていた。

……フィリカ、これは
はい、これはおそらく……
火の手が上がったというのは此処か?!
!!
…………!!
横たわる焼死体を見て、騎士風の男は死体の横へと跪く。

焦げ臭い死臭からか、それとも

責務を果たせなかった罪悪感からか、男は顔を歪める。


彼を気遣うように、同様の身なりをした若者が、男の脇まで走ってきた。

……くそっ、また
被害者が出てしまったか……!!
隊長…………。
あの……、

貴方たちは騎士団の方ですの?

あぁ、そうだが……
君たちは目撃者か――――
!!
どうやら……

貴方が今回依頼したいことは、

この件のようですわね。レイモンドさん。

長耳の婦人……
貴女がリーン殿か!!
…………。
背を正し、男が礼儀正しく一礼すると、
隊員であろう青年も倣って腰を折った。
それでは君が……
(へ、あたし?)
はい、彼女がカノン・ルアルディです。

貴方が望んだ、"常勝の女神"ですわ。

えっ?!


ちょっと、
聞いてないわよフィリカ。

騎士団からの依頼だなんて一言も

カノン。
彼は過去の貴女を
正当に評価し、敬意を表している方です。
"ファン"に貴女の
正しい在り方を示すのも……
大事なお仕事ですわ。
…………わかった。
話をしている間に、

ぞくぞくと同様の鎧を纏った騎士たちが現場へと駆け付ける。

彼らを横目に見ながら、

フィリカは近くの騎士二人へ向き直った。

本人の了承も得ました。

どうぞ私達、『精霊のスクオーラ』に

お任せくださいな。

ありがたい。

とはいえ、此処で話はなんですから……


ユーリ!

私は後から行く。案内してやってくれ。

了解です。






というわけで、私はこれにて。
一緒に町に行こうなんて
どんな風の吹き回しかと思ったけど、
こういうこととはね、フィリカ……。
私、荒っぽいことは
得意じゃありませんし……
必要以上に屋敷を空けるわけにも
行きませんので。

何かあったら
いつ通り、呼び石で
連絡してくださいな。
はいはい。 

ちゃんと甘味分の仕事をしてきますよ。

……一口しか食べられなかったけど。

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