犯人推理ノベル「消火栓」

6話 ペンペンの散歩

エピソードの総文字数=3,289文字

ああ、そうだっけ。まだだけど。
忘れるところだった

あーあれだ。僕もついてっていいかな?
実を言うと暇だったり

塩崎が誘ってくるなんて珍しいな。
何かあるんだろうか・・・?

少しだけ嫌な予感がした。

いいよ、一人で行くから

と断った。

そうかぁ、残念だな

塩崎はそう言うと顔を引っ込めて自分の部屋に戻っていった。
さてと、ペンペンの散歩に行くか。

僕は部屋を出た。

説明しておくと、ペンペンというのはバスケ部みんなで飼っている犬のことである。

この学校の体育館が完成した頃、プーやんがバス停で拾ってきたのだ。

その子犬はバス停にリードで繋がれた状態でおとなしく座っていたそうだ。
その近くに段ボールがあり、中に一ヶ月分の餌が入った缶詰があった。

どうやら捨て犬らしかった。

ペットを持て余した飼い主が、こんな山奥に捨てていったのかもしれない。
罪悪感を軽くするために、人目につくバス停に子犬を繋ぎ、ご丁寧に餌まで用意したのだろう。
無責任だ。

当時は小さくてかわいい子犬だったのだが、ほんの数ヶ月であっという間に大きくなってしまった。

『ペンペン』の名付け親はプーやんだった。
何やらアニメに出てくる動物の名前をそのまま引用したらしい。

バスケ部みんなが交代でペンペンの世話をすることになっているのだ。
今日は僕がその当番ってわけだ。

ペンペンは風呂場の外に当たる場所で飼われていて散歩は寮を一周することになっている。



僕は一人、ドッグフードを取りに下駄箱にやってきた。

暗いので電気をつける。

掃除道具入れの上にある、ドッグフードを取りだし、プラスチックの皿に注ぐ。
窓の外を見ると、あたりはもう暗くなっていた。


ちょうど、男子寮の前に設けられた外灯がパチパチと点灯した。

ドッグフードを皿に大盛りに注ぎ終わると、僕は袋をとじて元に戻した。
ペンペンは小さな体の割に、よく食べる。


だからなのか、やたらと元気で、いつも力が有り余っている感じだ。


バスケ部みんなで、暇つぶしに外でサッカーをするとき、ペンペンもいっしょに参加させる。
その時はいつも自分も選手の一人だと言わんばかりに、ボールを追いかけてはしゃぎまわるのだ。

僕はそんなことを思い出し、ドッグフードがこぼれないようバランスを取りながら犬小屋に向かった。

僕は砂利道の上をザッザと音を立てながら歩いた。

夜空を見上げると、夏の正座がキラキラと輝いている。

きれいだな・・・
そう思ったとき、

弘樹君?

と、女の子の声がした。

振り返るとゴミ袋を持った鈴原がこちらにやって来る。

鈴原、カレーつくってたんじゃないの?

作り終えたよ。
ゴミを焼却炉に持っていこうと思って

俺はペンペンの散歩

私もついて行っていい?

もちろん

僕は鈴原と2人で夜空を眺めながら歩き始めた。

弘樹君って、中学の頃って楽しかった?

鈴原が唐突に質問してきた。

え、中学? ・・・いや、別に普通かな

ふーん、そう・・・

鈴原は一瞬、何かを思いだしたような表情をした。


そして手を後ろに組んで、ふぅとため息をついた。

どうしてそんなこと聞くんだ?

別に

鈴原はそれ以上なにも言わなかった。
変な奴。

気がつくと、二人はペンペンの犬小屋にたどり着いていた。

ペンペン、ご飯よぉ

鈴原は元気を取り戻したのか、明るい声で叫んだ。

あれっ?

どうした鈴原?

ペンペンがいないんだけど

え?

僕も犬小屋をのぞく。

中はもぬけの殻だった。

おかしい、どういうことだ?

僕と鈴原はお互いの顔を見合わせた。

どこへ行ったんだろう?

ペンペーン、出ておいで!

しかし、なんの反応もない。

と、闇に包まれた茂みから、誰かがこちらを見ているような気配を感じた。

誰かいるのか?

僕は反射的に声を出した。

しかし、やはり返事はない。

鈴原も僕の視線を追いかけた。

どうしたの、弘樹君?

