放蕩鬼ヂンガイオー

1「本日、オレベースを卒業します!」

エピソードの総文字数=1,566文字

 オレベースのレジコーナーは、特注品である。

 ヒーローアニメの司令官キャラが基地で座っているような、いかつい機械椅子をイメージして作られている。
 普段はただのマニア向けインテリアにすぎないが、有事にはその無駄な大きさとデザインを利用して、上に人が立つステージとして機能させることが出来るのだ。

 お客さんと商品・代金のやりとりをする大切な台に店員が足を乗せるのはいかがなものかと燦太郎が意見したこともあったのだが、いざイベントで利用してみるとギャラリーは喜ぶばかりだったのでもはや誰も口出ししなくなった。

 そんないわくつきのステージに棒立ちし、頭をかきながら常連客たちの注目を集めているのは……ヂンガイだった。
 すぐ下の床でマイクを持って司会をしているのは正装の天甚である。

『みなさま、お静まりください! もう一度発表します! 当基地の専属コスプレイヤー、一番星ヂンガイさんは、本日、オレベースを卒業します!』

 ざわめく店内。

 天を仰いで不満をぶちまけるものもいれば、頭を抱えて泣き崩れる者もいた。
 おおむね全員、ヂンガイとの別れを惜しんでいるのは間違いなさそうである。

 燦太郎は騒ぎの渦中から距離をとり、レジからいちばん遠い壁に背を預けていた。
 
 仏頂面で腕を組み、常連たちのように別れを惜しむでもなく、かといって厄介者との縁切りを盛大に喜ぶわけでもなく、感情を押し殺すように、静かに鼻から息を吐いた。

 昨夜、ヂンガイの通信機へ未来のAQから連絡があったらしい。内容は詳しく聞かされていないが、未来と連絡が取れたということ自体が結論みたいなものである。

 大量のLAEを確保したことにより、放蕩鬼の修復が完了した。

 つまりヂンガイはもともと住んでいた世界、スピノザへと帰るのだ。
 店ではアルバイト終了のお知らせという形を取っているが、実際は本当のお別れになる。

『ですが、悲しむべきではありません! 別れがあるからこそ共にふれあう時間が尊いのです! 最終話があるからこそ物語は輝くのです! 別れを悲しむのではなく、ヂンガイさんの新しい未来を祝福してあげてください!』

 ヂンガイは愛想笑いでお茶をにごしているだけなので、天甚が一人で場を盛り上げている。
 それをどこかひとごとのように眺めながら、燦太郎は手に持ったおでん缶の汁をすすった。

『長い人生、いつかまた私たちの道が重なることもあるでしょう! それではみなさま! さようならではありません、次回もこのチャンネルに、チェインジ・ヂンガイオー! ヂンガイさんの新たな門出を祝って、乾杯!』

 音頭に合わせ、ヂンガイがおずおずと片手を挙げる。握られているのはおでん缶、酒の代わりのつもりだろうか。

 みなが手に手にビールやチューハイなどを振り上げて大騒ぎする。
 最後のお別れとばかりにヂンガイに群がり、声をかけたり、肩を叩いたり、思い思いの方法で最後のコミュニケーションをとろうとしていた。

 とはいえヂンガイが器用に対応できるわけがなく、目を白黒させながら慌てるばかりというのがいつものパターンなのだが。

「……み、みんな、のこと、忘れないのだ。……あんがと」

 などと目じりを赤くしてつぶやいたのだった。観客騒然である。
 常連たちはついにヂンガイがデレたなどと口々にはやし立てながらスキンシップを加速させる。歓待に応えるつもりなのだろうか、ヂンガイはあらためておでん缶を振り上げて、乾杯の音頭で周囲を沸かせた。

 ――不意に、眼が合った。

 条件反射でこちらの腕も動きそうになる。
 が、燦太郎は自分のおでん缶をじっと見つめたあと少しだけ目を泳がせ、そして……乾杯はせず、静かにもう一度汁をすすった。

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