放蕩鬼ヂンガイオー

14「サンダー仮面! なんでもいいから格好良い単語をッ!」

エピソードの総文字数=2,207文字

「――ここで困ってる女の子を助けないやつは、男でもヒーローでもないんだよッッッ!」

 燦太郎は、ヂンガイの陰を離れて駆け出した。

『そうはさせるかイエッ!』

 一本の釘が、空中で軌跡を曲げた。
 まっすぐこちらに迫る。

 避けられない。切っ先が胸に辿りつく。

 ――本当に危険なときは、行くか行かないか自分で決めるッ!

「っらァッ!」

 燦太郎は大きく胸を張った。
 高い金属音を立て、釘が弾かれる。

 ――胸部に埋め込まれたヂグソーたちを意図的に盾に使ったのだ。

『なにィッ!?』
「雁さん、立てる!? 肩貸すから、こっちに!」

 雁に体を寄せる。
 なんとか立ち上がらせたところで、雁が弱々しく口を開いた。

「……サン、坊……貸して、くれ」
「え、何を?」
「さっ……さっきも使ってたろ、メガホン。あの子、応援されると……力になるんだよな……」
「そ、そうだけど……これ!? ええと、サンダーギアーッ!」

 燦太郎は懐から拡声器を取り出し、スイッチを入れてから雁へと手渡した。

 雁は深呼吸をする。
 呼吸に合わせて、ダークブキナイズに犯された雁の様子が少しずつ落ち着いてゆく。

 信じられない。
 雁は自らの足で立ち、腰に手を当て拡声器に声を張った。

「新人さん……いや、ヂンガイオー! 昨日はきみの立場も理解せず、驚かせてしまってすまなかった。だけど今は違う、きみがいなければ被害はもっと拡大し、かわいい娘も無事ではすまなかったかもしれない。本当に感謝している。きみがオレの家族を救ってくれた。そして今また、あれだけきみを傷つけたオレを救ってくれようとしている」

 霜の張った体を震わせる雁。
 口の端から一筋の血が流れ落ちた。

「もういいよ雁さん! ここは任せて休んでて!」
「きみは、少なくともオレのヒーローだ! 誰からも嫌われたって、オレがファン第一号になってやる! だから臆することはない、きみはきみの正義を貫くのだ。それは困難な道かもしれないが、思いは必ず皆に届く。行け! 戦え! ヂンガイオーッッッ!」

 掠れる咽を振り絞った、渾身の声援だった。

 雁の胸から淡い光が線上に伸びる。
 ヂンガイへとたどり着いた光は蒼い液体に変化し、擬似アンティークイーサ機関に注ぎ込まれた。概念血管を通じて個々のヂグソーに力が分け与えられる。

 野次馬から、今日いちばんの大歓声が上がった。

「が、ガン……っ!?」

 ヂンガイの大太刀に新たなヂグソーが続々と集まっていった。
 ガイオソードが巨大化する。槍に近い、鋭角のシルエットを持つ大剣が完成した。

 ヂンガイが吼える。

「くっ、フェイズアップ! スーパーガイオソォ――――ドッッッ!」
『な、なんだその力はイエ!?』

 ヂンガイが片手を振るい、余ったヂグソーを躍らせた。
 ヂグソー同士が無数に連結し、一条の鎖に変化する

「ヂグソーチェインッ!」

 ヂンガイの腰から、鎖が伸びた。
 鎖は飛翔しながら先端を分割、四対に数を増やす。それぞれが独自に動き、イエティを四方から囲む。 

 そして刺突。イエティを布団ごと串刺しにした。

『ぐっ、しかしこんな細っこい鎖! 我が衣を貫いたところで、痛くも痒くも無いイエ!』

 ヂンガイは大剣を構え、声を張り上げた。

「サンタロ……じゃなくて、サンダー仮面! なんでもいいから格好良い単語をッ!」

 燦太郎は一秒だけ目を閉じる。

 腕を組み、くわっと見開き、叫んだ。

「ゴッドだッ!」
「ゴッドかッ!」

 ヂンガイは身を翻して跳躍した。

 高度が最大になったところで宙返り、内股で落下、最高速でイエティに肉迫。渾身の力で斬撃。

「ファイナルヂゲンアタック――ゴッドヂゲン斬りッッッ!」
『ガァッ!?』

 刃を振り抜いたヂンガイは勢いそのままにイエティの脇を抜ける。

 しゃがみ体勢のまま剣を振り上げ、振り下ろし、横薙ぎに振り払ってもう一度打ち下ろし、特に意味は無いけど格好良い所作で納刀よろしく腰に剣を添えた。

「――――ヂゲン、エンド」

 皆、無意識に魅入っていた。

 目の前で本物のヒーローが戦っている。かつて子供のころに憧れた、テレビの中でしか会えないはずのヒーローが、今まさに目の前で活躍している。

 大通りから、路地から、ビルから、LAEの光が多数伸びてヂンガイの元へと集まった。

 イエティの身体を刺し貫いてた鎖が、急速に蒼味を増す。与えられたLAEが臨界を越え、鎖を構成していたヂグソーが次々と着火。数珠なりの爆発を無数に引き起こす。

『フオアアアアアアアアッッッ! む、ムカデクジラ様アアアアアアアアアッッッ!』

 身体を内部から爆発で吹き飛ばされたイエティは、全身を光に変えて消えていった。

 ヂンガイは、身体を傷だらけにして呆然と佇んでいた。

「……や、やった? ……やった、のか……? また、あたしが勝ったのだ!?」

 ようやく実感が湧いてきたのだろうか。
 ヂンガイは、きょろきょろ周りを見渡してから、咳払いを一つした。

 改めて、勝利の証に金棒を振り上げる。

「……ほ、放蕩鬼! ヂン! ガイ! オーッ!」

 喜び集まる群衆に囲まれ、ヂンガイは照れくさそうに笑った。

「――なのだ」
 

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