神さまとクソゲーと説明書

一、これだから最近のゆとりどもは

エピソードの総文字数=2,690文字

「うぅーむ……」

 俺がモニター画面を前に頭を抱えて唸っていると、廊下からドシドシと大股で歩く足音が聞こえてきた。どんどん俺の部屋に近付いてくる。まあそろそろ来るだろうなとは思っていた。

「ちょっとキミィィ~~、見給えよこれを!」

 俺のオフィスに入り込むや否や、上司が手にした書類の束を机に叩きつけた。ちらっ、と視線を落とすと、「嘆き」や「神への祈り」などの文字が目に飛び込んでくる。俺はすぐに視線を外して、とりあえずスッ恍けることにした。

「ええっと……これは……」

「これは……じゃないよキミィイ!! キミの運営している『人生』がクソゲーだって、プレイヤーから苦情が殺到してるんだよ!!」

上司がヒステリックに叫ぶ中、俺はこっそりとモニターの電源をオフにした。なぜって、まさに俺も運営に寄せられた苦情の一覧に目を通していたからだ。プレイヤーどもから俺たち運営への苦情は毎日山のように届いている。

俺はスッ惚けて首を捻りながら上司の差し出した苦情の束を受け取り、斜め読みした。そこにはいつもの見慣れた文言が並んでいた。

「神よ、私には分かりません。なぜ、真面目に生きている人たちが不幸になり、悪行三昧する者たちが富み栄えているのか」

「自分が何のために生まれてきたのか分からない。私には為すべき事が何もない」

「金持ちの家に生まれる者がいる。容姿の麗しい者がいる。生まれた時から差を付けられている」

「真面目に努力してきたのに大地震が私から全てを奪った。神よ、私が何をしたというのですか!」

プレイヤーたちから寄せられる苦情はいつもこんな感じだ。ここ五万年ほど、俺は何度も似たような苦情ばかり目を通してきたのだ。

課長が苦情の束を指差しながら、耳障りな高音で叫んだ。

「とにかくね! 一番多い苦情は、キミのゲームが分かりづらいってことなのよ! ボクもちょっとプレイしてみたんだけどね!」

「何が面白いのか、ぜんっぜん分かんなかったよ! 何がゴールなのかも分かんないし、どうすれば勝てるのかも分からないし! 何をするゲームなのかすら分かんないよ、こんなものゲームと言えないよ!」

 俺は蔑みを通り越して、憐れみの眼差しを上司へと向けた。そんな旧態依然としたことをいつまでも言ってるから、この老害には革新的で先鋭的なゲームデザインができないのだ。

俺の作ったゲーム「人生」は、かつてない自由度の高さと、斬新なゲーム体験を提供する俺の最新作だ。

社内で企画が通ったのは四十六億年前。企画者でありプロデューサーであった俺は直ちにデータセンターに連絡して「地球」サーバーをレンタルした。種族「アウストラロピテクス」や種族「ネアンデルタール人」でのβテストを経た後(βテストにご参加頂いた皆さんありがとうございます)、満を持して種族「ホモ・サピエンス」を実装。約二十五万年前に正式稼働し、それから紆余曲折を経ながらもプレイヤー人口を着実に増やしてきたのだった。

だが、ここ最近、五万年ほど前から、先の「嘆き」や「祈り」などの苦情が急に増え始めてきたのだ。

俺に対し、部長が高圧的に言い放った。

「とにかくね! もっとゲームを分かりやすくしなさいよ!! ゴールをきっちり決めて、勝利条件をはっきりさせて、何を努力して何を楽しむゲームなのか、プレイヤーに分かるように説明しなきゃダメだよ、キミ!」

「お言葉ですが、部長」

俺は唾を吐き捨てたい気持ちをグッと押さえて、クソ上司に抗弁した。

「四十六億年前にも企画会議でプレゼンした通り、本作のウリは高い自由度です。ゲームの勝利条件を探るところから既にゲームは始まってまして……」

「だからそれがダメなんだってば、キミィ! 見なさいよ、この苦情の山を! とにかく、ゴールは分かりやすく、ハッキリ! ゲーム製作の基礎だよ、基礎! 分かってる!?」

老害上司の無理解に俺は心の中で舌打ちをした。何が基礎だ。そういう常識に囚われているから、今の神業界では本当に斬新なゲームが生み出せないのだ。このクソ課長も百三十億年ほど前に「銀河系」というゲームを作って小ヒットさせたが(俺の「人生」に比べれば他愛のないゲームだ)、それっきりロクなヒット作を作れていない。

「後ね、ゲームルール! これも、もっときちんと伝えないと。ほら、プレイヤーみんな困ってるでしょ」

「いや、最近のプレイヤーはスッカリゆとりなんですよ……。昔のゲーマーたちは自分でゲームルールを見つけて、攻略法だって編み出してたんですけどね……」

俺はそう反論したが、しかし、実際この問題には俺も困っていた。昔のプレイヤーは頑張っていた。自力で火を熾す方法を発見したり、マンモスを倒したりしていた。なのに最近のプレイヤーにはゲームを楽しむ才能が全く無い。ちょっと分からないことがあったり詰まったりするとすぐに攻略本に頼ろうとするし、困ったことがあるとろくに考えもせずにゲームのせいにしてクソゲークソゲーと連呼するのだ。とんでもないゆとりどもだ。

「プレイヤーの質が変わったんなら仕方ないでしょ! ちゃんと説明しなさい!」

「えええぇ……。それじゃせっかくの自由度が……何も分からないところから頑張るのがゲームの醍醐味で……ひいてはプレイヤーの楽しみを奪うことにもなりかねず……」

「あー……もういいから、そういうの!」

クソ上司はやれやれと言った素振りを見せて、それからとんでもないことを言い出したのだ。

「よし、じゃあキミ、説明書を作ろうか」

「は?」

おいおいおい、何言ってやがる、このクソ老害。

「ゲームの目的から基礎的なプレイングまでしっかり説明するんですよ!」

「え、ええぇぇえ……」

じ、自由度という言葉を知らんのか……。それを見つけるところからゲームだと言ってるのに、ダメだ、全然伝わってない。思考が百三十億年前からコチコチに固まってやがる。

「あ、あのう。お言葉ですが、最近のゲームは説明書なんて作らないんですよ……。プレイしてるうちに何となくゲームルールを覚えられるのが良質なゲームとされていて……」

「キミのゲームはなんとなくやっても分からないから、こんなに苦情が来てるんでしょ! 御託はいいからさっさと説明書を作りなさいよ!」

「ええぇ……」

かくして、俺はクソ上司に見張られながら、俺の最高傑作ゲーム「人生」の説明書を書かされることになったのである。ああ、くそったれ! なんでこんなことになっちまった! 折角の俺の珠玉のゲームデザインが!

ちくしょう! 俺のゲームをクソゲー呼ばわりしてきたお前らプレイヤーのせいだかんな! 全部お前らのせいだかんな!!

(続く)

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