頭狂ファナティックス

風呂②

エピソードの総文字数=2,970文字

 紅月はときたま足先で銀太のペニスをまさぐっては快活な笑い声を上げた。しかし半年前に同じようなことをして、射精させてしまい、銀太を泣かせた事件があったので執拗ではなかった。紅月は混浴を明らかに楽しんでいたが、銀太は恥ずかしがっているばかりだった。
 紅月は相方をおもちゃにするのに夢中で、銀太はお互いにもう子供じゃないんだからと諌めてばかりだったから、少しばかり長く風呂に入っていることにも気がつかなかった。「ただいまー」と陽気な声が部屋の方から聞こえた。綴が朝食から戻ってきたのに気がついた二人は自分たちがはしゃぎすぎて時間も忘れていたことを知った。いくら幼馴染と言えど、高校生にもなって異性同士が一緒に風呂に入っているところを見られるのは具合が悪かった。
 部屋の方から「紅月ちゃん、どこー?」と綴の声が聞こえてくるなか、二人は耳語でこの状況をどのように切り抜けるか話していた。都合の悪いことに綴は紅月を探しているらしかった。そして綴は脱衣所まで入ってきた。
あ、お風呂入ってるの?
ああ、そうだよ。
 紅月は上ずりそうになる声を抑えながらも咄嗟に答えた。銀太は息を殺していた。
じゃあ、お姉ちゃんも入るー!
 思いもしなかった綴の提案に二人は魂消た。
いやいや、綴ねえ、俺は女の身体に興奮しちまう性質なんだぜ? そんなことしたら俺は狼になっちまうぜ?
何を言っているの? 昨日も一緒に入ったじゃない。そもそもルームメイト同士、遠慮することなんてないの!
 今日になっていきなり一緒に風呂に入るのを拒絶するのも奇妙な話なので、紅月は何を言っても綴が浴場に入ってくるのを悟った。
あ、紅月ちゃんのパンツ新しいやつ? かわいいー! 水玉模様なんだ。いつまでもこんなに子供っぽいのをはいてると、銀太くんに笑われちゃうぞ? くんかくんか。紅月ちゃんの匂いがするー!
 銀太と紅月は顔を近づけて、小声で会話をする。
おい、あの変態が俺の汚れものに夢中になっているあいだにどうにかするぞ。
大丈夫。僕ならこの場を切り抜けることができる。十秒あれば十分だ。
 銀太はコンプレックスを発動した。その手に刃から握りの部分まで一様に銀色に光る鋏が具現化した。
ばーん! お姉ちゃんだよ!
 綴が全裸で風呂場に入ってきた。その身体は十七歳にしては発達しており、背は紅月よりも頭一個分高く、胸は張り詰めた水風船のようで豊かだったが垂れることもなく、桃色の乳首はわずかに上を向いていた。腰は本当に臓器が入っているのか疑わしくなるほどに細く、その反面、尻は安産型だった。腰まで伸びている髪はバレッタでアップにしている。
 浴槽には紅月一人だった。一畳ほどの洗い場に黄色い風呂椅子と洗面器があり、壁には曇った鏡がかかっていた。それですべてだった。
 綴は洗面器で湯をすくい、何度か身体にかけてから湯船に入った。
朝風呂もたまにはいいねー。ご飯食べてすぐにお風呂に入ると身体に悪いって聞くけど。
 綴は自分の腕や肩を気持ち良さそうに撫でた。紅月は銀太がいた形跡が残っていないか、浴場を見回していた。そして何か期待したような目でこちらを見ている綴に気がついた。
そんなに俺を見てどうした?
 何かに感づかれたのか不安になった紅月は動揺を抑えながら言った。
いや、いつもみたいにおっぱい揉まないのかなって……。紅月ちゃん、お姉ちゃんのおっぱい揉むの好きでしょ?
そういう気分じゃないだけだ。蕎麦を食べたい気分のときに、イタリアンを出されても困るだろ?
よくわからないけど、今日は揉まないんだね。それはそれでお姉ちゃん寂しいな……。
