神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神の世界デビュー

エピソードの総文字数=2,105文字

 朝、目が覚めると、天馬のスマホにはメールが入っていた。


 寝起き早々だったが、天馬がメールを開いてみると……メールの送り主には「Israel Defense Forces」と明記されていた。イスラエル国防省である。実際にイスラエル国防省のウェブサイトにアクセスしてみると、メールアドレスに使われたドメインも、どうやら間違いなく本物のようである。

『不動天馬様。あなたとご相談がしたい。本日、帝国ホテルのラウンジに来て頂けますか。こちらがあなたをすぐに見つけますので、気を遣わずご来訪ください。ご足労をお願いするので、来ていただけるだけで100万円差し上げます』
 メールの内容はシンプルなもので、日本語で書かれてあった。自分の名前やメールアドレスを、イスラエル関係機関に伝えたことなど一度もない。
ふん。呼びつけられて出向くほど、この俺は暇人ではない。

 急にこのようなメールが舞い込むのはどうしてだろうか。何か変わったことをした覚えはないが、強いて言えば、昨晩書き上げた『弾道ミサイルDIY』を見たということかもしれない。


 天馬はPCを立ち上げ、昨日作成したばかりのその自分のブログのアクセス数をチェックした。わずか一晩で、無名のブログだったはずのものが、アクセス数3000にも達していた。また、ユニークアクセスは400。つまり400人か400もの組織が、天馬の弾道ミサイルDIYを見に来たということだ。

 自分のブログがどこかで話題になっているのか不審に思い、天馬は関連する文字列で様々検索してみた。しかし、まったく話題になっている形跡はないようだった。とすれば、このアクセスはどこから来ているのか。


 ふと、天馬のスマホに電話が掛かってきた。電話があるなど、遠い記憶の出来事のような気がした。今年40歳、引き籠もり歴25年の天馬には、年に1度もない出来事である。実に、数年ぶりではないだろうか。

 不審に思いながら、天馬は受話ボタンを押した。

こんにちは。不動天馬さんですね?
 軽快な、明るいトーンの応答だった。
……そうだが?
突然ですが、アメリカに来るつもりはございませんか?

あなたと一緒に仕事がしたいのです。

何?
あなたをスカウトしたくてお電話差し上げました。
………………国防総省か?

 天馬は憶測をぶつけた。自分の知能が狙われる可能性について、この25年間にわたり、天馬は一定の警戒心を抱きながら生きてきた。その自分を狙ってくるはずの最も有力な相手が国防総省だと睨んでいたのだ。

 しかし天馬も予想外の応答が返ってくる。

いえ、私はゴーカルの社員です。

つい今しがたも、不動さんが我が社の検索エンジンで色々調べ物をしていたのを確認しておりましたよ。

 ゴーカルは、言わずと知れた世界最大の検索エンジンだ。そして、人工知能研究から宇宙システムまで、地球の科学技術をリードする多国籍巨大企業の一角だった。

 電話の相手は明るい口調で続ける。

年俸も弾みますよ、1年目は1000万ドルでどうでしょう?

日本円がよろしければ10億円でもいいのですが。

何か勘違いしているのだな。

神を働かすのに、10億円では安すぎる。明らかに、不当な労働環境だ。

と、とんでもない!

私どもの労働環境は実に優れたものです。世界中の優秀な人たちが集まっており、労働環境は世界一恵まれたものだと自負していますよ。

貴様らが自負していようがいまいが、この俺には関係ないことだ。

端金で、神を雇えると考えているのではあるまいな?

1年目は50億円といたしましょう。これは破格の待遇です。
却下だ。
まさか即断する人は初めてです。ですがどうしてもあなたを採用したい。お望みの条件を仰ってください。ゴーカルは、そのご希望を叶えられるように努力します。
神に仕事をして欲しいのならば、せめてゴーカルの社長の椅子を用意しろ。話はそれからだ。

 そう言い放ち、天馬は静かにスマホを置いた。

 ちょうど小腹も減ってきたところだった。天馬は寝起きにチェックシャツだけ羽織り、階段を下りて、サンダル履きで家を出た。コンビニまではわずか1分、大通りに出るとすぐの場所にある。天馬にとって日々の唯一の外出だ。

 だが家の前に、スモークガラスを張り巡らせたハイエースが停まっていたため、天馬は舌打ちした。手狭な通りに、半ば道をふさぐように停まっているのは邪魔でしかない。

 忌ま忌ましさを感じつつも、天馬はハイエースを避けてコンビニに足を向けた。


 ハイエースを通りすぎたとき……突然、天馬の後ろで車のドアが開く音が聞こえた。人の気配を強く感じた天馬は後ろを振り向く。すると屈強な男3人がハイエースから飛び出してきて、いきなり天馬を羽交い締めにしてきたのだ!

 アッと声を上げるまもなく、男の一人がいきなり天馬の腹に拳を付き入れてきた。

ぐっ……!?

 予想もしない打撃だった。天馬は腹をよじり、苦痛にうめいた。

 続けざまに、同じ男から首筋への手刀。気を失いかけた天馬の鼻と口を、男たちはハンカチで覆ってきた。そしてハンカチを押し当てられたまま、天馬は無理やりハイエースのなかに引きずり込まれ、そこで気を失ったのだった――。

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