地球革命アイドル学部

極貧少女と理想の世界(5)

エピソードの総文字数=8,365文字

――20時。

 どうやら稽古の終了時刻のようだ。

 円香と千香と菜月の3人は、悟郎のそばにやってきて畳に腰を下ろした。悟郎も合わせて座り込み、3人に向けて頭を下げる。

今日もおつかれさまでした。
 俺も膝を折って胡坐をかいた。5人が輪になるような恰好だ。
ありがとうございました!
あざっした!
……ありがとうございました。未だにキモさが脳裏に焼き付いて……うっ。

だから説明しただろう、許してくれよ……。互いの人生の負けっぷりを悟郎と打ち明け合っていたら、熱い友情を感じて、つい自動的に抱きしめ合っていたというか……。

練はもう他人じゃない。九道家の身内みたいなものだ。皆も今後は暖かく迎えてやってくれないか。

お父さんのヘヴン状態……どうしてこうなった。

男同士の友情っていうのはそういうものなんだよ。千香にはわかるまい。

友情で抱き合うとか……。私の精神的トラウマがやばい……。美少年や美青年同士ならともかく、オッサン同士……おっ、おええ……。

宗形先生、いつも20時で稽古を終えると、その時間まで道場に残っていた門下生の人たちと輪になって、30分くらい自由闊達な意見交換をしているんです。大抵は武道に関する議論なんですが、とくに制限はなく、人生全般のさまざまな事柄を包み隠さず話し合う時間になってます。一切気を遣わず、無礼講で大丈夫です!

なるほど、じゃあ何を話してもいいのかな? しかし本当に門下生いないんだな。外からは桜丈くんしか来ていないじゃないか。

平日はこんなものよ。たまに1、2人見かけるくらいかしら。だいたい、普段は私もいないしね。土日の昼間なら5、6人くらい門下生を見かけるけど。

門下生って何人くらいか聞いていいのかな。

門下生は16人。練が言う通り立地が悪すぎて、近隣の人しか通えない。月謝は月5000円だから、九道道場の稼ぎは月8万程度といったところか。

あとお父さん、ときどき武道の本を書いたり、監修をしたり、講演に呼ばれたりもしてるっす。そっちは安定してないけど、平均的にならせば月5万くらいはある感じです。

今はまだ私と千香が、高校から特別支援金を2万円ずつもらっているので、月4万円も加算されてます。生活を支えることができているのは高校のおかげで、心から私たちは校長先生に感謝してもしきれないと思っているんです。だからインターハイを圧倒することは、私たちの義務なんです。

一家3人で17万……。そりゃきっついな。ここは賃貸? 持ち家?

戦後すぐのころまで近所で代々続いた道場を持っていたんだけど、今じゃ賃貸の身さ。

 月17万の収入でここを借りているとしたら、さらに際どい綱渡り生活なのではないか。生活保護を一部支給されてもおかしくないラインかもしれない。むしろ生活保護認定を受けて暮らしている人のほうが、ずっと安定した暮らしが実現できてしまっているだろう。だが曲がりなりにも道場経営を続けているわけで、事業経営者が生活保護基準を満たすことは容易ではないのではないか。日本の福祉制度は働く意思がある者になかなか融通が利かず、上手く立ち回る者が得をするようになってしまっている。また九道家の杓子定規な価値観からいっても、生活保護に身をやつすことは受け入れまい。

賃貸か。だったら、やっぱり道場を移動しないと始まらないだろう。ここじゃあまりに立地が悪すぎてな。

それはもちろん考えた。だが経営的に優良立地に場所を移すということは、家賃が何倍にもなってしまうということだよ。今どき、月5000円の月謝で、安定した道場経営を実現させるのはもともと厳しいから、なるべく安いコストで計画を立てていくしかない。

一家の家計を預かる者として、自分もずっと道場移転は想定してきたっす。だけど、こんな風に道場が付いている一軒家なんて他にないんですよ。新しいところを借りたとしても、ちゃんと道場を作るリフォーム費用に数百万は見なくちゃならないって思います。

