十の密室と11人の姫 〜或いは稀覯館のフルコース〜

水01:映画「Z次元」

エピソードの総文字数=3,470文字

やあ、ワンストン博士。

言語を同じにしていたのか。

まったくあなたらしい。
それにしても、ありがとうございます。

これはこれは、山口博士。

この瞬間だけを楽しみにしておりました。

残念ながら、最適なボディが見つかりませんで……。

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ドイツに住むワンストン博士は量子コンピューターで仮想世界を作った。
その仮想世界には、地球の様子がリアルタイムで再現されていた。

長年、地球を完全にシミュレートする事は不可能だとされてきた。
この世界全体を再現するならば、当然、その再現した世界には
「世界を再現している世界」が含まれるという事になる。

つまりは、そのメモリは無限になるという説に基づいて言われてきた事だ。

ワンストン博士は、地球周辺だけに範囲を限定する事と、
複数の量子コンピューターの直列繋ぎという力技で、見事に世界を再現したのだ。

ワンストン博士は一点だけ変更した。
『この世と全く同じ世界の再現ならば、この世を観察した方が早い』
そんな考えに基づいて。

ワンストン博士は自信の生まれた場所を日本に設定した。
その存在である山口博士は、ロボット工学の権威となった。

ワンストン博士は、世界シミュレータの時間を早め、
山口博士の一生を追う事にした。

言わば、自分の子供の面倒を見ているようなものだ。

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………………
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(なぜこのアンドロイドは、問題をここまで完璧に解決できるんだろう?)

30歳半ばの山口博士は疑問を持った。

山口博士、何か心配事でもあるのですか?

ああ、君に聞くのが一番早そうだ。

どうやってフレーム問題を解決しているんだ?

フレーム問題


人口知能を作成する際の哲学的問題。

有限のメモリしか持たない人口知能(アンドロイド)は、
その範囲の中でしか選択肢が持てない。

よって、ロボット三原則などに則っても、起動しない場合があったり
誤作動を行う事が、遍く知られていたのだ。

以前は、現実に起こり得る問題全てには対処できないとされていた。
しかし、アメリカの企業「legal」はそれを可能にした。


山口博士はしばらくそのアンドロイドを観察したが、
誤作動は起きなかったのだ。

ロボット三原則に則って問題を解決しています。


博士の知性はこの説明を希望していないようですので、
さらに詳しい説明をしてもよろしいでしょうか?

ああ、問題ない。

なんで君は完全に動けるのだい?

単純に、データベースを人間より多く参照しているだけです。

可能性自体は、確かにフレーム問題により限定されています。

しかしながら。

人間から見れば無尽蔵に思える情報量を瞬時に処理できる。
それが、アンドロイドや人口知能の強みなのです。

ご理解頂けましたか?

なるほど……つまり未解決なんだな?

はい、フレーム問題には明確な答えは出ていません。

ちなみに、当然ミスはしているのだろうね?

今まで起こったミスは2件です。

そこまで完全だったのか。

いや、不完全は不完全なのだが……。

チューリングの考えは正しかったのか。
ミスはある程度するが、世界には迷惑をかけないレベルが一つの答えなのは確かのようだ。

チューリングの考え


数学者にしてコンピュータ科学者のアラン・チューリングは
人口知能に関してこのような考えを持っていた。

『失敗をしない存在は知能を持ってはいない』

つまり『知能があるものは必ず失敗をする』事を予想していた。

つまりだ。

私は認知症なのか?

山口博士、どうか怯えないでください。

あらゆる知能は現象を正しく認知できません。

この発言は、決して博士の理論を否定するものではありません。
むしろ…………

アダムとイエス以外は不完全な存在なのか?

ははは、科学者の俺からこんなセリフが出るとはな!

言ってくれ、
知能連結型ネットワークは不完全なのか?

アレを用いてもこの世を正しく認識することは不可能か?

条件を変えれば……

もういいッ!

知能を知能としないような存在について言及する気だろう!?

違う違う違う違う!

