年上彼氏の多島くんと、私の思い出の喫茶店

7 年の差なんて……気にするでしょ!

エピソードの総文字数=1,224文字

 しばらくマスターと三人でのおしゃべりを楽しんだ後、多島くんと由希乃は喫茶店を後にした。店を出た由希乃はすっかりご満悦で、多島くんは彼女を連れてきて良かったと思った。

 数駅分、と家からずいぶん遠くまで来てしまったが、二人きりの時間を惜しんでか、由希乃は歩いて帰ることを選んだ。

 人気のない線路際の道を歩いているとき、どちらともなく手をつないでいた。
なんか、こうして手をつないでると恋人同士みたい
えっ……ち、ちがうの?
 多島くんが青くなった。
あああ、そうじゃなくって……恋人同士っぽいなあって
なんだ、びっくりした。おどかさないでくれよ。ただでさえ……俺、心配なんだから
何が?
年の差が。いつ捨てられるかと思うと、たまに眠れなくなることがある……
気にしすぎだよぉ……。それに年より見た目すごい若いし、そこまで年離れてる感じしないし。十歳差なんてわかんないよふつー
それって童顔って意味?
いやそういうアレじゃないから、違うから。それに
それに?
私、年上の人すきだから。うん、だいじょうぶ。お兄ちゃんとかなり年離れてたし
そ、そう? ……ほんとに大丈夫?
だーいじょうぶだってば。それに、こないだママが言ってたよ
なんて?
ある程度大人になったら、十歳程度の差はあんま関係なくなるからって
まあ、それはそうだけど……俺の方が先におっさんになっちゃうじゃん
だいじょうぶだよ。すぐ追いついて私もおばさんになるから
……おばさんになっても俺と一緒にいてくれるの?
え、ちがうの? 私ほかの人と結婚しないとダメ?
イヤイヤイヤイヤ、そんなことない。っていうか俺と、俺、と……
 多島くんは立ち止まった。
 何かを言いよどんでいる。
 由希乃が振り返った。
どうしたの?
――こういうのってさ、もっと、ちゃんと用意とかして……然るべき場所と然るべき時間に……その……
え? 何のこと?
 多島くんは、額を手で押さえると、くっくっく……と笑いだした。
また俺は……一人で考えすぎて……。いや、これは由希乃ちゃんが悪い
はーっ? ちょ、なに私が悪いことになってるの?
まだわかんない? 由希乃ちゃんが俺に言わせようとしてることって
ことって?
プロポーズでしょ
 由希乃はその場でちいさく跳ねると、顔を真っ赤にした。
え、え、えええ、そ、そう、そそそそそういうこと……なの?
 多島くんは腕組みをして、うんうん、とうなづいた。
そういうこと。で? 由希乃ちゃん的に、いま、ここで、そういうの、やっちゃっていいわけ? ときどき電車が真横を通過する、ただの道ばたで
よ、よよよよ、よ、よく、よくないっ!
ま、するのは確定として……今度でいいかい?
 由希乃はブンブンと全力でうなづいた。
俺だって……ちゃんと指輪ぐらいあげたいんだよ……
何か言った?
いーや。じゃ、帰ろう
うん!
 二人は、つないだ手をぶんぶんと元気よく振りながら、日の傾きかけた歩道を歩いていった。

                                   (了)

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