 紅月はもちろん銀太が自分たちのやり取りを見聞きしているのを知っているために、いつものように胸に飛びつくことはしなかった。しかし目の前に綴の豊満な胸を出されると、自制が揺らいだ。綴も紅月がじっと自分の胸を見つめてくるのに気がついており、両脇を閉じてわざと胸を強調した。
 銀太が姉を取られたからといって、嫉妬を向けてくるとは思っていなかったが、いざこざが起きないとも限らないので、紅月は二人きりのときしか綴に甘えなかった。だが今のように裸体をさらされては、紅月の我慢にも限界があった。さらに言えば、銀太の見ているところで綴に甘える略奪欲も確かにあった。
 紅月は静かに身体を前に出すと、綴の乳首に吸い付いた。
あ、やっぱり甘えたいんだ? なんで今日は我慢しようとしたの?
別にケーキ食べたいわけじゃないけど、目の前にケーキあったら食べちゃうよなぁ、みたいな感じで……。
 一度口を離して言い訳を言ってから、再び紅月は乳首に吸い付いた。綴は片手で妹分の頭を抱えて、もう片方の手で左のこめかみから伸びる髪の房をいじくり始めた。
 銀太はその光景を複雑な感情で見ていた。紅月が綴に甘えているところを見てしまった罪悪感があり、いつも他人に強気で当たる紅月が軟弱な態度を取っていることに対する落胆があり、姉を奪われたような空虚感があり、何よりも美少女二人が戯れていることへの欲情があった。
 しばらく綴の乳首を味わっていた紅月だったが、満足すると胸の谷間に顔を埋めた。
ふわあああ……。気持ちいい……。精神的なペニスが勃起する
よかったよかった。
 綴は紅月の頭を撫でまわした。
そういえば、銀太くんはどこに行ったの?
 その言葉に紅月は全身が強張った。この浴場の中に銀太が隠れていることを見抜かれたと思ったからだ。しかし綴は違う意味で言っていた。
脱衣所に銀太くんの服があったから、こっちの部屋に来てたのかなって思って。先にお風呂に入ってたの?
うん、そのとおりだ。風呂から上がったあとは朝食を食べに行ったんじゃないかな?
 紅月は咄嗟に誤魔化し、どうやら自分が危惧したことにはなっていないようだと安堵した。
 結局、風呂から上がるまで綴は銀太が潜んでいることに気がつかなかった。紅月と綴は洗いっこをしたあと、風呂から出た。
 浴場から誰もいなくなると、天井についている換気口の蓋が開いた。そしてそこから湯船に右腕が落ちてきた。そのあとに、左腕、両足、上半身、下半身と続いて、最後には銀太の頭が落ちて、湯を跳ね散らした。銀太は自分の身体をばらばらに分解して、ずっと換気口の中に隠れていた。
 銀太のコンプレックスは『緑の家』という。具現化した鋏は溶けかかったバターを切るように、抵抗もなく物体を切り裂く。しかし切り裂かれた物体は分離していても、連続性を失っておらず、コンセントに繋いだドライヤーはコードを切られても稼動し続け、銃口を切り取られた銃は引き金を引かれると、分離した銃口の方から銃弾を撃ち出す。
 銀太は換気扇の中で身体を分解していたが、その心臓は動き、目は浴場を見つめ、耳は二人の声を聞き、手足の指は自由に動いた。そして切断した部分を合わせると、元の通りに接合する。これが『緑の家』の能力である。銀太は分解した身体を接合して、全身を組み立てた。
 コンプレックスには必ずシンボルが現れる。シンボルとは能力が具現化したもので、銀太のシンボルは鋏だった。シンボルはコンプレックスを発動した証拠として現れるだけのもの、実際にそのシンボルを使って能力を発動するもの様々だが、これらもこの物語の先でコンプレックスとともに紹介されるだろう。

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