千香に補足してさらに言うと、そもそもうちの家は収入が低すぎて、貸してくれる家主が見つからないのさ。道場もあって、2階に住めて、家賃も安いし、大家とも長年の付き合いがあって融通を利かせてくれる……もうここで何とかやるしかない。円香と千香にはただただ申し訳ない限りだが……。

 俺がパッと思いつく程度の改善案など、すでに九道家の面々では何度も話し合われ、方針が決められたことであるらしかった。当たり前といえば当たり前で、俺がいらぬおせっかいを口にしてしまっただけなのだ。

切実な話だなぁ……。返す言葉もないよ。

休みもなしで、これだよ……。はっはっは、開き直るしかないな……。

 どうやら本当に無礼講で、先生と門下生の間でのタブーはない時間帯のようだった。昔の日本の道場や寺子屋は、こういう場所だったのかもしれない。

本当にね、見てられないくらい貧乏なんだよ。にもかかわらず、この石頭3人は、他人からの施しを受けようともしないんだよね。円香たちって裏庭で家庭菜園とかやってて、野菜作ってるの。趣味とかならわかるよ? でもガチで生活のために作ってるからね。しかも堤防行って野草まで採ってるし。ちょっと今どき信じられないでしょ。

菜月ちゃん、自分で作った野菜って美味しいんだよー。
そういう問題のことを言ってるんじゃないし。

貧乏貧乏って菜月先輩は言うけど、自分、貧乏生活のやり繰りはプア充って感じで楽しめてるっす。

夏休みとか冬休みには交通量調査のバイトを時々入れたりするんですが、日給1万4000円とか臨時で稼げるんで、もう舞い上がりそうになりますよ。たったそれだけのことで、すごすぎてすごく幸せをかみしめることができます。

でも君たちはお金のことを重々しく考えすぎてるような気がするよ。もし可能なら生活保護とか受けたっていいと思うし、もっと適当に考えていいんだ。

適当になんて考えられませんよ。皆さまの大事なお金のことですから。

じゃあもう少し詳しく言うけど……その交通量調査っていうのは利権の一つにもなっていてな、役所は業者に、いくらで発注しているか知っているか?

その手のバイトって役所が発注していたりしたんですか? 実際に調査をした私の手取りが1万4000円ですし……1万8000円くらい?

国の発注価格は1案件おおよそ16万円って言われてるな。まぁケースバイケースだろうが。

ふえっ!? ……それが本当だとすると、実際に時間を費やして仕事をしていたのは私だけのはずで……その間の14万6000円という金額はどこに消えたっていうんですか?

消えたわけじゃない。ちゃんと中間に入る何社もの業者、そしてそこで働く人々の生活を潤しているわけだ。

私のバイトが本当は16万円で発注されたもので、私一人しか実働をしていないのに、暑い日とか寒い日でも懸命に頑張って、もらえたのは1万4000円……?

俺が言いたいのは、別にそのバイトがどういう構造で成り立っているかっていう戦術的なことじゃない。もっと大局的な話で、お金というのは単なるデータに過ぎないってことを知って欲しいんだ。お金を神聖視するようなことは、金輪際、止めてしまったほうがいい。先日の、俺との28円の借用証書のやり取りなんかも、あんなのは適当でいいんだよ。生真面目に考えすぎればすぎるほど、バカを見るのは自分だ。

異議あり! 宗形先生、お金はとっても大事なものっすよ。今みたいな生活を通して、誰よりもお金の大切さを知ってるつもりなんで。それって、いいことなんじゃないですか?

その考えは一見道徳的なように見えるし、正しい考えのようにも見えるかもしれないが、実のところ根本的な部分で間違いだと俺は思ってるよ。

 自分の言葉を具体的に示そうと、俺はポケットから財布を取り出し、1万円札を引き抜いた。そして1万円札を掲げ、おもむろにビリビリと破いて見せた。

…………ひゃっ!