いや、誰かがそこにいるような気がして
・・・気のせいかな?

ペンペン?

いや、分からないけど、何か気配が

ちょっとー、怖いこと言わないでくれる?

鈴原が僕の腕をつかんできた。
つかんだ、というよりは、つねってきた。

イテテ。離せよ。
とりあえず、ドッグフードはここに置いて、僕たちは寮に帰ろう。おなかも空いたし

おかしいね。どこか近くでうろついてるのかな?

どうだろう?

僕と鈴原は焼却炉でゴミを捨てると、寮に向かった。

僕は寮の下駄箱でスリッパに履き替えると、
そのまま食堂に向かった。

デジタルの腕時計は7時10分を表示している。

食堂に入ると、バスケ部のみんなはすでにテーブルに座っていた。

あたりにはカレーのいい匂いが広がっていて、武藤純一がみんなの皿にご飯をついでいた。

鈴原がカレーの入った鍋を持ってくる。
今日のメニューは、鈴原あゆみの特製コロッケカレー。

「いただきまーす!」

食べ盛りのバスケ部員は、ガツガツとピラニアのごとくカレーをたいらげていった。
食欲が満たされると会話も弾みだした。

僕は、バイクの話をしている若宮亮太と海老原さとるの方を見た。

やっぱりあの車、酒井の車だったんだ

若宮が機嫌悪そうにキャプテンの海老原に話しかけている。

なんの話だ、若宮?

僕は話に加わった。

バイクの話だよ。

俺と海老原、いっしょにバイクで来たんだけど、海老原のバイク、50CCの原付でボロくてさ、途中でガソリンなくなりやがったんだよ。
だからチューブを使って俺のバイクのタンクからガソリンを分けてやろうとしたら、見覚えのある車が横を通り過ぎたんだ。

それが酒井のハゲで、俺たちが学校に到着して、バスケに夢中になってる頃にバイクを見つけたんだ。

海老原、お前のせいだぞ!

若宮は一気にまくし立てる様にしゃべった。

悪かったよ、でも帰りはたぶん大丈夫だから

でもバイク取られたんだろ、どうやって帰るんだ?

見つかったとはいえカギは俺たちが持ってるからさ。
バイクさえ持って帰ればこっちのものだからな

またガソリン、途中でなくなったりするなよ

あれでもう十分だよ。帰りはずっと下り坂だし・・

なんにしても、バイクなんかに乗ってくる方が悪い。

僕は水を飲み干すと、そろそろ部屋に戻ろうと席を立った。

椅子をテーブルの上に乗せようとしたとき、ふと、僕はあることを思いだした。

そうそう、そういえばペンペンがいなくなってたぞ

ペンペンが!?

海老原がいち早く反応する。

いないって、どういうことだよ・・・弘樹

プーやんが目をキョロキョロさせながら聞いてくる。

犬小屋から消えてたんだ

プー、お前が食ったんじゃねぇのか?

若宮がけらけら笑って冷やかした。

ふ、ふざけるなよ!

今日の昼の当番の奴は誰だ?

武藤がメガネの縁を指で押さえながら冷静に聞いた。


ペンペンの散歩は、昼と夜の2回と、みんなで決めている。

俺だよ

そう答えたのはいち早く反応した海老原だ。

その時はペンペン、ちゃんといたし、リードもきちんとつないだぞ

どうせヒョッコリ戻って来るって。
前にもいなくなったことなかったか?
あの時はすぐに戻ってきただろ

若宮がたいして興味なさそうに言った。

そんなことあったっけ・・・

僕はそんな事件があったことを思い出すのに、時間がかかった。

たしか、半年前にも今のようなことが起きて、みんなで探し回ったが、結局、次の日の飯の時間には犬小屋に戻ってきたのだ。

その時は、プーやんの不注意で、リードをきちんと犬小屋に繋がなかったのだ。

そうだ、きっと明日にはペンペンは戻ってくるだろう。

僕も若宮に同意して、みんなはそれぞれの部屋に戻っていった。

僕は、自分の部屋に戻ると、とりあえずベッドの上に腰掛けた。

さて・・・と、今からは合宿中、唯一のプライベートな時間だ。

何をやってもいい。

雑誌を読むか、寝ようか、音楽を聴こうか。
僕は何をするか考えた。

そうだ、ちょっくら僕はキャプテンの海老原の部屋に遊びに行ってみるか。

つづく

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