フェンリル娘と始める異世界生活

都市案内

エピソードの総文字数=3,426文字

ほへー!
騎士さんたちのおかげですんなりと都市の中へ入れたシューマ。

目の前に現れた光景にバカっぽい声が漏れた。

(ガヤガヤ)
(ガヤガヤ)
たくさんの人々が、通りを行き交っている。

門の前だと言うのに、露店が所狭しと開いており、行き交う人々がひやかしたり、お目当てのものを購入したりしている。

たまに見る外国の露店のようなものに近い。

肉の塊がぶら下がり、山のような果物がつまれ、香ばしい匂いもどこからか漂ってくる。

年季の入った民族衣装のような服が数多ぶら下がっていたり、きらりと光る装飾品を並べている店もある。

TVでも見ないのは武器だろう剣や鎧、盾を並べている露店だ。

ある種異様なそれは、他と比べてとても売れそうな感じはしなかったが、その店の前には鎧や剣を持った人が真剣な顔で物色していた。


よく見てみるとたくさんの人々、一般人らしき人々の中に鎧や剣を帯びた人も混ざっているのに気づいた。

割合としては1割。普通に考えて多い。



剣とか鎧をまとった人が多いんですね?
ここはガラムさんに率直に聞いてみる
こういうのも初めてかい?シューマ。

これは門前市だね。

シューマが言っているのはたぶん「開拓者」だね。

門前は都市の外に出て「開拓」を行う開拓者や遠くの都市から行商にやってきた商人がまず通るところだから疲れや垢を落とそうと散財してくれるんだ。

それを見越して露店を開いている人たちが増えたんだ。

今じゃあ門前市は都市にとってもなくてはならない存在さ。


……シューマ。もしかしてだけど開拓者もしらない?

あはは。都市を守る存在とかですかね?へへへ……。
居心地が悪く愛想笑いでごまかしてしまうシューマ。
まあ、確かに開拓者はいろんなことをするから一体何をしている人たちなのか聞かれてはっきり言えなかったりするかもね。


開拓者の主な活動はその名の通り「開拓」だ。

都市の外は危険だ。シューマもいやというほど感じただろう?

人間は「王」の作られた結界の中という培養された空間でしか安心して生きられないんだよ。

「都市」は特別「王の結界」が強い。だから都市の中に強力な魔物は産まれない。

でもそれじゃあ、いつまでたっても窮屈な都市の中に縮こまったままだ。

そこで「開拓者」が四方八方に開拓、魔物の巣を潰しに行くんだ。

巣の中には主がいる。その巣を形成している大本だ。

その主を倒すと巣は崩壊する。

するとそこにも王の結界が浸透していく。

そして建築魔術師の土嚢魔術で潰した巣の周りに城の外壁を急造するんだ。

そうして都市は年輪のように広がっていく。

人類の生存圏が広がっていくんだよ。

もちろん弊害もある。

結界がまだ薄い分魔物が発生しやすいんだ。

それを管理、殲滅するのも開拓者のやることだ。


他にもたくさんやることやれることがたくさんある。

シューマも自分がやれそうなことを探していって欲しい。

頑張ります!
(知らない言葉もたくさん出てきたけどちょっとずつ聞いていこう。

まずは収穫。開拓者は魔物をたおすのが主な業務なのかな? だったら半年位は訓練でお茶を濁したいな)

生き物を殺す。

簡単に言うが、その心理的圧迫感は半端ないものを感じる。

蚊や虫を殺すまではできる。

だが犬や猫をそう簡単に殺せるだろうか。

蛙やヤモリ、蛇であっても殺すことに罪悪感が沸いてしまうだろうに。

剣を使えば敵は切り裂かれる。

そうすれば内蔵が出る。

あのとき、大分内臓を見てしまったが、正直二度と見たくないものだった。

でも殺さないと僕の方が死んじゃうんだろうなぁ……。
シューマは将来の不安をぼそりとこぼした。
殺すことは仕方がない。

でも魔物は死体がそのまま残るわけじゃない。

数秒間したら結晶を残して霧散するんだ。

シューマも見ただろう?

