放蕩鬼ヂンガイオー

05「あだじ、生まれで初めで、」

エピソードの総文字数=3,014文字

 見られている。
 眼下に広がる秋葉原から、カメラのパシャパシャ音が無数に聞こえてくる。

「やめて! 俺を見ないで!」

 燦太郎は浮遊感と羞恥心にあらがいながら、なんとか両手両脚を動かして自分の顔を隠した。

 顔バレも怖いが、敵の怪人(?)だって放っておいてくれるわけではない。

『なにをこそこそしているのだ人間。部外者とはいえ、この我と対峙するにあたり騎士道を軽視する行為は見逃すわけにはいかんぞ』
「うるせえ、そんな格好で偉そうに! そっちこそ、なんで騎士様がわけわからんイチゴぶらさげてんだよ! ヘンタイ怪人!」
『ンギッ! ぎざまあッ! このアイススカル……もといラブリーアイスベリーを馬鹿にしたな!? もう許さんぞ! この我の真の力、その目に刻むがいい!』

 あごが外れる勢いで叫び、怒りをあらわにするシシドクロ。

『人間どもの絶望に、我が内なるダークLAEを足し加えよう! 絶大零度ブキナイズッ!』

 両腕を広げたシシドクロだが、その背後から真っ黒なもやが噴出して本人にまとわりついた。

 筋肉は隆起し、瞳は赤く輝き、コスチュームもおどろおどろしいドクロモチーフの異形に姿を変える。
 先ほどまでの茶番とは異なる、真に怖気を感じさせる風体であった。

『……これぞ我らヂゲン獣の誇る最終奥義。人間から力を奪うダークブキナイズに加え、もとより我々自身の持つ負の心を重ね合わせることで力を増幅することが出来るのだ』

 本気、出させちゃた。

 見るからに強そうになっているが、もとよりこちらはヂンガイに頼るしかない。

「ぢ、ヂンガイ! みんな見てるぞ! クライマックス盛り上げようぜ! 格好つけるとか、名乗りを上げるとか、燃えてもらうやり方あるだろ!」
「……」

 ヂンガイは無言だった。こちらに後頭部を向けているので表情はうかがえない。

 だが、その周りに浮かぶヂグソーたちはどんどん蒼みを増していた。
 わざわざ行動なんてするまでもなく、いくばくかの『燃え』が集まり始めてしまっているのだろう。

 燦太郎は、自分のポケットが振動していることに気がついた。

 空中遊泳でスマホを取り出す。
 やばい、ニュースサイトだかつぶやきだかスタンプだか、種々もろもろのネットワークでヂンガイの情報が急速に広まっている。

 シシドクロがいかにもな悪役スタイルに変化したのも功を奏したのだろうか、悪のライオン怪人と戦うヂンガイを正義の味方として応援するようなコメントが散見された。

「そ。蒼炎号第二フェイズ……巡航態勢(クルージング)!」

 ヂンガイを包む装甲の各部に、蒼い光のラインが浮かび上がる。

「……さ、サンタローっっっ!」

 振り返ったヂンガイの目には、涙があふれていた。
 えづきながら「あだじ、生まれで初めで、第二ふぇいず、にっ、なれたっ」などと感激している。
 うんうんそれは良かったねと胸をなでおろす燦太郎だったが、さっきからなんだかスマホの振動が止まらない。

