【ユーザー参加企画★リレー小説】イブに初デートしたらヤバい世界に飛ばされた件

【タイト01】たけうちりうと

エピソードの総文字数=2,680文字

奇蹟を超えて旅をする
2017/11/30 16:21


 ああ雪だ。

 と、上を見ていた。五秒くらい。

 で、視線を戻したらぼくの前にいたはずのユウアが消えてた。


 あれれと思って、ぐるっと360度、見回してみる。

 いない。

 五秒前まで僕の斜め前に立っていたユウアが。

 いない。

 

 目の前のスピーカーからはBGM。明るくてにぎやかな感じの曲。

 この曲知ってる。

 クリスマスツリーの下にはラブがあるってこと、忘れないでね。

 って意味。


 うん、忘れない。と思う。少なくともぼくは。

 クリスマスイブにぼくとユウアの初デート(誘ったのはユウアだ)。

 湘デパ前のクリスマスツリーを見に来た(提案したのはユウア)。

 ひとつの輪がふたつにわかれる型の指輪を買った(買おうよと言い出したのはユウア)。


 大きなツリーがぼくの目の前にある。


「ねえ、湘デパツリーの面白エピ知ってる?」

 一時間前、ユウアはそう言って笑った。


 笑ったユウアはとても可愛い。

 高2になって同じクラスになったときから可愛いなと思ってきたけど、最近の可愛さはもう異次元レベルなんじゃないかって思うくらい可愛い。

 で、同じようなことを一昨日、ぼくはユウアから言われた。

「タイトってさ、ホントもうどうかしてるよってくらい可愛いよね。可愛い過ぎて歴史的発見レベル」

 なんだよそれ。

 ぼくは笑ってしまって、返事ができなかった。


 イブにデートしよっか。

 湘デパのツリー見にいこう。

 そう提案しあって、すぐに行き先も決まった。


『イブの夜・モニュメントツリーの奇蹟』……って、新聞広告にも、そのツリーの写真が載っていた。

 このモニュメントツリーっていうのはクリスマスツリー型をしてるけどそれは特殊な紙で作られたたくさんの小枝のパーツでできているのであって、小枝ひとつは500円で売られてて、小枝を買って願い事を書いてモニュメントに加えると、願い事がかなう。かもしれない(という設定になってるらしい)。その小枝の売り上げは被災地の支援。という、いわば支援イベントだ。


 クリスマスと絵馬と被災地支援活動が合体したこのツリーは、いろいろな意味で不思議な存在だ。

 まず、特殊紙ってやつが面白い。防水仕様で、なおかつ特殊ペンで書いた文字は一分後に完全に消失する。

 だから幾千幾数千という願い事がこのツリーを組成しているはずだけれど、それは書いたひと以外の他者には読めないんだ。

 枝は次第に増えていく。再下段が小枝でいっぱいになると、ツリーの主幹がシフトアップして樹高があがる。

 円錐形の下枝の数もだんだん増えてゆく。

 クリスマスツリーにつきもののオーナメントとかイルミネーションとかは何もない。

 淡いシルバーと控えめなゴールドの小枝たちが主幹を彩っていて、ライトアップされているだけ。

 シンプル。そして綺麗だ。



 このツリーの一番下に、小さな出っ張りがある。

 謎の出っ張り。


「出っ張りってなにその言いかた、ひどー。これ妖精テラスっていうんだよ。ほら、見て。ここに書いてあるでしょ?」

 五分と少し前、ユウアはそう言って僕を肘でつついた。

「ここにね。大事なものを置くんだって。そしたらツリーの妖精さんがそれを持っていって、一時間後に幸せプラスして返してくれるんだって」

 ユウアが指さしたのは小さな案内板。うん。たしかにそう書いてある。

 条件も書かれていた。

『貴重品はご遠慮願います・一回にひとつです・一時間後に必ずここまでお戻りください』

 大事なものって何。と、ぼくは尋ねた。

 指輪。とユウアが答えた。


 さっきふたりで買ったばかりの指輪だ。

 ぼくのは銀色で、ユウアのは金色。

 ぼくのはシンプルな形で、古代文字のようなものがうっすらと掘ってある。

 ユウアのは変形7角形の琥珀色した結晶石のようなものがくっついてる。

 溝を合わせて軽く回すとひとつの指輪になるタイプ。

 湘デパ三階のファンジン&マジンというファンシーグッズ店で僕らはそれを買った。


 えー。

 でもー。

 貴重品はご遠慮ください。って書いてあるじゃん。

 僕は軽く反対した。

「大丈夫だよ、千八十円だよ?」とユウアは笑った。

 一回にひとつ。って書いてあるし。

 もう一度僕は抵抗した。

「もともとはひとつじゃんこの指輪」ユウアは軽くふくれた。


 ああ、これ、ぼくがだめだなと思った。

 イブなんだし、ちょっとはっちゃけて面白いことに乗ってみようよ。ってユウアは言ってる。

 ぼくの小心警戒心猜疑心の類いで、反対したらイブはだいなし。

 いいよ、やってみよう。とぼくは指輪を外してユウアに渡した。

「じゃ、載せるね。妖精さんお願いしまーす」

 ユウアは指輪を謎の出っ張り、もとい、妖精テラスの上に並べて置いた。

 ぼくの鼻に柔らかくて冷たいものがそっと触ったのはその直後。


 あ、雪かなと空を見上げた。

 夜空からぼくをめがけて雪が降ってくる。

 ぼくの頭上は消失点。

 みたいなことを考えてから、視線を戻したんだ。


 ユウアがいない。

 そして出っ張りの上に指輪がない。

 

 たっぷり十秒、僕は黙って動かず静かに、そしてものすごくパニック状態になった。

 それから、気がついた。


 コンコースは屋内だったよね。

 雪は降らない。はず。

 見上げても、雪空は見えないはず。


 だけど今、僕の頭上には漆黒の夜の空、そして幾億か数をも知れぬ雪片がしずかにしずかに舞い降りてくる。

 湘デパの建物は僕の右手、100メートルくらい先にある。

 建物全体がスケルトンになってた。

 内部から細かい光の粒がほわわわ、ほわわわ、と空に向かって立ち上っていく。

 湘デパとぼくのあいだは、ふっさりとした雪で隔てられている。


 ありえねー……。


 けれどツリーは目の前にある。BGMも聞こえている。

 ふいに気付く。

 ぼくは今、さっきまでぼくらがいた湘デパのコンコースではないところにいるのかもしれない。

 次元移動とぼくの脳は連想する。

 ツリーの出っ張り、もとい、妖精のテラスの仕業だろうか。

 指輪が消えて、一時間後に戻ってくるかもという含みだったのに。

 

 指輪もユウアもここにいないし、湘デパは透けてるし雪は積もってるし。

 もしかしたら消えたのはぼくのほうだったのか。


「どんな願い事をしたの?」

 背後からものしずかに尋ねてくるひとがいた。

 振り返ってから、パニックふたたびだ。


 ぼくよりは小さいひと、身長はぼくの半分くらいだけれど、容貌は僕よりずっと年上な感じの……性別ちょっとわかんない系の。

 自分がそうしたものの存在を信じる人間だと認めたくはないけれど。

 妖精さんタイプのひとが、そこに浮かんでいた。



2017/11/30 16:22

riutot

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