三題噺のお部屋

東雲飛鶴

エピソードの総文字数=2,272文字

「西の山神と兎神と東の山神」東雲飛鶴

izuru_s

ざくざくざく……


わしが雪道を歩いていると、おなかが痛くなってきた。


おかしいな。


さっき食べた熊でも当たったんじゃろうか。

izuru_s

ざくざくざく……


わしは痛む腹をさすりながら、ねぐらに向かった。


さがせば薬草のひとつもあるじゃろう。


しくしくしく……


だけどやっぱり、おなかが痛い。

izuru_s

どうしたのか? そんなこわいかおして。

izuru_s

ああ、兎神か。


さっき喰らった熊があたったらしい。


腹がいとうてたまらんのじゃ。

izuru_s

ほう……。


それは気の毒に。


では私が薬を作ってやろう。


そこの切り株に座って待っているといい。

izuru_s

ああ……。それはたすかる。


ぜひたのむ。

izuru_s

そう言ってわしは切り株を枕に、その場でごろりと横になり、いつのまにか眠ってしまった。

izuru_s

起きろ、西の山神よ。


薬の用意が出来たぞ。

izuru_s

ああ……かたじけない。


よっこらしょ。


うう……冷えたせいか、少し痛みが増してきたぞ。

izuru_s

さあさ、薬をたんとこしらえた。


これを飲んで養生するといい。


私は体が冷えたので、これでおいとまするよ。


おだいじに。

izuru_s

ああ、ありがとう。


兎神は妙に嬉しそうな顔をしながら、跳ねて去っていった。

izuru_s

さてさて……。


ああ、兎神のやつ、こんなにたくさん薬をこさえてくれたのか。


ありがたい。ありがたい。


わしは、かたわらにうず高く積まれた薬の山に手を合わせた。


それは、大福のように白くて丸かった。


ひとつつかんで口に入れると、つめたくてきもちがいい。

izuru_s

ゴリッ


なにやら固いものが歯に当たる。


これはきっと薬のかたまりじゃろう。


薬は噛んではいけない、と聞いたことがある。


わしは、そのままのみこんだ。


胃の腑に薬が落ちると、少し腹がおもたくなった。

izuru_s

おお、薬がしっかり腹にはいったぞ。


よしよし。


わしは、白い丸薬をどんどんのみこんだ。


百ものみこんだ頃に、やっと薬はなくなった。

izuru_s

しかし、腹の痛みは減るどころか、ますます痛みが増していく。


いやいや、これから、これから。


薬が腹の中でごりごりいって、熊の肉をすりつぶしていくようじゃ。


いずれ痛みもおさまろう。


わしは、ねぐらに帰るために起き上がった。

izuru_s

よっこら……あれ?


どすん。


わしはなかば身を起こしたところで、ひっくり返ってしまった。


おかしいのう。具合が悪いせいじゃろか。


もう一度。


よっこら……あああ。


どすん。


やっぱり起き上がることが出来ない。


わしは仕方なく、ころころ転がって、大きな木の根元まで転がった。

izuru_s

そうしてわしは、木の根元でしばらく眠ることにした。


数日後。


わしは雪の中で目覚めた。


そろそろ起きるか。


わしは体を起こそうとしたが、重さと雪でうまくいかない。


じたばたしていると、木に積もった雪がおっこちてきて、さらに雪が重くなった。


こりゃあ、どうしようもないな。


わしは雪が溶けるまで、もうしばらく寝ることにした。

izuru_s

おいおい、おきろおきろ。


西の。こんなところでどうしたんだ。

izuru_s

あ……もう春か? 東の。

izuru_s

そうじゃ、西の。


こんなところでどうしたのじゃ。

izuru_s

わしは、東の山神に一部始終を説明した。

izuru_s

あっはっは。


それはおぬし、兎のやつに一杯食わされたのじゃ。

izuru_s

薬は一杯食わされたぞ。


それがどうした。

izuru_s

これだからおぬしはあほうだと言われるのじゃ。


おぬしが喰らったのは薬でもなんでもない。


石を積めた、ただの雪玉じゃ。


兎のやつはおぬしをからかったのじゃ。

izuru_s

そんなバカな。


このとおり、腹痛(はらいた)は治ったぞ。


少々体は重くはなったが。

izuru_s

だからおぬしはバカだと言うのじゃ。


数ヶ月も寝ておればはらいたなぞ癒えるわ。


それよりも、たくさんの石をくらって、自分で起きられぬではないか。


よおし、いまからおぬしの腹を割いて石を出してくれるわ。

izuru_s

ちょっとまてまて、自分で吐くから割くのは待つのだ。


わしは、口の中に指をつっこんで腹の中身を吐こうとしたが、重くて口まで上がってこない。

izuru_s

それみたことか。


だまってわしに任せるのじゃ。


なになに、案ずるな。きちんとあとで縫い合わせてやる。


そおれ!

izuru_s

じたばたするわしの腹を、東の山神は爪の先でつーっと切り裂いた。


ものすごく痛かったが、腹が重くてなにもできない。


東の山神は、わしの腹から石を取り出すと、ぽーんぽーんと向こうに投げた。


そうして、石の小山が出来るころ、わしの腹はからっぽになり、すっかり軽くなっていた。

izuru_s

さあ、おぬしの腹を縫ってやったぞ。


どうじゃ、軽くなったじゃろう。


これに懲りて兎神には気をつけるのじゃぞ。


あやつにはわしがあとで仕置きをしてやるからの。


じゃあな。

izuru_s

たすかったぞ、東の。あとで礼をする。


わしは東の山神を見送ると、縫った腹が癒えるまでしばらく寝て、そのあとねぐらに帰った。

izuru_s

またしばらくして腹が減ったので、熊か鹿を喰らいに、あの切り株のあたりに戻ってみると、腹から出て来た石を積んだところでなにやら声がする。


う~、う~、とうめき声がするので近寄ってみると、わしをだました兎神が石の下敷きになっていた。


どうしたのじゃ、兎の。えらくおもしろいことになっておるな。

izuru_s

あっ、あっ、西の。


ちょうどよかった。たすけておくれ。


この石の山をどけておくれよ。

izuru_s

それはそれはきのどくに。


じゃが、わしはこれから狩りにいくところ。


来年の春になったら助けに来てやろう。

izuru_s

そんな殺生な!


いま春になったばかりじゃあないか。


まるまる一年かかってしまう。

izuru_s

なあに、だいじょうぶ。


寝ていれば、すぐ春になる。


そう言ってわしは、その場から立ち去った。


なあに、眠っていればすぐ春になる。




その後、石の山ではいつもうめき声が聞こえるので、人も魔物も寄りつかない場所になったそうな。



                               (おしまい)

izuru_s

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