リリーの微笑み

正しき者-1

エピソードの総文字数=1,156文字

  少女との出会いは一週間前の日曜日、俺がコンビニで仕事をしていた時だった。

「おせぇなぁ。いつまで待たせんだよ!」
「す、すみません……」
 お客様が新人店員を叱責なさっている。その店員の袋詰めが遅くてイライラしているようだった。
 黙殺する訳にはいかないので仕方なく仲裁に入り、新人君と一緒に猛々しいお顔の男性客に謝罪して、その場を収める。――まったく、偉そうに……。
 怒鳴られてションボリうな垂れている学生バイトを励ましてから、店内の溜まったゴミを出しにいく。
 数多の新人君を育成し、社会の荒波へ放流している俺の名前は『桜野優也』。この職場に来てから今月で三年目になる。
「すみません。桜野さん、ちょっと……」
 新人殿のお呼びだ。至急駆けつけてみると、女性客の持参した荷物がレジカウンターでポツンとしている――宅配の受付方法が分からないのだろう――。
 手早くやり方を伝授しながら見守っていると、他のお客様が列を作り始めた。早々に空いているレジへ誘導する。
「お待ちのお客様、こちらのレジどうぞ~」
 接客をしつつ横目で、宅配の受付が滞りなく終了したのを確認し、安堵する。
 こんな完璧な俺も入りたての頃は酷かった……。レジの操作ミスは言わずもがな。商品を入れ忘れた際は、お客様の御自宅までお届けした経験もある。
 だから、あまり人の失敗は責めない。……だが、まぁ、そうは言うものの。忙しくなると俺もイライラして、仕事が雑になってしまう。今日、この頃。
 心に余裕のない人が沢山いて「やだなぁ」と思っていたが、いつの間にか俺もその一員にされてしまったのだろうか。新人の頃にはあった愛想を、経験値と引き換えに荒波へ投げ入れてしまった。
 ハァ……と、最近増えた溜息を吐いて仕事に戻る。
 ランチタイムになり、混雑する店内。忙しいレジ業務の片隅に追い遣られた九月の空は、とても澄んで見えた。
 自動ドアが開いたことを知らせる単調なメロディーが店内に響き渡り、同時にダサい柄の服を纏った男性が来店したのを視認する。
「いらっしゃいませ~」
 条件反射になり果てたあいさつを――本来ならばダサい服の男性客に向かってしなければならないが――商品のバーコードに向かって発した。 
 引き続きレジの画面を確認しながら業務を進め、会計を済ませて、商品の入った袋をお客様に手渡す。
「ありがとうございました。またおこしくださいませ~」
 多少手順が前後することもあるが、大体はこの繰り返し……だが、いくら要領が良くなろうとも気を抜けば失敗してしまう確率はグンと上がる。これも経験済みだ。
 俺は注文された揚げ物をトングを使って専用の紙袋へ入れながら「決して、敵に隙を見せるな!」といつもの呪文で自身に暗示をかける。

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