放蕩鬼ヂンガイオー

13「困ってる女の子を助けないやつは、」

エピソードの総文字数=1,304文字

「な、なにあれ! 攻撃が通じないのだ!」
「厄介だな。貫通させるにはLAEが足りてないし、今すぐ大量に集める方法も思いつかない。あれだと、隙間から攻撃するか、それともひっくり返して腹を狙うか……」

 と、イエティを観察していた視界を金属が埋めた。

「え?」

 風を切る音が後頭部に抜けていく。

 イエティの放った日本刀が燦太郎の耳を掠めたらしい。
 手を当てると、温かい血がたっぷりと滴っていた。

 ――『ヂゲン獣と戦う以上、いつかは本当の危険が迫ることがある』。

「くっ!」

 妙な恐怖を感じてしまい、あわてて手を払った。
 ダメだだめだ、下手に考えるな。ここはもう戦場なんだぞ。

 逡巡していると、先にイエティが次の動きを見せた。

『たわいも無い! その程度の力量ならば、強引に押し潰してくれるイエ! この我輩の真の力、その目に刻むがいい!』

 あごが外れる勢いで叫び、怒りをあらわにするドクターイエティ。

『人間どもの絶望に、我輩の内なるダークLAEを足し加えよう! 絶大零度ブキナイズッ!』

 両腕を広げたイエティだが、その背後から真っ黒なもやが噴出して本人にまとわりついた。

 改めて剣山の形態を取るが、更に数を増やした日本刀は歪に形を変えて巨大化し、異形の釘の姿となった。
 布団も黒い幕のようなものに変化したようだが、釘の数が多くてほとんど判別不能である。

 イエティが全身を振るうのに合わせて、釘が飛ぶ。

『もっともーっと、働きたくないでござるウウウーッッッ!』
「た、対策を考えるッ! 今度は避けていい、LAEを無駄に消費するなッ!」
「わかったのだ…………あッ!? や、ちょっと待って!」

 ヂンガイが立ち止まり、金棒を構えた。
 猛威を振るう釘の嵐に真っ向から立ち向かう。

「たあああああああああああああッッッ!」

 端から順に切り落とす。
 先程と似た構図だが、釘の数が多い。

 打ち漏らした釘が跳ね、ヂンガイの手足を掠めてゆく。鮮血が舞う。

 逆に大太刀は釘を弾くたびに、その鮮烈な蒼味をどんどん失っていった。

「なにやってんだ、おまえ!」
「い、今どいたら! うしろッ!」

 ヂンガイの視線を辿る。

 そこにはダークブキナイズに苦しみうずくまる、雁の姿があった。

「ガンがやられちゃったら、もういくらが食べられないし!」
「そっちかよ!」

 とはいえ、にわかには信じられない行動だった。

 あのヂンガイが、率先してひとを助けようとしている。

 仮に本気でいくらのためだったとしても、それでも今までからでは考えられない進歩だった。

「くッ!」

 覚悟が決まった気がする。

 ヂンガイのやる気を疑うなんて大間違いだった。こいつだって頑張って成長してる。自分も、本当に役に立てるのかどうかなんて悩んでいる場合じゃない。

 だったら。
 
 だったら、今こそ自分の意思で、協力してやらなきゃ駄目だろ。

「――困ってる女の子を助けないやつは、男でもヒーローでもないんだよッッッ!」

 燦太郎はヂンガイの陰を離れて駆け出した。

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