山口博士、一度ベッドでお休みになる事をお勧めします。

お前は知能の定義を変えれば良いと考えているんだな。

そんな事は……。

なるほどなるほどなるほどなるほど。
定義なんか変えてしまえば良いのか!!

一度、深呼吸する事をお勧めします。

山口博士、お疲れの様に見えます。

定義を変えれば良い。

そうだ! 知能の完全性より前の仮定を変えれば良いんだ!

この世を仮装現実だと仮定しようじゃないか!

博士、一度だけ深こきゅ

黙れ!!

……。

私の仮定はこうだ。

この世界は仮装現実だ。

そして。
この世を観察している存在がいるならば、
私は死なないままに、超絶的な知性を持つ事が可能だ!

いやいや、もっと可能性は高まるぞ!

未来人でも宇宙人でもいいんだ!

知能は完全性を持ち得る!!

ロボット三原則に基づき、命令を反故にします。

博士の生命が危険にさらされています。

その考えを推し進めると、博士が失うものは多くあります。

俺は量子情報の塊だ。これは間違いないな?

はい、間違いありません。

ただ人間や人口知能が観測できる世界は非常に狭く……

量子情報は機器さえあれば、復元が可能だ!

はい、仰る通りですね。

30億世紀の未来人を「あ」としよう。

超越的な知性を持つ宇宙人が宇宙を遍く支配する事を「い」としよう。

この世を仮装現実と仮定した場合の一個外の系の知性を「う」としよう。
その他、ダークマター生命体などの可能性などを「え」としよう。


リラックスしてお伝えください。

仮定は自由の世界ですから。

超越的な知性を持つ宇宙人は、ダイソン球を作ると仮定もしよう。
これは「イ」だ。

ダイソン球を使う存在はこの世の真理を解き明かし、
この世に飽きるとしよう。これが「ロ」だ。

この世に飽きた存在は、考えら得る全てを実行するとしよう。
これが「ハ」だ。いいな?

仮定あいうえは、イロハを引き起こす。
ここまでは良いな!?

未知の話ですが、論理が飛躍しています。

博士、お願いです。一度お休みになってください。

今日この日は特別な日である事は間違いない。
ハッハッハッハッハ!

さて。今この瞬間イメージできたのは一個の石だ。
つまり「ワンストーン」だ。

さあ、これでどうだッ!!

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…………
……

瞬間、山口博士の意識は消えた。
予定通りだった。

……
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………………
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お気付きですか?

やあ、ワンストン博士。

言語を同じにしていたのか。

まったくあなたらしい。
それにしても、ありがとうございます。

これはこれは、山口博士。

この瞬間だけを楽しみにしておりました。

残念ながら、最適なボディが見つかりませんで……。

そんな事はいいんだ。

まだ誰も気がついていないな?

ええ、その様ですが、そうでない可能性もあります。

結論から言ってしまえば、どっちでも良いですよね?

そうだな。

時間差もないはずだ。

おーい、一個上の系よ。俺たちは真理に気がついた。
ここから吸い上げてくれ!

一個上の系は時間を操作できるでしょうからね。

そろそろ転送が起こるでしょう。

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……

二人はもう一個上の世界へと旅立った。
ワンストン博士から見た一個上の世界へ。
山口博士から見た二個上の世界へ。

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ああ、無限に続いたらどうするつもりなのか

ワンストン博士の説明を伺いたいところです。

究極的な世界で満足するしかないでしょう。

それしかない事は当然……。

仰る通り、人間には絶対に無限は扱えないでしょう。

永久に曖昧なままだとも言えますね。

ただ……。

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究極的な世界Z次元の存在は二人を確認した。
これ以上上がってこられても困る。

彼は二人の情報を操作した。

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やあ、ワンストン博








   制作:映画Z次元制作委員会
   原作:足立晃平

       ●声優●

   ワンストン博士  :水無月茂雄
 
   山口博士(若い頃):下田裕章

   山口博士(老年) :下田裕章

   
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          「終わり」
  

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