佐藤茜のよもやまばなし

エピソードの総文字数=2,019文字


 ナビくんと話をしたテラススペースは海辺の近くにあったらしい。
 アテもなく歩くにはちょうどいいと、すぐそばにあった砂浜を横に眺めながら、波の音を聞きながら、海沿いの道を延々と歩いていく。
 散歩を始めたことには特に理由があるわけでもなかったけれど――強いてあげるのならば、それは得られた情報に対する自分の考えをまとめたかったから、というところだろうか。
 単調な作業を続けることは、自分を落ち着かせてくれる効果があると考えているためだった。
 この散歩を実行するにあたって懸念事項があったとすれば、それは当然ナビくんが拒否するかどうかという点にあったわけだけれど。
 彼女は特に気にした様子も見せずに、私に追従するように、後ろからついてくるだけだった。
 ……まぁ問題がないのであれば、それはそれで。
 そんなことを考えながら、周囲を見る。
 相変わらず、見知った風景をファンシーに加工したような光景に違和感を覚えなくはなかったけれど――そう思う一方で、これは夢みたいなものなのだと、そう思えば気にならなくなってくるのだから不思議なものだ。
 加えて、こうして冷静に周囲の様子を観察していると、基本的な変化の方向性については理解できるようになってくる。
 その中でももっとも大きな違いと言えば、もちろん見える風景の違い、違和感の元である。
 それが何かと言われれば、あらゆるものに角ばった部分が殆ど見えない、ということだろう。あるいは、物を構成する直線が曲線に置き換わっている、とでも言うのが適切なのかもしれないが。
 ……表現の違いは、些細なことね。
 そして同時に、私が出した結論が正しいかどうかということも、私からすれば些末なことだったりする。
 なぜなら、見えているものに対して納得できる言葉が自分の中にあればいいと、そういう話だからだ。
 それさえできれば、人間というものは大抵のことに順応できるようになるものなのだと、経験から知っているためだった。
 だから。
 そうやって自分の中に納得できるものができて、人心地がつけば――目の前にある風景も自然と受け入れられるようになり。
 また、そうして景色に慣れてくれてしまえば、あとに続くのは、無心で足を動かすだけの時間である。
 ……こういうことをするのも、存外久しぶりな気はするな。
 普段の生活を思い返せば、現実世界ではいつもせかせかと何かをしている気はしたけれど、それはそうしなければ時間が足りないからであって、それ以上の理由はない。
 しかし、その前提がなければ。
 むしろこうして、歩くという行為だけで時間を潰すというのは存外楽しく感じるものである。
 特に疲れを知らない身体なら、なおさらだろう。
 ――そのままどれくらいの時間を歩き続けていたのかは、自分ではわからなかったが。
「……?」
 耳に届く妙な音に気がついて、ふと視線を後ろに向けてみると。
 だいぶお疲れな様子に見えるナビくんの姿が見えて、少しだけ驚いてしまった。
 どうやら、似たような体質であっても個人差というものは出るらしい。
「疲れたかい? ナビくん」
 見ればわかるだろうことだったが、足を止めるついでに、確認するようにそう聞いてみた。すると、
「ええっと、その……申し訳ありません」
 彼女は少し照れた様子で、けれどもそれ以上に申し訳なさそうに表情を若干暗くしながら頭を下げてきた。
 別に謝ってもらいたいわけでも、悪いと思って欲しいわけでもない私としては、謝罪の言葉を口にされても困ってしまうだけなのだが。
 ……それを言ったところで、また謝罪の言葉が返ってくるだけだろうなぁ。
 そう考えつつ、彼女の言葉に対して曖昧に頷きを返しながら周囲に視線を巡らせると――ここからはまだ少し距離があるように見えたけど、売店らしき建物が見つかったので。 
「もう少し頑張ってくれ。ほら、あそこに売店が見えるだろう? あそこで何か買って、休憩にしよう」
 彼女を励ますつもりでそう言って、彼女の手を掴み、引っ張るようにして歩き始める。
 彼女はこちらが手を握った瞬間こそ、びくりと震えていたが。
「は、はい。ありがとうございます」
 次の瞬間には、こちらが少し驚いてしまうくらいに強い力で握り返してきて、私の横に並ぶように歩調を整えていた。
「~~♪」
 彼女の横顔を見ると、随分と楽しそうな様子が見て取れて。
 急に元気になったな、とか。こんなに楽しそうにしていると手を離しづらいな、なんて思ってしまって。
 そのまま、手を繋いだ状態で並んで歩いていくことになってしまったわけだけれど。
 この構図を他の人が見ると、どう捉えるんだろうなぁという疑問がふと頭に浮かび、
 ……せめて姉妹くらいに見えればいいけどね。
 体型の差というものを改めて思い知る羽目になって、思わず口から溜め息が漏れていた。

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