放蕩鬼ヂンガイオー

05「ワシにいい考えがある」

エピソードの総文字数=1,763文字

「みんな完全におまえのファンだったじゃねえか!」
「きゃんっ!?」

 思わず、帽子ごと頭をはたいてしまった燦太郎。
 涙目で帽子をおさえるくまり。

「り、理屈さえわかっているのですから問題ありません。覆面AQたちは、ちゃんと一般的な燃えも大好物ですのでご安心を」
「やっぱり、なんかやだな……」

 くまりは目を泳がせ、頬をひくつかせ、汗をだらだらと垂らし、顔を真っ青にしながら改めてガッツポーズをした。

「く、く、く、くまり……ヒーロー大好きですから。燦太郎くんが好きなヒーローを、くまりが苦手なはずがありません」
「……ほんとに?」

 ちょっとヂンガイの様子を窺ってみる。

 なにやら神妙な顔で腕を組んでいた。

「怪しいのだ。……もっとちゃんと、やってみせるのだ」

 神妙というか、よく見るとニヤついていた。

「おまえ、LAEはどうだったんだよ」
「え、LAEはちゃんと検出されたのだ! でもちょっと、それだけでこの女をまだ信用はできないのだ!」

 たしかに。
 命を預けるような形になるわけだから慎重になるのは理解できなくもない。
 
 しかし、よくわからんヂンガイに日常をぶち壊されたひ弱な一市民として、組織の後ろ盾がある状況というのは正直のどから手が出るほど魅力的だ。
 戦力的に考えても、素人が思いつきで頑張るより専門家が協力してくれるほうがずっと良いに決まっている。

 ヒーローもののアニメならば近寄ってくる公的機関は下心があったりしてろくでもないことも多いが、現実問題、うちの家族だけで何とかするには事件の規模が大きすぎる。

 突っぱねて孤高の英雄を気取りたい衝動をなんとか我慢し、ここはヂンガイをなだめる方向で動こうと燦太郎は結論付けた。

「大丈夫だって、LAEのことだってちゃんと理解してくれてたじゃんか。無理いって変に迷惑かけんじゃねーよ」
「いーやーなーのーだー! この女をもっともっと困らせたいのだー!」
「それが本音なんじゃねーか!」

 すったもんだしてると、くまりが挙手をした。

「わかりました、そこまで仰るのならAQ主催で演習を開催しましょう。こちらとしても信用がない状態では共同作戦もままなりませんので、なんとか許可は下りるでしょう。是非くまりの実力をその目に焼き付けてください」
「ほお? 面白いのだ、そこまで大口を叩くなら見せてみるがいいのだ」

 真っ向からにらみ合い、視線同士の火花を散らす二人。
 なんか、相性よくないなこいつら。

「ヒーローとしての素養を判断するにあたり、この近辺で適切な施設はありますでしょうか。……おじいさま、専門店経営者としてお勧めのロケーションなどありましたらお知恵を拝借したいのですが。業者を呼んで臨時の会場を設営します」

 天甚の嗅覚が何か楽しそうなにおいを感じ取ったらしい。
 状況にそぐわない嬉々としたテンションでくつくつと笑いをこらえていた。

「ワシにいい考えがある。おめいら、水着を用意しとけ」
「……は? おじいさま?」

 天甚はくまりの横を通り抜けて覆面AQの皆様の元へと近づいていき、ひそひそと内緒話を始めるのであった。


   ■   ■   ■


「気が進みません」

 電車に揺られて一時間そこそこ。
 辿りついたのは大型のレジャープールだった。

 夏休みも本番、場内の混雑は相当なものだ。
 どこに立っていても絶叫系アトラクションの悲鳴や水しぶきが届いてくる。いかにも余暇を満喫している人々の活気に満ち溢れていた。

 炎天下のプールサイド、くまりは暑苦しい制服姿のまま呆然と立ち尽くしていた。

「どうしてくまりが、仕事中にレジャープールに来なければいけないんですか」
「少しでも能力が疑わしい女を認めるわけにはいかないのだー」

 戦闘スーツに浮き輪を携えたヂンガイに加え、悪目立ちするアロハシャツで決めた燦太郎と天甚が集まってくる。みな、受付で買った入場チケットを手にしていた。

 くまりは浮かない顔をしたまま、天甚から自分のチケットを受け取った。

「おめいのヒーローっぷりを証明しなきゃなんねーだろ? なら、ここがいちばんなのよ」

 くまりは、暗く長く重たいため息をついた。

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