 円香が息を飲み、他の面々も俺の唐突な行為に唖然とした様子だった。ショックで口も利けないといった風だろうか。

 俺とて、1万円の購買力は大きい。それでも、悟郎との大事な友情を得られた以上、むやみやたらに堅物すぎる九道家の面々に少しでも楽に生きられる選択をしてもらいたく、このパフォーマンスは有効だと思ったのだ。

金なんて本来こんなものさ。積み上げても本質的には無価値だし、大事にしまっておくようなものでもない。こんな紙切れに振り回されちゃいけないってことだ。

ちょっと何してくれてんのよアンタ。円香たちの前でブルジョアであることを見せびらかしたいの? あまりに失礼じゃん?

俺はブルジョアなんかじゃない。貧民にすぎない見るも無残な男だよ。ただ俺は、こんなものは幻想にすぎないって伝えたいだけさ。

 実際のところ、このビリビリに破いた1万円札は、よほど細かくバラバラにしない限り、あとで銀行に持ち込めば新札に変えてもらえる。1万円分の購買力が消失するのは俺とて痛手であり、あくまでこれはパフォーマンスにすぎないのだ。

お金を大切に考えるっていう私の意識は間違っているんですか……?

根本的に考え方を変えたほうがいい。金っていうのは、人間が人間を支配するために、人間が考え出した支配システムにすぎないんだ。金を厳格に受け止めれば受け止めるほど、その支配システムに自分を縛り付けているっていうことの裏返しでもある。だから九道くん……えっと、円香くんのことだけど、俺に28円の借用書を書いたことから考えても、あまりに金を重く考えすぎていると思う。もっと適当に、自由気ままに生きていいんだ、もしも誰かに支配されたくないのならな。

人間が人間を支配するために、人間が考え出した支配システム……? それはどういうことなんだ、錬。

俺は30まで、大学の研究職に就いていてたってことは話したろう。そのときの研究対象は、ずばり金だったんだ。具体的にはデリバティブ取引の研究者だったんだが、それはつまり、俺たち貧民を雁字搦めにしている社会システムそのものでもある。金っていうのは、何で価値があるかどうか考えたことがあるか?

思い返してみれば、なんで価値があるかなんて考えたことがなかったです。こんな大事なことを、どうして私は考えなかったんでしょうか。

モノが買えるから価値があるんじゃないっすか?
その価値ってどこからきているのかを聞いたんだよ。何でモノが買えるのか。
価値があるから価値があるでしょ。それ以上何かあるの?
みんなが価値があると思っているから価値がある――その通りだ。つまり、ただの信仰だな。
信仰なんて言うと、なんだか宗教みたいじゃない。
それも正解、宗教の一種だよ。

 現代で流通しているお金というのは裏付けがないものだ。皆がそれをお金だと信じ込んでいる――信仰しているから、それがお金(信用)として通用しているに過ぎない。そのことを、輪になって話に聞き入る4人に、俺は滔々と説明して聞かせていった。

 現代社会のお金というものは、銀行が通帳に1兆円と書き込みさえすれば、そこに1兆円分の信用が生まれ落ちる。これを『信用創造』と言う。この1兆円は銀行ネットワークを介してさらに膨れ上がり、まったく架空だった富が、さらなる信用創造を通して10兆円にも、100兆円にも膨らんでいく。

 そして現代社会というものは、このマネーがマネーを生み出す経済が巨額に膨れ上がっており、世界には6京円とも7京円とも言われる巨額のマネーが飛び交うほどになった。一方で、実際に人類が生活のために物資を購入したり決済したりするためのお金の総額は、世界全体で5000兆円程度とされている。現代社会は、モノを流通させるよりも、お金がお金を生み出すほうが効率よく稼ぐことができる世界になってしまっており、この仕組みの最上位に位置するお金を生み出すことができる一握りの人々に、お金というものを信仰する大多数の民衆が隷属させられてしまっている状況だ。

 ある国際機関の報告によれば、世界のトップ8人が持つ資産の総額は、人類の半分近くに相当する下位36億人が持つ資産の総額と同一である。こうした支配体制は人類全体のお金に対する信仰を通してますます強化されている。円香が借用証書を俺に出してきたような一見真面目だと思われるような行為を通して、盲目的に、多くの人々をこの支配システムへと組み込んでいるのだった。

