黄昏のクレイドリア

10-3

エピソードの総文字数=1,034文字

どうして
手を差し出すんだ?
へ?
いや、この話の流れだし、
てっきり血が欲しいんじゃ
ないかって思ったんだけど……。
いや……、
手は……痛みを一番感じやすい。
身体の部位のうちで扱う回数が多く、
目につく機会も多い。
……おすすめしない。
……じゃあ一体
何処ならいいわけ
首だな
……首が一番
魔力が溶け込み始めたばかりの、
血が流れている部位なんだ。
手よりも早く、供給を終えられる。
えぇ……
どれくらい違うの?
手は5分、首は10秒程度だな
う~~~~~~~~ん
何故渋る?
あんたも拘束時間は
短いほうがいいだろう。
そういう問題じゃ……
いや、もういいわ……。
どうせ契約で逆らえないうえに
今回は自ら名乗り出たのだ。
カノンは半ばヤケになりながら、
上着を肩まで下ろし、
首筋を露わにした。
お言葉通り、
さっさと済ませて
もらおうじゃない
わかった。
イーリアスは短く返事をすると、
カノンの背後へ回った。
(はーん、なるほどね。
 確かに後ろからなら
 お互い顔も合わせないし、
 あまり気まずくは――――)

――――ッ!!
悪寒。

身体を蝕む感覚を覚えるほどの
どす黒い悪寒が、
カノンの背中から走った。
(……っ、何、これ、
 これが…魔力供給の感覚――?!)
暗さを纏う悪寒は、
カノンの視界をも覆い始める。
己を失わないよう、必死で思考を巡らせた。
(…………。)
(いや、違う。)
どうして忘れていたのだろう――――
(そうだ、これは――――)





カノン!!
!!
呼びかけによって我に返ると、
視界は暗闇ではなく、
夕焼けの色に溶ける
元居た中庭を映していた。

既に魔力供給を
終えたであろうイーリアスが、
カノンの眼前にかざしていた
手を下ろす。

……顔色が悪いぞ。
あ…………
言葉に促され、
カノンは自身の頬に触れる。
いつの間にか冷や汗が
多量に浮かび、そのせいか、
ひどく冷たくなっていた。
(今のは…………
 もしかして2年前の……)
…………。
いくら俺に魔力が必要とはいえ、
あんたが倒れたら意味が無い。
……無理はしなくていい。
いや、多分次からは大丈夫。
イーリアスのせいじゃないから
気にしなくていいわ。
…古傷の類か
…………。
……ま、
昔、ちょっとね。
…………。
カノンが立ち上がったのを皮切りに、
二人は言葉を発することなく、
自然とリーン邸へ戻っていった。





------------------
……暫く忘れてたけど、
やっぱり嫌な記憶ほど、
忘れないものね。
個室に戻り、カノンは
汗で湿った上着を
無造作に放リ投げる。

部屋に置かれた姿見は、
カノンの背中に残された、
縦長の刀傷を映していた。

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