フェンリル娘と始める異世界生活

14話:「暴風」のフェリル

エピソードの総文字数=3,179文字

来たっ!色違いネズミ!
Bランクフィールドに入って少しすると、今まで狩っていたドブ色のネズミより一段濃い色をしたねずみが3体ほど、走ってきた。


ダークラットだ!

おおねずみの上位種、Eランクの魔物だ。

大丈夫なんだな。何回も狩った事がある!

いくぜっ!!でええええええええええええいやッ!!


鈍く輝く人間大の巨大斧を、クラークが軽々と振りまわす。

先ほどよりもスイングが速く見える。

シューマの能力の加算ぶんだろうか。

げしゃっ!!?
ぐしゃっ!
ぶしゃっ!!
奇妙な声をもらしながら三体のブラックラットが一挙に真っ二つに切り裂かれていく。

精肉工場で生肉をスライスするかのごとく、鮮やかな断面ですっぱりときれていた。


おおお!!すげえっ!ブラックラットが三体一気に真っ二つだぜっ!
クラークはこんな状況でも今の自分が強くなっていることに対して楽しそうに笑っている。そして巨大斧をぶんぶんと回し血脂を吹き飛ばす。地面に散布されたそれは黒い霞となって霧散した。

正直、気が休まる。緊張しすぎの気があるシューマにとって清涼剤だ。

おいおい!楽しそうじゃねえか! 俺にも狩らせてくれよ!
Eランクのブラックラットだからよかったんだな。Dランクの魔物だったらどうなるか分からないんだな。できれば威力が高い闘技を先に当てておくんだな。
それにしてもクラークの斧さばきと威力が目に見えて変わってるんだな。

おいらも試したいって気持ちはすごく分かる。

でも今回は異常事態なんだ。気を付けていくんだな。


この能力はある程度なら続けられるんで安心して!
自分の事は分かっておくべき。

そう思って、自分に掛け続けて調べておいたのだ。

数時間すると内側から何かに押されるようになり、だんだん動悸が激しくなり気分が悪くなり、辛くなってきた。

他人にかけたときの効率が同じならば数時間耐えられるはず。

いや、今は四人同時、もしかしたら負荷が高いかもしれない。

でもまだ大丈夫そうだ。

内側からの圧迫感は少しもない。


そして、敵の弱体はまだ余り使っていない。

敵の弱体ができることは分かっているが、どれくらい難しいのか分かっていない。

コストもあるかもしれない。

やみくもに使いまくれない。

本当に使わないと倒せないような敵の時に。

長時間いけるんだな!?

よしっ!シューマが能力を使えなくなるまでに早いところ脱出口を見つけるんだな!

四人は足早に、しかし慎重に足を進める。

Dランクフィールド内なので何が起こっても死に繋がる。

敵がブラックラットだけしか来なくとも、気は抜けない。

 
ジャウ!!!
ガキイン!
すげえぞっ!全然びくともしてねぞ!おらああ!!
ズバシュ!
ジュア!!?
簡単に真っ二つになるブラックラット。


こんなにEランクの魔物を楽に狩れるなんて思わなかったぜ!

敵がバターみたいだ!

それに闘技もぜんぜん使わないでも行けてるとかマジかよ!

だけどおかしいんだな……。

ここはDランクフィールドのはず。

出てくるのがEランクのブラックラットのみっていうのも変な話なんだな。

それならD判定なんてされないはず……。

ブラームスが物思いにふけりながらブラックラットを串刺しにしていく。

すでに、今の能力強化に順応して最小限の動作で的確にブラックラットの心臓を突き刺していく。


ふふっ。なんていうかすごいんだな。

これ、もしシューマがいなくなったら落差に愕然とするやつなんだな。

冷静さを保とうとしていても、漏れ出てしまう笑み。

開拓者にとって能力の上昇とはそれすなわち自身の発展であり、夢の開拓であり、快楽なのだ。


そんなことは無いよなっ!兄弟!窮地を脱した暁には正式な徒党として申請するからなっ!


ああ。こりゃあいけねえな。こんなのが他の奴らに知れたらシューマを悪用するやつがごまんといるぞ!俺達で守らないとな!
それがいいんだな。上の権力にはガラムさんに任せるしかないけど、直接のちょっかいには対応できるんだな。
ちょちょちょ! なんで急に僕を中心に円陣組んでるのっ!

