黄昏のクレイドリア

5-2

エピソードの総文字数=946文字

<宿屋1F 酒場兼食堂>
…………。
食べ進めていた手をとめ、
カノンはふと、窓の外を見やる。
(イーリアスのやつ、まさかほんとに戻っていないとはね……
 フィリカのところに行けるかどうか、
 聞きたかったのだけれど)
(魔力供給ってやつを怠ったら、
 あたしに何かペナルティでもあるかと思ったけど、
 別にないみたいだし……
 一日待って、それでも居ないなら街を出るか。
 困るのはあいつだけだし――――)
ご機嫌よう、お嬢さん
はい?
失礼するよ
突然声をかけられたかと思うと、
こちらが返事をする間もなく、
向かいの席に座られてしまった。
知らない顔の出現にとまどいながらも、
カノンは口を開いた。
えーと、どちら様で?

食事の時間を楽しむ為に

席を一時共にする事に……

果たして理由は必要かな?

はぁ……
とまぁ、挨拶はさておき……
実は君に、吉報を持ってきたんだ。
へ?
君の契約は、今夜破棄されるだろう。
明日に日の光を浴びれば、
晴れて君は自由の身というわけだ。
…………。
……どういうこと
カノンは目の前で優雅に 紅茶を啜っている男に問いかける。
待ってましたといわんばかりに、
男は弓なりに笑みを浮かべてから、雄弁に語りだした。

何、簡単な話さ。
君を脅迫した卑劣な魔術師を、
私が次の高みへと至る為に戴く というわけだ。
私は彼の血を戴いて魔術師として成長し、
君は剣士として、また自由に地を渡り歩ける。
どうだい?一石二鳥だろう?
血を戴く……ね。
"命を戴く"の間違いじゃないの?
? そこに大きな差はないだろう。
おかしなことを言うのだね、君は。
…………。
おっと、怖い顔をしないでくれたまえ。
綺麗な顔が台無しになってしまう。
とはいえ、彼がわざわざ、
自身の所属していた共同体を裏切ってまで
選んだ女性である君だ。短い時とは言え、
甘い逢瀬を重ねていたのだろうが……
別れは必ず、訪れるものなのだよ。
…………。
……言いたい事はそれだけ?
あぁ。それだけだよ。
空になったカップをわざとらしく掲げ、
魔術師の男は席を立った。
それではさようなら、お嬢さん。
君が一日でも早く、
彼の呪縛から解かれることを祈るよ。
男は消沈した様子のカノンを満足げに眺め、
軽快に靴音を立てて去っていった。
………………。
男が宿を出て行くまで、カノンは動かなかった。
テーブルの下で、拳を強く握ったまま。

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