 なかなか理解しづらいところだし、言葉足らずな部分もあるが、それでも社会の基本的な仕組みを考えてもこなかった人向けに、俺は可能な限り要点だけを取り出して話して聞かせていた。

――本当は、もっと解説すべきことはゴマンとある。利子の仕組みや、デリバティブの手法、国債発行……ぜんぜん話足りないが、とにかく俺が一番伝えたいことは、こんな風にして押し付けられている信仰に気づいてほしいということなんだ。こんなシロモノに、毎日ひたすら祈りを捧げて生きる必要はなにもない。

じゃあ世の中には、お金を無から作り出せる立場の人がいて、人類を支配している……?

だったら、誰がお金を創り出してんのよ。まるで王様みたいじゃないの。そんなヤツらが存在するとしたら許せない。

別に誰が王だろうがいいじゃないか。

アンタは悔しくないの? 生まれたときから王でいることができる人間がいるってことでしょ?

俺は世界史を教える教師として雇われの身だが……歴史上、王のような存在がいなかった時代なんてありゃしないんだ。人類の歴史っていうのは、本質は昔から何も変わっちゃいないんだよ。そこに文句をつけたってしょうがないだろ。

しょうがなくないでしょう。おかしいことはおかしいとなぜ指摘しないわけ?

おかしかないさ。世の中っていうのは昔も今も所詮こんなもんだろう。昔は王権とかが神聖視された一種のタブーだったし、現代ではそれがお金ということだ。何も変わっちゃいない。

私は2年のときと3年の今、クラスで世界史を請け負ってくれていたのは宗形先生でした。でも宗形先生は、今日お話くださったようなお金の話って、一言も教えてくださいませんでしたよ?

文部科学省様からは教えろと指導されていないからな。俺には関係ねえ。

いちおうシステムはちゃんと機能してるんですよね? このシステムのなかで、すごくすごく頑張れば、逆転ってできないんですか?

残念ながら差がありすぎて、仮に千香くんが全身全霊で努力したとしても、逆転なんてありえないだろう。

どうしてっすか? 自分、超頑張る気持ちあるっすよ。教えてエロい人!

そこが面白いものでな。このシステムの枠組みのなかじゃ、生きているだけで膨大な金がかかる。庶民はそれに追われて生きることになるんだ。九道家だって月17万の収入でやり繰りしているだろうが、そこには様々な負担がのしかかってきている。所得税もあるし、社会保険料もあれば、日常生活では消費税だって払うだろう。

それなら、とんでもない大富豪だって条件は同じっす。
本当にそう思うのか?
うす。

じゃあ仮に30兆円の資産がある富豪がここにいるとするな。この富豪の月収は仮で10万円だとしよう。税金は幾ら取られてる?

……あ、あれ……? 所得税とか社会保険料とか……月収10万円のなかからしか取れないんすけど……? もしかして草不可避……?

だろう。手持ちの30兆円にかけられている税金というのは、実はほとんどない。せいぜい手持ちの不動産から発生する固定資産税くらいだろうな。ただ、固定資産税が高い優良な不動産なら、貸し出せばもっと遥かに賃料収入が得られるから、富豪にとって何の負担感もないだろうさ。

ウボァー。でも、消費税もあるっすよ……?

それはそうだけど、富豪と君たちで食べる量が違うわけでもないだろう。贅沢品を買ったときに、富豪はちょっと多く払ってるくらいか。相対的には、消費税だって遥かに庶民のほうが負担率が高いのはわかるだろう?

どれだけ努力したとしても、農民から天下人にのし上がった秀吉みたいな物語はオワコン……?

あれ……なんか『この世をば、わが世とぞ思う望月の、欠けたることもなしと思えば』って……ぜんぜん私のことじゃなかったんじゃん……? 私じゃなくて、顔の見えないそいつらのことだった……?

……頭の悪い私に教えてください。いま私たちが暮らしているこのシステムって、変えることはできないんでしょうか?