わかった!わかった!わかりましたっ!

僕だって、一人で生きていけるなんて思ってないし気ごころのしれた人の方がいいしね。

生きて出られたら!生きて出られたらパーティを組んでもいいよ!

だから回りを警戒してっ!

なんか、大分ノリが分かってきたシューマだったが、この窮地にこのテンションでいけるのは正直すごいと思った。
ーーーーん? ちょっと。何か聞こえない……?
遠くから、ねずみ以外の音が聞こえたような気がした。

シューマは三人に注意を促す。

三人も即座に戦闘態勢でピタッと静止する。

表情も引き締まっている。

この切り替えの速さも開拓者らしいのかもしれない。

ぐるるるるるる……!
『ぎゃああああああああうう!!』
聞こえてきたのはかすかな獣の声、あとは大量のねずみの鳴き声の不協和音だ。

これはいったい……?

これは大量のねずみ鳴き声と獣の声……なんだな?

今までブラックラットしかいなかったのはここに溜まっていたからかもしれないんだな!

絶対に近づいたらだめなんだな!

ーー違うっ! これは女の子のうなり声だッ! 辛そうにしてる! もしかして魔物に襲われてるのかも!
シューマはただの獣の声と女性が獣を真似して出したケモノっ娘のうなり声を聞き分けることができた。そういう音声作品を死ぬほど聞いていたからの技能だった。


確かにそう言われればそれっぽいな……。

だけど、ケモノの唸り声を上げる人間なんて……。

うん。可能性としてはあるんだな……。
もしかして……やっかいな奴か……?
助けに行こう!無理だったら逃げたらいいんだ。助ける必要がなかったらそれでいいんだ!でも死ぬかもしれない人を置いて逃げることはしたくない!
こんな異世界にやってきて、ストレスがたまっているのを感じているシューマ。

そんなときに、女の子を見殺しにするとか罪悪感で死にたくなるだろう。

その罪悪感を背負って生きる続けるのは辛い。

これ以上の重荷は背負いたくなかった。

ヒュー! Dランクフィールドに女の子を救出しにいくとかスパイシーな展開になってきやがったぜ。いいぜ!行ってやろう!新しい兄弟シューマの願いだ!
難題の上に難題が降りかかってくるのは開拓者の宿痾なんだな
いっちょ真っ二つにしてやるよ!
ありがとうみんな!
正直、呆れられるかもと思った。見捨てることも十分にあった。

でも、気持ちよく了承してくれた三人に、とても心があったかくなった。

いこうっ!
シューマはどんな奴がでても即座に弱体化をかけられるようにイメージを固めながら、声のする方にダッシュをする。その周りを三人が囲む。

それが半日かけて考え出したベストフォーメーションだった。

シューマはコミュ症だった。

30年生きてきていい出会いがほどんどなかった。

信頼する人も信頼してくる人もいなかった。

しかし、異世界に来てそんな人ができるかもしれない、そう思った。


(僕の方から見捨てることは絶対にしない。そんなことをするなら死んだ方がましだ!

こんなぼくを信頼してくれた人に失望されるくらいなら死んだ方がいい!)

シューマは内側の熱量を燃やし続けながら下水道の通路を走っていく。


だんだんと音源が近づいてくる。

どんどん。

どんどん。

もう間近と感じるくらいまで近づいてきた時に。

急に四人の前の視界が開けた。

大きな空間に接続したらしい。

四人は急制動して、なかの様子をうかがう。

ぐるるるるるる……!!
『ぎゃぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅっ!!』
そこには見たこともない奇妙な姿をした大量のネズミらしき魔物と、それらに囲まれながら威嚇し続けている人影。

頭の上から耳の生えた返り血にまみれた女の子だった。


やっぱり「銀狼族≪フェンリスヴォルフレイス≫」っ!

それにあいつ!一度だけみたことがあるんだな!

Dランク下位「暴風」のフェリルだっ!!

フェリル……
そのときシューマはその女の子の名前を知った。

◆作者をワンクリックで応援!

0人が応援しました。

◆コメント欄は未記入でもOK! 公開されないのでお気軽に。

ページトップへ