『みじょかもんの祈り ー 心の貧しい人は幸い? ー』

04. 「放蕩息子の帰還。」

エピソードの総文字数=2,243文字

「ラジオ深夜便。。」

真っ暗闇の中を、ひたすら、、ただ、ひたすらアクセルを踏む。

急いでも、希望なんて見えていなかったのに。

見えるのは、ライトに照らされるガードレールの白さだった。

*****

寒い冬。

健康管理がなっていなかった私は、中途退職をしてしまった。
病気になり、体を壊した。

このまま帰った所で、特に仕事があるとは思えない。
大都会、東京にいて見つからなかったものが、どうして長崎県の小さな島で見つかるのだろうか。

次に何の職種を選べばいいのか。

どんな顔をして、田舎の両親に会えばいいのか。
どんな言い訳をすれば、言葉が届くのだろうか。

独身なのに、無駄なものばかりを所有していたことが分かった引っ越しの整理。
生きていくのに、全くと言っていいほど無意味なものが多かった。
これから帰る家の小さな部屋には、これらは、もう入らない。

一つ一つ、「これがないと今、困るか?」と自らに聞いていく。
ほとんど、「問題なし」。
自らを証明するもの以外はいらないものばかりだった。
こうやって、挫折を感じなければ見えていなかった。

「どれだけ自分は、必要以上のもので着飾っていたのだろうか」
断捨離という言葉があるが、所有から抜けることの意味を感じるとともに、もっと深いところの所有からの解脱というものもあるのだろうなと思った。

故郷に錦を飾ることができなかった・・・という思い。

夕方、少し暗くなる前に引っ越しの荷物をまとめ、埼玉を発つ。

小さな軽自動車だ。
情けない・・・。
車は手放せなかった。

笑えるが、車を手放せば、自分の今までの努力を手放すことになると信じていた。
* 結局、半年もしないうちに、あっけなく手放すことになるのだが。

細く冷たいハンドルを握りしめ高速を走る。
愛知に着く頃には、もう真っ暗になっていた。

京都、大阪までは渋滞に遭ったが、夜も深まり、中国道に着いたところで車が減る。

何を考えて走ったのか。
今はハッキリと覚えていない。
ただただ、悲観的な気持ちしかなかった。

真っ暗な未来。
目の前に広がる太陽のない世界。
夜の世界。

「明日、明日」と私たちは言う。
しかし、人間が勝手に付けた境を越せば明日になるだけ。

その境を越えても、私は私のまま。
新しい自分になるとは思えない。

ラジオから聞こえるNHK放送。

オールナイトニッポン。
ラジオから流れてくる賑やかな声や音楽。

夜が深まるにつれて、パーソナリティの人の声が少なくなっていく。
どんどん音楽ばかりになっていく。

それが、自分から離れていっているようで切なかった。

「ラジオ深夜便、、、」

まったりとした時間が流れる。

横を走る車のナンバープレートを見ると山口ナンバー、そして九州のナンバーが多く見られる。

関東や関西のものは見られない。
いよいよ、帰って来た。
もう、戻れないのかもしれない。
今まで辿って来た東の方に、もう足を踏み入れることはないのかもしれない。

結局、長崎市内に着くまで、眠ることなく運転をしてしまった。
長崎に入る直前のICに入る。
仮眠を取ろうと思った。
しかし、ドキドキ、、ドキドキ、、心臓が激しく動くのが止められない。
口から飛び出してくるぐらい激しい動悸。
寝るのも、諦めた。

真っ直ぐ、島へ行こうと予定していたが、怖かった。
何が怖かったか?
色々、怖かった。

親の顔を見ること
挫折を実感すること
次の道がないことを感じること
昔のように戻れないこと

色々あり過ぎて仕方なかった。
失くすものしかないと思っていた。

だから、抵抗した。
1日だけ、、1日だけ家に帰るのを遅らせる。
1日遅らせたからって、誰も困らない。
もう、私は無職なのだから。

長崎にあるカトリックセンターに泊まった時間は、もう正午を越していた。
畳の上で、横になってみたが眠れない。

不眠のまま、3階建てのセンターの外を眺めた。
下を見つめると、吸い込まれるような気分になる。
「落ちたら、楽になるのかな・・・」
そう思うも、落ちることはできない・・・。

夕方になってカトリック浦上教会に足を運んだ。

中学生、高校生の時に、よく来ていた所だ。
懐かしかった。
夕陽に照らされたレンガ造りの教会。
教会の中に入ると、ステンドグラスの鮮やかな光線が椅子やオルガンを射している。

戻れるものなら、数年前に戻りたい。
でも、時間は戻らない。

ふらふらで宿泊するカトリックセンターに戻ると、ドアの前に見たことのある男性を見つけた。
私の中高の同級生だ。
カトリックの司祭として働いている。

高校を卒業してから、、15年くらい振りだった。
お互いの近況を話した。

長い話にはならなかった。

私は、彼にお願いをした。
祝福が欲しいと。
両手を広げ、司祭の手の平が私の頭の上に。

******

当時の私には、目の前に何も用意されていなかった。
用意されていたのは、絶望と挫折のみだった。

誰にも、1日後、1カ月後、1年後は分からない。
「まさか、、自分がここにいるなんて、、」という道を用意されている。

そこに置かれるまでは、私たちは運命というものに翻弄される。
気分が落ち込んでもいい。
だが、信頼することも忘れてはならない。

あれから10年後、私は当時、思ってもみなかった所で違う景色を見ている。

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