フェンリル娘と始める異世界生活

11話:訓練とスペクトル現象

エピソードの総文字数=3,502文字

そうだ! いいぞ! 気を抜くなよ!
はっ!いやあ! せあああ!
二日目の昼。

シューマとガラムは協会が管理している鍛錬場に来ていた。

いくつかのフィールドがあるらしいが、借りるのにお金がかからない一番簡素なフィールドを選択した。

遠くの魔術鍛錬場からはドカンバカンとけたたましい音が響いてきてる。

たまに爆炎が立ち上ったりしている。……えっあんな規模の魔術普通にあるの?

運動神経がよくなかった(あるいは子供のころより悪くなった)シューマだったが、今は全盛期といっていいくらい自由に体が動く。

数時間に及ぶ剣の訓練もこなせるほどに。

じゃあこれくらいにするか。

すじがいいじゃないか。これならすぐにでもFランク上位にいけるよ。

Eも目じゃない。

それに、もしかしたらシューマはアレを持っている可能性がある……。

そうだ、話は変わるけど後でちょっと時間をくれないか。

(アレってなんだろう?)
そうして始まった話の内容は、シューマも聞きたかったアレ、「スペクトル現象」についてだった。
これはあまり一般には知られていないことなんだけど。

二大分類。闘技、魔術とならんで対魔物技術体系としてあげられるのが、スペクトル現象、あるいはスペクトル能力と呼ばれるものだ。


(キターーーー! 異世界名物新しい力的なサムシング! というかやっぱり闘技とか魔術とかそういうの存在するんですね僕も使いたいです!)
闘技、魔術は極論鍛錬と研鑽を重ねればいつかは習得できるものだ。

もちろんセンスや向き不向きがあるけどね。

でもスペクトル能力の場合は全くの固有技能だと思っていい。

魂の奥底に存在する「その人の才能としか呼べないもの」を開花させたものが使えると言われている。

(才能……)
才能。その言葉は今のシューマにとっては胸に痛い言葉となっている。

いくら気にしないでおこうと思っていても、周りはそうはさせない。

過去才能のあったと思われた人間は、才能を示し続けなければいつかは失望をされるものだ。

子供のころは周りの失望などどうでもよかったが、大きくなって、周りとの関係を考えると結局は自分の能力を示し続けることが生きることだと思うようになった。

シューマの場合は使えない人間だけどいないよりましというのがボーダーだったが。

そして俺はそのスペクトル能力をシューマが持っているかもしれないと睨んでいるんだ。

シューマは自分でスペクトル能力を使っている実感はある?

ん~。あんまり「使ってるっ!」って感覚は無いですね。

僕のどこのことをスペクトル能力って言ってるんですか?

(そんなのあるなら最高なんだよなぁ……)

あの、ヴァンディットウルフから逃げていたシューマの速さ、あの走り方で闘技も魔術も使った形跡がないのにあの速度だ。

それに俺達に何か干渉して速度を上げた形跡があった。

さらに、俺達の武器の切れ味も上がったいた。

加えて敵、ヴァンディットウルフも全体的に弱くなっていた。

俺はこれがすべてシューマのスペクトル能力の影響だと考えているんだ。

確かにそんなことありましたけど、それ全部が僕の行いだとはどうも実感がわかないですね。(アレ全部僕がやったのぉ?それってすごくね?)
やっぱり無自覚か。

闘技と魔術と違って、スペクトル現象は自然に使えるようになることが多いらしい。

そして使い方を人に説明するのも難しいらしい。

無意識に使える、ある意味天才の業というわけだ。

そんなのを僕が使えるかもしれないんですね?

(天才の業……いい響きだなぁ……)

ああ。そしてスペクトル能力はほぼすべてが有用なものだ。

シューマの能力も俺の見立てならかなりの応用が効くとても有用なものになりうる可能性がある。


使いこなしてみないか……?


もちろんですよ!

使えるものなら使い倒して見せます!

(良い生活ができるかもしれないし! もしかしたらモテるかもしれないし!)

30歳無能社員彼女無し=年齢の童貞のメタボ予備軍だったシューマだったが、異世界に来て若返って筋肉質になったおかげで自分を磨く意欲もわいてきた。

性欲もわいてきた。ちなみにこの体性欲がかなり強い。正直辛い。

よしっ!

じゃあまずこの木の丸太を普通に切ってくれ。

丸太ってマジで丸太なんですが……。これ絶対切れないでしょ……。
いいからいいから。
じゃあ試しに。

いやあああああああ!!

