放蕩鬼ヂンガイオー

09「昼食は燃料だけで十分です」

エピソードの総文字数=1,844文字

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 レジャープール上空。

 ヂゲン獣コソは、つまらなそうにあぐらをかいて飛翔していた。

『ここは浴場ネ。どいつもこいつも楽しそうに……ろくな人間がいやしないワ』

 不満たらたらにあくびをする。

 この施設に魅力はないと判断し、場所を移そうと腰を上げたのだが……ふと目の端に不審な人影を見つけた。
 みなが大勢で盛り上がっている中、一人だけ輪に入れずに三角座りをしている男子である。

『あら、いいじゃなイ。あなたに決めましょウ』

 コソは音も無く気配も無く下降し、男子の背で耳を済ませた。
 男子の独り言が聞こえてくる。

「――ふん、みんな幸せそうにしやがって。…………『リア充爆発しろ』」


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「実はくまり、ヒーローが得意なわけじゃないんです。今回の任務のために、あわてて勉強したというのが本音のところでして」

 海賊衣装の店員さんたちが、忙しそうに働きまわっている。

 屋内施設にあるフードコートの一角で、燦太郎とくまりはテラス席のテーブルに陣取っていた。

 洋食系の、食欲をそそる香りが辺りに充満している。
 よそのお客さんが運んでいるオムライス、ピラフ、ハンバーグなどなど、いかにもお腹のすくメニューが目の端にちらついた。

「見栄を張っちゃいました、お恥ずかしいです。……はは、さてではこの話題はおしまいと」
「待て! 流そうとするな! それはそれとして、俺の写真を大量に所持してたこととは無関係だろうが!」
「つばを飛ばさないでください! ……か、間接キッスになっていまいます」
「ならねえよ!」
「秘匿したい情報が無闇に拡散されることの恐ろしさ、AQスタッフとして身を挺してお伝えしようと思ったのかもしれません」
「かもしれませんって何だ! 嘘をつくな嘘を!」

 あのあと。

 つまり、くまりの手帳から燦太郎の写真が出てきた、あのあと。

 問題の手帳を取り上げ、入念に中身を調べたのだが……出るわ出るわ、どうやって撮ったんだと不可解なレベルのプライベート写真が無数に発掘された。

「ほ、保護対象を調べていただけです。民間の方と接触するのは初めてですから、失礼のないようにイメージトレーニングをと」
「……俺の画像と合成して、姫荻と一緒に映ってるみたいになってたインチキ写真は?」
「ぱ、パートナーになるわけですからご迷惑をおかけしないように、一緒に歩いて恥ずかしくないしぐさやヘアスタイルをコンマミリ単位で研究しようと」
「……俺の顔写真がプリントされてる抱き枕を自慢げに構図を変えて写していたのは?」
「抵抗されたときのシミュレーションです。AQもまだまだ認知度が低いので、怪しい組織と勘違いされて暴力に走られる事例もありまして。こう、いさかいがあったと仮定して寝技をかけたり、お話したり、頭を撫でたり一緒にテレビを見たり」
「姫荻……ストーカーって言葉知ってる?」
「ちょっ、なっ、ちがっ、く、くまりっ! 別にそっ、そういうんじゃありませんからっ!」

 そこで。
 目の前のテーブルにセルフサービスのお盆がドンと置かれた。

 緑の炭酸飲料が紙コップ一杯だけ載せられている。

「AQ女、ほんとにこれだけでよかったかし? いちおう、いわれた通りにしてきたけど……」

 ヂンガイが昼食を購入してきたらしい。

 自分の分もあるらしく、空いてる席に別のお盆を置いたが、そちらにはアボカドバーガーやらキムチチャーハンやらコンビニに売ってるようなネギトロの手巻き寿司やらカップヌードルのカレー味やら欲望まる出しの献立が並べられている。

 くまりは小刻みに震えながらくちびるを噛んだ。

「かまいません……く、クマリンオーは巨大ロボットですので、昼食は燃料だけで十分です」
「いやいやいやいや!? そこまで無理しなくていいよ! 今はべつに採点とかされてないしさ! 何も負い目が無いのなら、どうしてそんな自分に罰を与えるようなことすんの!?」

 わりと驚愕の事態だと思ったのだが、ヂンガイは我関せずという感じでまた席を離れた。

「じゃ、あたしは残りを受け取ってくるのだー。おじいにも席の場所教えてくるし」
「まだ追加があるのかよ」

 ヂンガイはそそくさと離れてゆき、テーブルにはまた燦太郎とくまりだけが残された。

「……や、やっと二人きりになれましたね?」
「そういうの今いいから!」

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