神と大統領と弾道ミサイル(仮)

神は働かない

エピソードの総文字数=3,415文字

――tenma:

歴史上最高の知能を持つ俺が、貴様のような平民風情と肩を並べて働けるわけもないだろう。

 不動天馬は流れるようなキータッチでそう打ち込んだ。

 パソコンモニターの向こう側、ギルドハウスでにらみ合うギルメンの半蔵はすかさず反撃してくる。

――半蔵:

引き籠りのニートじゃねーかよおwwwこんなネトゲのランキング一位とか誇ってないで仕事しろやwwwwww

――tenma:

神は働かないのだ。

 天馬は少しも冗談のつもりはなかった。

 そもそも「なぜ働くのか」という理由を考えもしない相手が、決然と働かない選択をしている自分を嘲笑うのは不思議な話だ。

 しかしこの言葉に、周りを取り巻いていたギルメンらは一斉に吹き出す。

――IORI:

神は働かないwwwwwwwww名言このやろうwwwwwwwwww

――半蔵:

どこの異世界の神なんだよおwwwwwwwwwww

――今井:

さすがネット神として有名な猛者っw

――リヴ:

tenmaって今年で40歳なんでしょwww本気なら病院wwwww

 浴びせかけられる嘲笑の数々に、さしもの天馬も苛立ちはじめていた。

 たしかに天馬は一度も働いたことがない。一日に一度、近所のコンビニに出かける他は、部屋に引きこもってパソコンに向かう毎日だ。だが、それがどうしたという?

 小学生のころ、ひ弱で運動もできずテストの成績も悪く、いじめられている同級生がいた。体育のときに2人組の体操で組む相手もいなかったし、男子からはいきなり膝蹴りを喰らったり、女子からはキモい認定され敬遠されていた。だが、その同級生は小学1年のころからずっと独りぼっちだったのに、それに悪びれた様子もなく、いじけた様子すら見せないことを天馬はずっと不思議に思っていた。しかし小学6年のころ、その同級生は新聞の全国紙に、「小学生の囲碁日本チャンピオン」として掲載され、地元のテレビでは堂々とインタビューまで受け、たちまち教師たちもその生徒を持ち上げるまでになった。その同級生は、小学校を卒業するまで孤独であり続けたが、最後まで胸を張って生きていた。

 天馬はそのとき、ふと気づいたのだ。誰もが世間から認められるヒーローになれるとは限らないが、自分自身の人生の主役にはなれるのだと。スポットライトは誰かに照らされるものではない、自分自身が照らし出すものだ。

 その視点に気づいてから、天馬はすっかり周囲の見方が変わることになった。

 中学生のころは、学校の職員駐車場に、Kトラックを改造した自作キャンピングカーのようなものに時々寝泊まりしている胡散臭い中年の用務員がいた。生徒たちにはバカにされ、教師たちもあからさまに外野扱いしているような寂しい男だった。だがあるとき天馬が話してみると、その用務員は、休日にはそのKトラックで日本各地を旅して回っているのだという。そして近いうちに用務員を辞め、自分のキャンピングカーで全国を放浪しながら暮らすという夢を聞かされた。この用務員は確かに社会の基準から見ればハミ出し者には違いないが、こうしたどうしようもないヤツの物語のほうが遥かに面白いと天馬には強く感じられた。

 天馬には天馬の物語がある。自身がこの世に生を受けたのは、この世界の主人公として立つためだ。そして自分の力を推し量れば、主人公として世界を変えることすら可能であろうと天馬は自らを判断していた。

――Danz:

tenmaは素でアレすぎますwww

この前なんか「俺が本気を出せば世界中を軍事征服できる」とかマジで言ってwwww

――tenma:

ふん。クズどもには知性の片鱗もないようだな。もしこの俺が国家を統治していたならば、どのような小国であってもたちまち世界最大の軍事国家になるはずだ。俺がそれをしていないのは、まだ本気を出していないだけにすぎない。

――半蔵:

だったら本気を出してみろよwwwwwwwww

40歳の無職ニートのオッサンwwwwwwっwっwwwww

――IORI:

腹がよじれるだろこのやろうwwwwwww

世界w最大wの軍事国家wwwwwww

――tenma:

神がその気になれば、自宅の一室でも巨大な軍事国家に変貌することを思い知らせてやる。そのときは、貴様らの家にミサイルの雨が降り注ぐことだろう。明日まで待て。

――IORI:

明日!?