ガコッ。
鈍い音立てて丸太に数ミリ切りこみを入れるにとどまった。

それでも個人的には上々だと思うシューマ。

(こんなもんだよね)
闘技もなしならそうなるね。


じゃあ、強く、「切ってやる」、とかいっそのこと「切り殺してやる」くらいの気持ちで切ってみてくれないか?
(サツバツ!)
では失礼して。しねえええええええええ!!』
おおっ!
とたん、シューマの体からオーラのように見える靄がもやもやにじむ。



ガゴシュ!
シューマの剣は丸太の半分まで切り込んだところで止まっていた。


(ひいいいいいいいいい。びりびりするぅぅぅぅ!)
思いっきり切り込んだ衝撃がシューマに返ってくる。

スペクトル能力を使った感覚はまだ分からないが、何かが起こったのが分かる。

かなりの実感がわいた。


うんうんなかなかなかなか。

まだ確信してはいないようだけど実感はしたみたいだね。


じゃあ今度は丸太に向かって、「なんだ切れそうじゃん」とか「実は柔らかいんだな」とか強く思いながら切ってくれないか。

あ、「殺してやる」も維持したままでね。

(だいぶ要求が上がってきたのですがっ!)

いきますっ!お前みたいな柔らかい奴僕の剣で真っ二つになれえええええええ!!』

強く念じながら切りかかる。

すると自分の体と丸太に靄がかかるのを感じる。それぞれ色が違う。

自分の靄の色がオレンジのような暖色だとすると、丸太の方はブルーのような寒色だ。

この靄がスペクトル現象だろうか。

実感すると、剣の重さが感じられなくなる。

剣が軽くなったと言うよりも、剣の重さが感じられないくらい力がみなぎっているといえばいいだろうか。

教えられた切り方で思いっきり切り込む。

切られる方の丸太もなんだか豆腐でできた創作作品の丸太のように自分から思い込む。すると脳がそのとおり錯覚し始めた。

あれ、これ実は豆腐じゃね?丸太のような豆腐じゃね?


スパッ!ーーガコン……!
すると、直径30センチ位の丸太が何の抵抗もなくスパリと二つに分断された。

綺麗な切断面を見せながら地面へと滑り落ちていく。ひえええ。

おおお、おおおーーー!ーーーー!?あいたたたた!!

自分の起こした偉業に感動する間もなく、頭が絞られる痒みにも似た疼痛がにじむ。

熱いと言い換えてもいい。

長時間パソコンに向かい仕様書をひねり出しきった後の疲労しきった感覚。栄養と睡眠が足りない。

(チョコ食べたい。ぐっすり寝たい)
すごいね。大分強く出力したみたいだけど、これだけ飛躍的に能力が上昇していたら使いどころなんていくらでもあるよ。その前に出力調整は必要だけどね。

それに、もしかしたら他人にもそれが使えるかもしれないというのが大きい。

個人直接戦闘能力の上昇なら闘技で間に合う。でも闘技を使った人間にも使えるならそれは大きく意味が変わる。重ねがけができる可能性がある。

闘技を使える人間にそのスペクトル能力が使えたら環境が変わるぞ……?

まずは、ちょっとずつ使っていってなれることからだね。

スペクトル能力をもった人間を何人か育てたことがあるけど、ほとんどが「思い込む」ことが重要なんだ。

思い込む能力が上がればスペクトル能力も成長する。使いやすくもなる。と、聞いた。

毎日寝る前に瞑想することをお勧めするよ。

逆に頭の中を空っぽにするんだ。何も考えない様に。

そうしたらスペクトル能力を使う時の想いに力が乗る。らしい。これも全部受け売りなんだけどね。

ふぁい……。寝る前の日課にします……。


いろいろ絞り出したシューマは眠気に耐えながら答える。
その疲れは寝たら回復する。安心して。
明日からの鼠狩りの時にも支障がないくらいにそのスペクトル能力を使ってみてくれないか?疲れると言うのなら無理に使わなくてもいい。訓練中に使うだけでも十分成長できる。
それじゃあ最初は依頼休み訓練依頼休み訓練のローテーションで行こうか。毎日依頼するのもいいけど、訓練と交互にすることで発見が増えるからね。

俺も訓練中にはできるだけいるようにするから、気になった事があったら遠慮なく聞いてくれ。

精一杯頑張りますっ!(がんばりますっ!)
元気でよろしい。

……じゃあまた次の訓練のときに会おう。いい結果を期待しているよ。

(めざせっ!成功者!)
シューマは自分の可能性に将来の成功を夢想しながら明日の初任務に想いを馳せるのだった。

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