 嫌な予感を浮かべつつ、薄目でスマホの画面を確認する。

 完全に大騒ぎになっていた。特ダネである、大事件である、祭りである。
 薄目のまま視線を下界にずらす。

 人だかりが尋常じゃない。うじゃうじゃと集まる野次馬に加えて、警察官らしき制服姿の人物、コスプレ喫茶のメイドさんたちなど、想定以上の住民が続々と集結している。

 それぞれの人の胸から淡白い光が一条の線となって空へと伸び、その軌跡をたどると全てがヂンガイの背中へと向かっていた。

 ヂンガイの背中には、他とは明らかにデザイン思想の異なるバックパック状の装置が担がれていた。その中心に……心臓のような生々しい肉色の機械が据えられている。

 人々から伸びた光線は心臓に届く寸前で色を変え質を変え、真っ蒼な液体に変化して装置へと流れ込んでいた。

 心臓が大きく脈動する。

 うわあ、このグロさは確かに嫌われる文化もあるだろうなあとヂンガイの過去をしのんでいると、下界から歓声が上がってきた。
 格好いいだのダークヒーローだのメカ美少女大好きだの日本ハジマタだの幼女キターだの好き勝手な言葉が聞こえてくる。

 燦太郎が両手に力を込めて顔バレの防御を強化していると、目の前のヂンガイからブギャンとすごい音がした。

「ふわっ!?」

 見る見るうちにヂンガイの姿が変わっていく。

 装備の一部がスライドし、新たに生まれたスリットから放熱フィンが伸びる。
 後頭部に積んだ兜が開放され、内側から人工的な色味の蒼い炎な噴出した。
 長い髪もしくはマントを髣髴とさせる動きで風に舞う。

「え、ちょっと……第三フェイズ戦斗態勢(フリースタイル)……さらに第四フェイズ絢爛態勢(ジェットセット)……ええーッッッ!? まだ止まらないし! なにこの世界!?」

 多数のヂグソーが縦横無尽に結合し、巨大な剣を形作った。
 多数のヂグソーが千変万化に結合し、巨大な銃を形作った。
 ヂンガイの背中から光の翼が生えて、アキハバラの夜空に大きく羽ばたいた。

 その他もろもろ、ヂンガイを囲うように無数の武装が浮かんでいた。

「そ、蒼炎号…………最終第五フェイズ鬼様態勢(ヂオーガ)に移行完了……」

 今ごろ事態を理解したのか、ヂンガイが青ざめて唇を震えさせていた。

『ほ、放蕩鬼よ。……なん、だ、それは……』

 もっと青ざめているのはシシドクロだった。

『第三を越えるフェイズなど聞いたこともないぞ! どうやって人間共を騙くらかしたッ!』

 シシドクロがステッキを振り上げ、闇のハートエネルギーを放射する。
 避ける間もなくヂンガイに直撃、氷混じりの爆炎が吹き荒れた。

『フハ、フハハハハ! ……どうだ、フェイズが高かろうが中身が彼奴めではこの程度だ! 絶大零度ブキナイズを遂げた我が力の前では無力に過ぎたな!』
「――――うるさいし」

 煙幕が晴れる。霧を裂くようにしてヂンガイの全身像が現れる。
 月明かりを無闇に反射した装甲には、傷一つつけられていなかった。

 シシドクロの表情が驚愕に変わる。

『馬鹿な、全力の一撃だぞッ!?』
「よ、よし! いい流れだ! ヂンガイ、格好良く決めてやれ!」

 と促すが、返事がない。

 見るとヂンガイは、前髪で表情を隠してくつくつと笑っていた。 

「よっくも、いままでバカにしてくれたなぁ……」
「え? あの、ヂンガイさん?」
「邪魔すんなし古代人!」
「あんだとコラ!?」

 ヂンガイが顔を上げた。
 その目は笑いに染まっていたが、正義というにはちょっとニュアンスが違うような気がした。

「ヂゲン獣なんか大ッ嫌いだしッ! 砕け散るえええええええええええぇ――――ッッッ!」

 閃光が弾けた。ヂンガイがどの武器をどう使ったのかすらわからない。
 溢れ出る光の奔流に巻き込まれ、シシドクロが吹き飛んでいく姿だけなんとか視界におさめた。

『た、大帝ムカデクジラ様ァァァ――――――ッッッ!』

 その身をホロホロと崩してゆくシシドクロ。
 最後まで見ていたい気もしたが、輝きが目くらましになっているうちに、燦太郎は宙を泳いでヂンガイの手を引いた。

「今のうちにずらかるぞ! 店ん中来い!」

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