そうなのだ。

騎士さん達が倒したヴァンディットウルフは内臓と脳みそをこぼしながら地面の染みを作っていると、数秒後。

黒い煙となってあたりに拡散したのだ。

そして残ったのは小さな結晶。ビー玉のようなきらきらした粒だった。

それが騎士さんたちの胸元までスーッと動き、ちゅぽんと吸い込まれていった。

余りに現実離れした風景にあっけにとられたものだ。

(ゲームでよくある敵を倒したら勝手に吸収される経験値ボールみたいだなんて思ったっけ。その通りって聞いて驚いたけど)
そう。この世界は肉体、精神、技術、技能、能力?の他に魂の力というのが存在するらしい。そして魔物はこの魂の力の元を持っているという。

人が魔物を倒したら取り残されるその魂の力は行き場を失い、戦闘の経験により魂の容量が増えた?人間の隙間に吸収されるという。

要は経験値システムに似た何かだ。

死体がなくなるんだから厳密には殺したことにはならないかもしれない。魔物はどこかに帰っただけかもしれない。

そうごまかしながらなんとか殺していってる開拓者もいるという。

シューマもそうなるかもしれない。早々に慣れてそうならないかもしれない。

やってみないと分からない。

露店を見て回るのもいいが、まずは手続きをすませよう。

なに、明日も時間があるから大丈夫さ。

はいっ!
返事を元気よくすることだけは会社で教え込まれた。その癖は異世界に来ても抜けないものだ。

そのあと、住民登録をしに行って何故かすでに済んでいたり、本人確認のための登録が青白い紙に血を垂らす血液登録だったりした。

次に大きな倉庫のような「預けどころウルルン出張所」(変な店の名前だ)に金貨を8枚預けた。(なんと世界各地のどこのウルルン出張所からでも物と金が取り出せるらしい)

そしてこれから長く借りるつもりの宿屋「ラックラビットの尻尾亭」についた(わりと大きく、すみずみまで掃除が行き届き綺麗だった)



ガラムさんが言うにはある程度良いところの宿をとらないとひどいことになるそうだ。とくに素人丸出しの僕だったら、いちころらしい。異世界こわい。

なんだかガラムさん珍しいじゃないか!

この子は?

お久しぶりですオヤジさん。

彼はシューマ。

俺は後見人になることになった新人さ。


へぇえ!あんたが面倒をみるなら将来有望だな!歓迎するぞ!

シューマ!

カウンターの奥にいる彼はどうやらラックラビットのしっぽ亭の主人のようだ。

雰囲気が柔らかい。緊張していた分ちょっと安心した。

それで?その子は開拓者にするのか?騎士団員にするのか?
開拓者にする。騎士団にはもったいない。
そんなにか……!?
ああ。俺は新しい都市の戦力になると期待している。
(キリッ!)
何故そんなに期待されているのかしれないが、あのとき異常に速く走れたことが地味に自信になっているシューマはもしかしたら自分には隠れた才能があるのではないかと夢想していた。
あんたはそこまで言うんだ。シューマ。この都市の安全のため頑張ってくれ。
はいっ!
おおう。元気いいな。活気があっていいなあ若者は。
ですね。
ふたりはフフフと笑いあう。

シューマは自分30なんすけどぉ!と叫びたかったが叫ばなかった。

じゃあ、シューマはこの宿で過ごしてくれ。

必要なものは明日、買い物をしたらいい。武器と軽鎧もその時買おう。

俺も明日はシューマにつくことにする。

開拓者登録もしないといけないからな。

最初にする「開拓」は簡単なことだから安心するといい。

わかりました。よろしくお願いします!
そのあとはシチューとパンとサラダと果物といった夕食(普通にうまかった)を食べ、部屋に備え付けてあったバスタブ(!)でシャワーを浴びた。

どうやってお湯出してるんだろう。結構文明が発達しているのを感じながら堪能するシューマだった。

そして一人では大きいくらいのベッドに倒れ込んだ。

はああああ。

なんか怒涛のようにここまで来ちゃったけど、たぶん明日からも怒涛の展開なんだろうな。

こういうのは最初が肝心。疲労でつぶれない様に長いこと寝なきゃ。10時間ほど。

部屋の内装をみてエキゾチックに浸ることしかなかったシューマは襲いかかる疲労と睡魔に身をゆだねることにした。
パージ!

シャワー後パンツ一丁だったシューマは最後の砦すら放棄し解放した。

全裸になったシューマはシーツを蹴飛ばしてベッドに寝っ転がり大の字になり完ぺきな自然体を表現した。

異世界初めての夜は初夏のように暑かった。汗でべとべとの服なんか着ていられなかった。

シューマは安全上窓を開けることもできず、締め切った部屋で蒸し焼きにされながら全裸で眠りに入った。

それは異世界に対して自分の好きに振る舞い、精一杯の抵抗をしようともがいている男の姿だった。

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