アルパヨの子、ヤコブ

プロローグ

エピソードの総文字数=624文字

おれの名はヤコブ。アルパヨの子、ヤコブ。

私たちの師と「選ばれた12人」の仲間たちは、いつも、わたしと、ともにいた。

いまは全ては過ぎ去ってしまい跡形もない。
徒労だった。すべてが空しい。

わが師が、磔(はりつけ)にされている、このゴルゴダ(しゃれこうべ)と呼ばれる、陸の孤島のような場所には、師より他に、だれ一人、残っていない。わたしだけだ。

カラスたちは空に弧を描がきながら、ここにいる、3名の罪人たちをついばもうと、今か、今かと待っている。
 
罪人?
 
わたしの師が何の罪を犯したというのだろう?
 
遠くから見守ることしかできない悲しさ。
師よ、また、あのときのように、わたしを引き寄せて下さい。お傍にいさせてください。

マグダラのマリア、ヨセの母マリア、そしてサロメが、夫人たちが、わたしの横で、人目をはばからず大声で泣きじゃくっていた。

わたしは悲しさのあまり、涙さえも出ない。

『「選ばれた12人」の中で、拳を握りながら立ち尽くしているのは、俺だけなのか』

あの数年間は何だったのだろう。
けっきょく、だれも残らなかった。
他の弟子だちは、みんな散々に逃げてしまい、息をひそめ、どこかに行ってしまった…
この大切な今、どこにいるかもわからない。

残ったのは、現実は直視に耐えない、
激しい拷問を受けて肉塊に成り果ててしまった、
その哀れな師。

わたしの逃げなかったのは
何故なのか理由は分からない。

婦人たちが逃げ出さないのは
大きな覆い隠せぬほどの悲しみから。

では、わたしは何が?

2017/08/31 11:58

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