退魔天使は聖夜に踊る ~復讐の乙女~

【16】復讐の手ほどきはドライフルーツの味

エピソードの総文字数=1,998文字

 幸か不幸か朝の大食いバトルのおかげで、ヘコみまくってた俺はなんとか立ち直れた。そして食い過ぎで苦しかった俺は自室に戻ると、ひっくり返したカエルのようにふくれた腹を天に向け、ひとりベッドで転がっていた。

 腹がこなれるまでマンガでも読んでいようと思ったのに、徹夜したのを忘れてて、いつのまにやら眠っていたんだけど……

『ドンドンドン』

 けたたましくドアを叩く音で目が覚めた。チラと時計を見ると、もう昼近くだった。

「多島君、いないのー? 多島くーん」
 俺のお昼寝のジャマをした犯人は、なんと弓槻だった。
 俺は毛布を羽織り、渋々ドアを開けた。足元から廊下の冷たい空気が入り込んでくる。
 腕組みをした、こわい顔の弓槻が突っ立っていた。

「……なんだよ。夜寝てないんだから静かにしろよ」
「銃の撃ち方教えて」と強い口調で言う弓槻。
「……ソレ、お願いというよりも命令に聞こえんだけど、弓槻さん」

 弓槻はさらにぎゅっと眉間に皺を寄せると、
「お姉ちゃんの――仇が討ちたい」
 それだけ言って、口を横一文字に結んだ。

 俺は心臓を掴まれた気がした。
 肩に掛けた毛布がバサリと床に落ちる。
 俺は弓槻の顔を直視出来なかった。

 数十秒か、数分かわからないが、しばしの間絶句していた俺を、弓槻はずっと黙って見ていた。
 いや、返事を待っていたんだろう。

「俺じゃ、ダメなのか。仇討つの。……朝食堂にいたおっさんたちでも難しいんだぞ」
「負けたくせに」

 それを言われるとつらい……。

「俺、聞いたんだ。お姉さんがお前のために貯金してたこと。それって、お前にこんなことをさせるためのお金じゃないだろ? お前が教団に頼らずに生きていけるようにって、願っていたんだろ? お前が銃を手にしたら、お姉さん、喜ばないよ……」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんよ。私、そんなこと頼んでない」
「そりゃそうだけど……」
「私はお姉ちゃんを殺したあのカマキリを倒したい。それだけ」

 こいつには絶対倒せやしない。それははっきりわかってる。
 ちょっとやそっと教えてもムダだ。
 だってこいつは、ただの非力な女の子なんだぞ。
 当人だって目の前でカマキリと俺がやりあったのを見てるから、わからないはずがないんだ。

 もしかして、俺が食堂から出ていった後に、おっさんたちに何か吹き込まれたんだろうか? だったらひどく迷惑な話だ。

「お前、俺のこと憎んでるだろ」
「そうよ。この役立たず。ハンターなんてみんな役立たずよ!」

 ぐふっ。肋骨一本分のダメージを食らった。
 こいつの姉どころか、両親さえ救えなかったのだから、ハンターそのものを恨んでいてもおかしくはない。

「俺のこと恨んでるだろ」
「あたりまえじゃない。いいからさっさと教えなさいよ、この人殺し」

 ぐはっ。残りの肋骨が全部やられたほどのダメージを食らった。
 分かっちゃいたけど、露骨に言われるとキツい。

「お前がカマキリとやり合えるようになる前に、俺がとっくに始末しちゃってるぞ。そんでもいいのか」
「やんないとわかんないでしょ」
「わかるよ。お前にはムリだ」
「でもあんただって負けたじゃない」

 ぐふっ。……それを言われると(略)

「あんたに拒否する権利あると思ってんの?」
 弓槻はさらにダメ押ししてきた。是が非でも教えさせたいようだ。

「俺は、お前のお姉さんを守れなかった。その上、お前まで死なせちまったら、俺、お前のお姉さんに合わせる顔がないよ。頼むからそんなことやめてくれよ……」
「なんであたしがやっちゃいけないのよ! お姉ちゃんの仇なんだからあたしが討って何が悪いのよ! バカッ」
 弓槻の瞳から、大粒の涙がポロポロこぼれ落ちた。

 俺だって泣きたいよ。夜中ずっとヘコんでたの知らないくせに。
 言いたいことばっか言いやがって。ちくしょう。

「俺に罪滅ぼしもさせてくれないのかよ……」

 弓槻は握った両の拳と頬を振るわせ、目を涙でいっぱいにして俺に訴えた。
「だってあたしの復讐だもの……」

 俺は思わず弓槻を抱き締めた。
 お姉さんを死なせてしまって、悲しいのも苦しいのも悔しいのも腹立たしいのも全部、俺もこいつも同じだ。

「お前が死んだら俺が復讐しなくちゃならなくなる。俺も教団の子供だから。……弓槻、一緒にやろう。それならいいだろ?」

 弓槻は俺の腕をほどき、背中を向けて啜り泣いた。
 髪留めの天使の羽も震えている。

「……手伝いくらいなら、許してあげるわ……」
「ありがと。それなら、俺もお姉さんに顔向け出来そうだよ」

 弓槻は振り向くことなく、啜り泣きながら俺の部屋を後にした。

 今の俺には、弓槻を慰める資格もないんだな。そう思った。
 一緒にパンケーキ食った仲なのに。

ページトップへ