俺んちにミサイルが撃ち込まれるんですかこのやろうwwwwwwwww

 そこで天馬は、挨拶もせずネットゲームをログアウトした。忌々しいギルメンたちに、主人公の本気というものをわからせてやらねばならない。


 この世界の主人公は、他ならぬ自分である。でなければ、何のために生まれ、意識を持ち、こうして生きているというのか。もちろん人間は強いばかりではないから、時おり自身を否定してみたくなったり、苦しんだりすることもあるだろう。だがそれすら、主人公ならば必ず通る道である。それゆえ天馬は、自分の25年の引きこもり歴についても、広い視点でみればこれも主人公の人生の一環であると信じていた。

 実際のところ、ギルメンたちは誤解しているが、この人生は天馬が決断した通りになってきた。天馬は、自分の人生を誰にも支配させず、自分自身が選択するという道を選び取ってきたのだ。少なくとも、今まで天馬の人生の支配者は天馬だけだったし、そしてこれからも同じだ。ただの一度も失敗は証明されていない。

 これからも天馬の決断通りに世界は成立しているはずで、やはりこの世界の支配者は自分である。そして自分が支配者ならば、世界の中心は自分であるべきで、自身が神であるという公式もまた成り立つ。この世界が正しく機能しているならば、神としての舞台が自分の目の前に広がっているのは自然なことなのだ。


 天馬はさっそく無料ブログを開設し、ギルメンたちに見せるためだけに、ブログの執筆を開始した。

 ブログタイトルは、『弾道ミサイルDIY』だ。コンセプトは、家庭で作れる弾道ミサイルである。

 たったいま手書きでまとめた基盤となる設計図をスキャンし、ページトップの画像としてアップした。粗すぎる設計図ではあるが、プロがみれば正しいものだとわかるはずだ。

 続いて天馬は、この設計図を元にして、どのようなパーツを用いて開発に望めば、誰でも手軽に、小さな予算で、十分に目標を狙うことが可能な弾道ミサイルを組み上げられるかを書きだし始めた。この『弾道ミサイルDIY』のコンセプトは家庭で作れるミサイルであり、すべてのパーツは一般人でも買い揃えるものだけで構成されなくてはならない。

 だから天馬は、弾道ミサイルで使用するためのすべてのパーツについて、それらを購入するためのネットショップへのリンクを一つ一つ丁寧に書き込んでいった。すべてのコストを合算しても日本円で50万円程度の資金があれば、軍事的に有効な弾道ミサイルが一機用意できるはずだと天馬は試算した。もちろん各パーツの、ネットショップでの販売価格は上下するし、円やドルの相場も揺れ動くから、きっちり50万円というわけにはいかない。だが、その気になれば一般家庭でも弾道ミサイルを配備できるということが重要なのだ。知能が及ばないギルメンたちも、この自分の知性を前にして驚きひれ伏すことに違いないと天馬は確信していた。


 ページを書き終えたころには、時刻はすっかり夜更けになってしまっていた。ブログ『弾道ミサイルDIY』は、十分に満足する出来だった。だがそこまで書き終えたとき、肝心のミサイルに搭載する爆弾がないと、弾道ミサイルとしては片手落ちであると天馬は思い至った。そこで天馬は続いて、弾道ミサイルに搭載するための有効な弾頭についても解説しておこうと考え、別のブログを立ち上げた。

 今度は『生物化学兵器DIY』である。できれば『核兵器DIY』のほうがよかったのだが、さすがにこればかりは遠心分離器か、プルトニウムの入手なくしては成立せず、一般家庭で用意することは不可能であろう。だから妥協して、生物化学兵器で代用することにしたのだった。

 家庭での開発において目標とすべき生物化学兵器の構造についての概要解説が終わったところで、天馬はけだるくなってきた。あの愚かしいギルメンに見せるためだけに、ここまで頑張るのもバカらしい。だから残りは明日、ネットゲームにログインする前に仕上げてしまおうと決め、天馬はベッドに潜り込んだのだった。

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