この資本主義の世の中を強引に変えるっていうのなら、政治体制を変えるしかないんじゃないのか。

どんな政治体制にすればいいんですか? もっと多くの人たちに豊かさが行き渡るようなものって、ないんですか?
共産主義革命でも起こせばいいんじゃないのかな。知らんけど。
共産主義革命……。

共産主義って、私有財産性の否定よね? だったら、お金を作り出せるような王を消し去ることもできるわけ?

そうかもしれないが、所詮は人間がやることだ。共産貴族みたいな別の特権階級が出てくるのさ。旧ソ連でもそうだった。モグラ叩きみたいなもの……。

九道家みたいに、苦しい事情を抱えた家は世界中にたぶんいっぱいありますよね? そういった方々にご奉仕するためには、革命を起こしたほうがいいんでしょうか……。

さあなぁ……。まぁ、巨大な格差が完成されてしまった現状をもし変えたいと願うなら、もはやそれしかないかもな。もっとも、貧民でもなんとか生き延びられる方法はまだ残されているし、そこまでして体制に逆らうようなやつが出てくるとは思えないが。

共産主義革命を起こすのって、どうやるんでしょう?

民衆を扇動して、何十万単位の烏合の衆で国会議事堂にでも突撃すればいいんじゃないのか。戊辰戦争のときみたいに、錦の御旗を掲げられれば尚いいだろうさ。

国会議事堂への突撃って日本だけの話ですよね。世界全体を共産主義革命してしまうには? このシステムを転換してしまうには、どこに特攻すればいいか知りたいんです。

莫大な資金を色々なところにばらまくとか? 主要メディアの大株主として君臨して、報道を通して世界中の民衆に影響を与えるみたいな。

でもそれって、結局は体制の上位にいる大金持ちの人しかできないことですよね。

それはそうだな。だが民衆を動かせるのは、マスメディアを通した政治家の醜聞とか、テレビスターの派手な演出だけさ。メディアに影響力を持つことは必須だよ。

テレビスター……。こんがらがってきました……。宗形先生のお話通りだとしたら……私には何が正しくて、何が悪いことなのかもうわかりません……。

 杓子定規かつ聖人じみた円香には、この世界認識を飲み込むのは難しいようだった。これはもう性分なのだろう。

たぶん正しいも悪いもないのさ。誤解があるかもしれないから言っておくぞ。俺は、現代の金融システムという信仰は、破壊するほど悪いものかどうかと問われると、難しいところだと思う。たしかに資本主義は、人間の欲望が膨らむ姿にマッチしているし、猛スピードで経済を回転させていくためには悪魔的に優れた仕組みだ。

私が腹立たしいのは、ある種の特権階級がいるということよ。昔と違って姿が見えないだけで。

それも指摘した通り、人類の歴史はいつも大筋では一緒だ。特権階級が存在しなかった時代はない。本当にそうした状況を覆したいなら、何万発の核ミサイルを地球の隅々に打ち込んで人類を破壊することが必要だろうさ。

宗形先生は大人なせいなのか、人類の皆さまに対して冷たすぎると思います!

 円香は怒ったように、鋭く俺を見据えてきた。謝罪を繰り返してばかりだった円香とは違う、強い意思がこもっているような視線だった。

いい反論だ。自分でも、そう思ってる。

個人的なお付き合いならとっても親切で優しい宗形先生が、どうして世界を、そんな風に突き放してみてしまうんでしょうか。ちょっと悲しいです。

すっかり敗北した老兵は、社会を去ることしか考えてないのさ。ぜひとも円香くんには人類様とやらを代表して、自分の信じる正義のために革命を起こしてくれ。

私を生かしてくれている世界人類の皆さまがたのためにご奉仕するのが私の務めだと思ってます。民衆を共産主義革命に起ち上がらせる方法……私、真剣に考えます。

 それから皆に求められるまま、俺は基本的な質問に答えたり、どんな本で学べばそうした社会の基礎を押さえられるかを話して聞かせていった。30分だったはずの無礼講の時間はあっという間に過ぎ、1時間近く、なぜか俺を中心にしての質疑応答の時間になってしまった。アイドル活動に興味を持ってもらえるかどうかを探りにきたはずだったのに、結局、熱心な円香たちを前にして本題をディスカッションする機会を失してしまったのだった。

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