放蕩鬼ヂンガイオー

14「ヂンガイ、俺のLAEも受け取れ!」

エピソードの総文字数=2,286文字

「ぢ、ぢぢぢぢ…………ヂンガイオー! 合体、承ぉぉぉ――認ッ! ですッ!」

 くまりは腕を振り上げ、大仰なポーズで手帳を操作した。

 それに呼応して、ヂグソーを詰め込んでいたリュックサックが破裂する。大量のヂグソーが花火のように放射状に散り、急速に向きを変えてヂンガイに集まってきた。

「え、LAEは人間の熱い心! なら、くまりたちが頑張って燃えれば、いくらでも生み出せますっ! わああああああああああああ――――ッッッ!」

 くまり裂帛の気合。多少は頼りない掛け声かもしれないが、込められた気持ちは伝わってくる。

 そうだ。これで燃えなきゃ男じゃない。
 燦太郎は胸に拳をあてて、できる限りの燃える心をこめて口を開いた。

「ヂンガイ、俺のLAEも受け取れ! いけえええええええええええええッッッ! ヂンガイオ――――ッッッ!」

 心臓ヂグソーから青い光が伸びた。

 思いのほか大規模に膨れ上がった光の帯が、ヂンガイへと一直線に突き進む。

「っのだァッ! 人数分しかLAEがないなら、火力を一点に集中させるのだッッッ!」

 ヂンガイの右腕にヂグソーが集まって、組み合わさり――機械の篭手が生み出される。

 篭手は瓦のような装甲が積層されているデザインで、まるで古めかしい甲冑のような意匠に見えた。

 篭手から伸びた長尺な筒状装置の内部に光が集まってゆく。
 LAEは圧縮され、弾丸サイズの光の玉となって篭手へと装填された。

『なっ! なんですノ、それハ!?』
「ヒーローの必殺技に決まってるのだ! 自己鍛造LAE弾、装填完了ォ!」

 警戒し間合いを一歩退いたコソの懐へ、ヂンガイは臆することなく踏み込んだ。

 小さな鬼が吼える。

「白兵火縄銃・かみなり盃……じゃなくってぇ!」

 ヂンガイの右腕がコソの腹に叩き込まれた。

 篭手が脈動。手甲から伸びた筒の先端が起爆し、弾丸LAEが急激な加速をしてコソの内部に打ち込まれる。

「ガイオ・バンカァァ――ッッッ!」
『き、さマァッ!』

 ヂンガイが篭手ごと腕を引き抜いた。

 黒煙を吐き出す銃口に、ふっと息をひと吹き。コソに残された弾丸LAEが光を放ち、蒼い爆炎を上げた。
 
『ガ、……ハッ……』

 胴に風穴が開き、血を吐くコソ。

 終わった。これで勝負ありだ。

 ヂンガイはバックステップで距離をとり、燦太郎・くまりと合流した。

「手ごたえありなのだ。まだ息はあるみたいだけど、かなりの深手を負わせたはずだし」

 このままコソの姿は光の粒子と化して消えてゆくはず。

 なのだが。

『 吼えーる! まだ放蕩鬼を倒せぬのかァッ! 』

 ノイズ交じりの野太い声が響き渡った。どちらの方向から聞こえた……という感覚が全くない。城全体に声が充満しているような、不気味な音の広がりだった。

 コソが腹を抱えながら顔を上げる。
 よどみきっていた目に光がよみがえっている。

『ムカデクジラ様! 助けてくれますノ!?』

 コソは歓喜に打ち震えて天井へ両腕を差し出した。

 ――刹那。

 満身創痍のコソを『包み込むかのように』、地面と天井の両方から――無数の巨大な歯が生まれて噛み合った。

『――ぇ』

 噛み合った歯は壁のように大きく重なり、コソの姿はもはや見えない。

 コソが、歯に喰われた?

 宙に並んだ歪な歯の向こう側で、なにか硬いものを咀嚼する音が響く。

『ムカ、デ……くじラ、さ、ま……?』

 コソの声だけが弱々しく届いてくる。が、それもすぐに聞こえなくなった。

『 コソよ、貴様一人で勝てるとは信じていなかった。だが心配するな、元より絶望に落ちた貴様の心を使わせてもらう算段だ 』

 歯と歯の隙間から、どす黒いオーラが溢れてきた。

 それは直接ものこそ言わないが、心臓ヂグソーを介して込められた怨嗟が伝わってくる。

 痛み、悲しみ、憎しみ、戸惑い、後悔、猜疑心、復讐心、ありとあらゆる不の感情がダークLAEとなって噴出している。

『 しゃしゃ、よいぞよいぞ。ではそろそろ頂こうか、絶大零度ブキナイズ! 』

 部屋中に充満していたオーラがゆらゆらとうごめき、いまだ怪しく浮かぶ歯の壁へと吸い込まれていった。

 絶大零度ブキナイズ。
 これまでのヂゲン獣と同じく、歯の壁に外見の変化が起きるのかと燦太郎たちは身構えたが……別段何事もなく歯は嵌合を解き、城の壁材に油が染み込むように消えてゆく。

「なんだ? 歯の怪獣が暴れ始めるわけじゃないのか?」

 燦太郎は、ヂンガイとくまりを守るように背後に下がらせて辺りを警戒した。二人も状況が飲み込めていないらしく、姿勢を低くして身構えている。

 不意に――城が揺れ始めた。

 地震に近いが、もっと触れ幅が極端で震源の捉えどころのない感覚。立っていられない。
 地盤を揺さぶられているというより、城そのものを振り回されているような印象さえ受ける。燦太郎たちは三人で柱にしがみついた。

「くそっ、どうなってんだ!」
『 最大の力で葬り去ってくれよう。人間ども、ワシの腹から出てゆけい 』

 城内のステンドグラスが、端から順に割れ始めた。それぞれの向こう側から様々な色の闇があふれ出す。

 ヂンガイが闇を睨み、髪を逆立てた。ツノのように伸びた前髪が一本、ひとつの闇へと引っ張られるようにして揺れていた。

「あそこなのだ! 飛び込めしっ!」

 三人で手を取り合い、闇の中へと飛び込んだ。

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