黄昏のクレイドリア

0-5

エピソードの総文字数=2,252文字

……ははっ、

炎が起こした爆発によって

爆風が吹き荒れる中、

ネイトは高らかに声をあげ始めた。

ふっはははははッ!!

君たちが燃えてもぼくは燃えない!

ぼくはすごいんだ!!

眼前を腕で覆いながら、
爆発した地点へと言葉を投げかける。
そして、焼却されたであろう
かつての人影を見るために、
男は煙の中へ目を凝らす。
ん…………?






そこには、先ほどまで纏っていなかったはずの

白の衣をなびかせながら、

依然として佇むカノンの姿があった。

…………。
なッ……、そんな馬鹿な……!!
!!
呆けている間に、男は
カノンに一太刀浴びせられていた。
急速に体外へ流れ始める血によって、
身体の制御が聞かなくなったネイトは、
膝から崩れ落ちた。
あんたは想像していなかったでしょうね。

卓越した魔力も持たない、
ただの剣士に
斬り殺されるなんて。

床に伏したネイトを見下ろしながら、
剣の血を払い落とす。
スケープゴートは術者が

想定した死しか押し付けられない。

あんたの負けよ。

…………。
さてと、
しゃがみこんでネイトの首から
ペンダントを外して懐にしまう。
炎の残る部屋を尻目に
動けないままのユーリを見ると、
カノンは彼を肩へと担いだ。
なっ、何をする、

降ろせ!

あー、まったく。

口だけはまわる奴ね。

あんたもレイモンド卿みたいに

気を利かせてくれれば

こんな綱渡りしなくて済んだのに、

文句ばっかり言わないでよね。

肩をぐるぐると回しながら、
部屋を後にするつもりか、
カノンは歩みを進める。
ま、待て!
まだ隊長は戻ってないだろう?!
あたしが依頼されたのは、
ネイトを黙らせること。
後片付けはあんた達の仕事でしょ。
お、おい、

出口はそっちじゃ

落としても恨まないでよ
は?!
ユーリが言葉を理解できないまま

素っ頓狂な返事をしているうちに、

カノンは爆発でがら空きになった窓へと走り出していた。 





そして、気が付けば

ユーリは抱えられたまま宙にいた。

~~~~~~!!?
声にならない声をあげながら、
内臓がひっくり返るような
奇妙な感覚を味わい、
眼前に近づく花園を凝視する。
――――ッ!!
地に落ちる寸前、不可視の風の塊が、

ふんわりと二人を受け止める。

それも束の間、形を崩した突風は

花びらを舞わせながら両者を転げさせた。

おわっ?!
あだっ
ユーリ! カノン殿!!
既に屋敷から脱出していたのか、

レイモンドが二人の下へ駆けてくると、

動きに精彩を欠いているユーリへ肩を貸した。

えっ、隊長いつのまに……
さぁ、早く馬車に!

興奮した馬をいなしながら、

3人は馬車に乗り込み、

燃え盛る屋敷を尻目に馬を走らせる。

…………。
屋敷から離れ、開けた敷地から段々と
木々が増えて視界が悪くなっていく中、
カノンは炎が庭へと燃え広がっていくのを
確認して、目をそらした。



***


<数日後、ライザー邸跡 敷地内>


かつての邸宅の面影もなく、

黒の残骸と成り果てたものが転がる地で、

男たちは煤けた瓦礫をかき分け、

各々の作業に追われていた。

…………。

どうしたユーリ。

手が止まっているぞ。

あっ、た、隊長!

すみません

構わん。丁度休憩を

呼び掛けていたところだ。

……随分と上の空だったようだが。

…………。

なんだか、実感がなくて

…………。

ユーリは考えあぐねる様子で、

視線を再び地に落とす。

次に続く言葉を発するまで、暫しの間があった。

ダン、ジェローム、モーリス。


3人の同期が死んでしまったことだって

まだおれの中で現実味がなかったのに、

ネイトと対峙した日の事は、

もっと曖昧で……夢のようなんです。

おれは薬を盛られて、

あのとき炎に包まれて……

体験したことのない熱を感じて、

もう駄目だと思ったんです。


それでもおれは生きていて、

あの時存在した屋敷は焼け落ちているのに、

今もこうして立っている……。

ふむ、

……すみません、なんだか、

うまく言えないです。

でも……

それがあの女……いや、

ルアルディ殿のおかげだって

ことだけはわかるんです。


そしておれは……3人の分も、

胸を張って生きていかなければならないと。

……そうだな。

だから……もし再び、

ルアルディ殿に会う機会があったら、

おれも作戦に加えてください。

今度はきちんと、礼が言いたいんです。

わかった。覚えておこう。

しかし……

それならユーリは……

気が抜けるとすぐに

口調が砕けるところをなおさないとな。

他の隊長は厳しいぞ。

あっ……、

し、失礼いたしました!

間を取るために再び作業に取り掛かろうとする

ユーリをレイモンドが諫める。

呑気な一幕に、その場にいる騎士たちから、

自然と笑い声があがった。



一時の平和を祝福するように、

敷地内に置かれた手向けの花が、

風に揺られていた。








<リーン邸 応接室>
…………。

あらあらカノン。

私のお庭をじーっと見つめて、

どうしたんです?

フィリカ。いや……

窓を通して眺めていた中庭から視線を外し、

カノンは逡巡してから口を開いた。

……フィリカの中庭も綺麗だけど、

ネイトの花園も、綺麗だったのになって。

カノン…………。

……そうした、ささやかな日常を

奪ってしまうのがアーティファクトです。

かつての戦いを起こさないためにも、

アーティファクトを回収することが、

私たち、『精霊のスクオーラ』のお仕事ですわ。

胸を張れ……とは言いません。

でも、カノンが無闇に

自責の念に苛まれる必要もありませんのよ。

……そうね。わかってる。

カノンにはまた頼みたいお仕事がありますの。

ですから……今はゆっくり、

羽を休めてくださいね。

…………。

カノンの頭を一撫でして、

フィリカが側を離れた後も、

カノンは風にそよぐ花々を見つめていた。

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